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※問答無用というわけです《R-15》

R-15

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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

実は嫌です


 エーリカが珍しく真剣な表情をしているかと思えば。
「トゥルーデ、別れよう」
 付き合ってもないのに、別れ話を切り出された。
「もうトゥルーデには付き合ってられないの!」
 それはこちらのセリフだと、バルクホルンは思う。
 朝は起きないし、部屋は滅茶苦茶だし、ミーティングには遅刻するし、菓子がきれると駄々をこねる。それに一々付き合ってやっているのはこちらの方である。
「朝は起こしにくるし、部屋が汚いってうるさいし、ミーティングに遅れると怒るし、お菓子買ってくれないし! 付き合わされる身にもなってよ!」
「言い分がおかしいとは思わんのか!?」
 なんの遊びだ。
 露骨に苛々とした顔を、バルクホルンは浮かべた。
 仮に付き合っていたとして、エーリカの自堕落さはこれまで通りに違いなく、そうなれば別れて困るのはエーリカの方だ。
 別れ話を切り出す権利があると思っているのか?
 ……そもそも、付き合っているわけではないのだが。
 ともかく、こんな話題で愉快になれようはずはない。
 バルクホルンが睨みつけると、エーリカは姿勢を正し、ひた、とこちらに視線を合わせてきた。
「私の要求はひとつです」
「……ほう。言ってみろ」
 我慢だ。
 我慢しろ。
 こちらは年長者だ。
 ここで大声を上げるのは大人気ないではないか。
 バルクホルンは自分に言い聞かせた。
 だから、我慢。我慢するのだ……。
 エーリカが、口を開く。
「しんどいので、もっと甘やかしてください……」
「こっの馬鹿者がァ!!!」
 無理だった。

「あっトゥルーデ」
 廊下で会っても無視。
「トゥルーデトゥルーデ、ご飯の時間だよー」
 部屋で話しかけられても無視。
 一々注意されるのをうるさいと感じるなら、これで満足だろう。
 バルクホルンはエーリカに視線を向けることすらしなかった。
 だからエーリカがどのような表情を浮かべているのかわからない。
 傷ついた顔を浮かべているのかもしれないし、まったく普段通りなのかもしれない。
 どちらが良いというものでもないが、傷ついた顔をしてくれた方が、自分にとっては救いがある。
 そう考えて、バルクホルンは首を振った。
 別に傷付けたいわけではないのだ。
 ただ、自分が少し本気で怒っていることを、態度で示そうとしているだけ。
 ……子どもじみているだろうか。
「あ、あのさ……」
「…………」
 無言。そして足早に、何かを話しかけようとするエーリカの前を通り過ぎる。
 若干の、自己嫌悪。
 何に怒っているのか、自分ですらよくわからない。
 ただ、考えれば考えるほど許し難いことを言われた気がして、エーリカと話すきっかけを見失った。
 エーリカがちゃんとしていればいいのかというと、そんなことはないらしい。
 無視し始めてからのエーリカの生活には改善が見られるが、逆に、それを見るほどバルクホルンの苛立ちは募った。
 自分は何が言いたいのだと、まったくやりきれなかった。

「トゥルーデ」
 夜。
 ベッドに入ったバルクホルンは、震えた声を聞いた。
「怒ってる?」
 怒っているとも。
 寝たふりをしながら、バルクホルンは眉根を寄せた。
「何に怒ってるの」
 わからないと、謝れないよ。
 エーリカのか細い声に、バルクホルンの心が揺らぐ。
「教えて。教えてよ」
 無理だ。
 わかっているなら、バルクホルンも悩んだりはしない。
「私がちゃんとしなかったから?」
 そうかもしれないが、そうじゃない気もする。
「私がわがまま言ったから?」
 それもある、のかもしれない。
「別れようっていうのが、嫌だった?」
 ……そんなことは、ない。
「トゥルーデ、許してよ……」
 別れようと言われたから怒っているとか、まるで自分がエーリカに執着しているかのようではないか。
 依存しているのはエーリカの方であって、自分ではない。付き合ってもないのに別れようと言われたところで、痛くも痒くもない。
「そっちいってもいい?」
 バルクホルンは無言を通した。
 だが、拒否されなかったのをいいことに、エーリカの気配が近付いてくる。それはベッドの脇で止まり、ぺたりと床に座り込んだようだった。
「トゥルーデ、私、お別れしたくない」
「…………」
「トゥルーデは私と別れたい……?」
 無視、できなかった。
 かといって、どう答えればいいかもわからない。
 出てきたのは、中身のない、この場にそぐわない一言だった。
「そもそも、付き合った覚えはない」
「関係ないよ、そんなの」
 それを一蹴して、エーリカは続けた。
「トゥルーデは別れたい?」
「……さあ、な」
「別れたい?」
「わからん」
「別れたくない?」
「それも、わからん」
「じゃあ、私、いなくなってもいい?」
「それは……」
 嫌だ。
 癪だが、嫌だ。
「いなくって欲しいんだ」
 そんな、そんなわけ。
「……わかったよ」
「……っ」
 まったくの、無意識。
 気がついた時には、立ち上がりかけたエーリカの腕を掴んでいた。
「そういうことを、言うんじゃない……」
 バルクホルンはやっと、それだけを言った。
「私にいなくなってほしくないの」
「そんなわけ、ないだろう」
「じゃあ、別れたくないんだ」
「いや、それは……」
「別れたくないんだ?」
「……そうだ。そうだよ。別れたくない」
「そっかぁ……!」
 暗闇の向こうで、エーリカが笑ったのがわかる。
「んもう。トゥルーデは素直じゃないなぁ……!」
「……知らん」
「私もね、別れたくなかったよ」
 もう二度とあんなこと言わない。
 付け加えられたエーリカの一言で、バルクホルンの胸のつかえは、なくなった。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

掠れた世界


「本当だわ。駄目になってる」
 埃と空き瓶で埋まったアパートの一室。
 ねぐらとしているこの場所で、ソファに横たわるビューリングは、聞こえるはずのない声を耳にした。
「あ……?」
 眩しさに目を細める。住み着いて以来、一度も開けたことのないカーテンが開けられていた。
 窓から差し込む陽光。
 それをバックに、ビューリングは幻覚を見た。
「……飲みすぎたか」
 左手にある、ウイスキーの瓶を振る。残り三分の一まで減った琥珀色の液体が、耳障りの良い、魅力的な音を立てた。
「……別に、邪魔しなければ、なんでもいいか」
 幻覚が見えたところで、所詮何も出来はしない。
 そう思い直し、蓋を開けた瓶を口に運ぶ。
 だが、口に瓶が触れるより早く、それは幻覚に取り上げられてしまった。
「邪魔するに決まってるでしょ」
「……幻覚の癖に」
「ふぅん」
「……出ていけ」
 幻覚は、ビューリングの言葉通りに、黒く長い髪を宙に舞わせ、踵を返した。
 そうだ、出ていけ。
 たとえ幻覚だとしても、お前にこんな姿を見られたくはない。
 他に飲みかけの瓶はなかったかと、ビューリングは僅かに身を起こし、床を手で探る。
「……空か。これも。これもだ」
 くそ、と悪態が口を突く。
 どれもこれも、中身がない。
 また、買いに出なければならない。
 酒は必要だ。
 ソファに腰掛ける。
 二日、食事を取っていない。
 それ以前にも、食事は欠かしがちだった。
 体力がない。立ち上がるのも一苦労だ。
 煙草に火をつける。
 たったこれだけの動作で休憩が必要なほど、ビューリングは衰弱していた。
「……別に、いいさ」
「いいわけないでしょ」
 再び、聞こえるはずのない声。
 はっと顔を上げたビューリングの顔に、塊のような水が直撃した。
「…………」
 びしょぬれになった煙草の先端から水を滴らせつつ、ビューリングはぽかんとした顔を正面に向けていた。
 そこには。
「目、さめた?」
 幻覚が。
「あんたが駄目になったって聞いたから来てみれば、予想を遥に上回る駄目っぷりで驚いたわよ」
 智子の幻覚が、仁王立ちしていた。
「何、この部屋。酒瓶だらけじゃない。ご飯食べてんの?」
 幻覚の智子は、手に持っていたバケツを、無造作に床へ放り投げた。
 空っぽのバケツはガシャン、という音を立て、床を転がる。空の瓶に当たって止まったバケツは、水に塗れていた。
「なんとか言ったら?」
 柳眉を逆立て、智子は立っている。
「あ、その」
 咄嗟に言葉が出ない。
 最早用をなさなくなったタバコを摘まみ、指先でもてあそぶ。
 その後、ようやく出てきた言葉は、
「その、すまん」
 何故か、謝罪の言葉だった。
「本当にそう思ってるの?」
「……いや、わからない」
 頭がぼうっとしている上、何から何まで唐突だ。
「……そう。もう一杯水が欲しいのね」
「ま、待て……!」
 また水をかけられてはかなわない。
 バケツを広い上げようとする智子を止めようと、ビューリングは慌てて立ち上がった。
「……あ」
 足が、もつれた。
 蚊の鳴くような声が、喉から漏れ出る。
 声を出す力すら、ビューリングには無かった。
 空き瓶だらけの床が、スローモーションのように近付く。
 倒れる。
 働きの鈍い頭がようやく未来予想をはじき出した瞬間、ビューリングは温かな体温に抱き留められていた。
「……軽っ」
 頭上から、呆れたような、驚いたような声がする。
 だが、ビューリングはそのことよりも、自分を抱き留める胸からする、懐かしいにおいに目を細めていた。
「あんたねぇ……」
 弱々しく抱きつくビューリング。
 幻覚は、心底あきれたようにため息をついた。
「ちょっと、ビューリング」
「……ん」
「あんた、まだ私のこと幻覚だと思う?」
「……思わない」
「私は誰?」
「トモコ」
「わかってるじゃない」
「すまん」
「本当にそう思ってる?」
「思ってる」
「何について」
「疑った」
「他には?」
「…………」
「ほ、か、に、は?」
「飯、食ってない」
「……。まあ、いいわ。似たようなものだし」
「トモコ」
「何? なんか声がすごく眠そうよ?」
「ああ、すごく……」
 智子は、深い深い、ため息をついた。
「なら、寝たら?」
「起きたら、お前がいないかもしれない」
「いるわよ」
「嘘だったら、死んでやる」
「そっちこそ、寝てる最中に死なないでよ。無駄足になっちゃうんだから」
 じゃあ、寝る。
 それは言葉になったかならないか。
 ビューリングは眠りに落ちていく。
「本当、バカなんだから」
 微かに見えた智子の顔は、笑っているようにも、泣いているようにも見えて。
 どちらか確かめようとして、ビューリングの意識は途切れた。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

我儘に触れていたい


 彫刻にするなら、あの身体だ。
 彫刻など微塵の興味もないのに、シャーリーは勝手にそう思っていた。
 白く細く儚く柔らかく華奢で繊細で弾力に富んで滑らか。
 エロい身体だよなぁ。掌に収まる胸とか、細い腰とか、薄い肩とか、いろいろ含めて。
 あの身体を見る度に、むらむらと情欲が燻るのを感じずにはいられない。
 それだけではない。
 少年のような性格と、少女の理想のような身体のギャップも良い。触れているうちに、強がるのも忘れてウブな反応を返してくるのも良い。脱がせると、みるみるうちに白い身体が桃色に染まるのも良いし、裸を見られてかいた、薄い汗のにおいも格別にエロい。
 意識していないのだろうが、こちらの情欲のツボを一々突いてくるのだからたまらない。
 毎晩だって、寝室に連れ込んでヤりたい。
 ヤりたいことは色々ある。
 エロい服を着せかえたり、裸にひんむいて悪戯したり。ベッドに押し倒してセックスしたり、身体をくまなく舐めまわしたり。夜通し道具を使って泣かせたり、延々とキスしながら朝を迎えたり。時たま恋人の真似をしたり、首輪つけて手荒く扱ったり。
 全部が全部エロいことだけど、それがエイラとの関係だ。
 言っておくが、惚れているわけではない。
 お互い、好きな人は他にいる。
 だからこそ、なのだ、この関係は。
 未だ成就しない恋慕の情。
 募る一方の情欲が、二人に肉体だけの関係を持たせた。
 心の繋がりは、まったくと言って良いほどにない。
 どれだけ唇を重ねようと、どれだけ身体を交えようと、二人の気持ちはまったく動かず、戦友のままでしかなかった。
 大した関係ではないのだ。
 どちらかが、いや、恐らくはエイラが、思いを遂げたら終わりになる程度の関係である。
 しかしこの頃、シャーリーは思う。
 終わらせるのが惜しいと。
 意外と、寂しいのかもしれない。
 単純に、相性の良いセックスができる相手を失いたくないのかもしれない。
 もしくは、絶対に成就しない恋慕からの卑怯な逃げなのかもしれない。
 いずれにせよ、シャーリーの気持ちが最初から少しだけ変わっているのは、間違いようのない事実のようだった。
 当人は認めたくなかったが。

「……キスマークはやめろって」
 情事の後、裸で絡み合ったままのシャーリーを、無理矢理エイラは押し離した。
「サーニャにバレたらどうするんだよ」
「バレやしないって。あいつ、ネンネだろ?」
「し、知らねーよ!」
「ちょっと悪戯するだけだよ。いいだろ? 目立たないところにするからさ」
「駄目だって。ダーメ。こら、やめろって」
「……。そんなに嫌がることないだろ」
 恨みがましいシャーリーの視線を、エイラはさらりと受け流す。さっきまで泣きながら嫌々言って喘ぐだけだったのに、今は随分な落ち着きようだ。
「サーニャに見られなくても、ほかの奴に見られてバレるかもしんないだろ。そしたらお前も不味いんじゃないか? もし相手がお前だってバレたら、そっちだってオオゴトじゃないか」
「……そりゃ、そうだけどさ」
 渋々、シャーリーは身体を離した。
「何拗ねてるんだよ、キスマークくらいで」
 エイラが呆れたように呟く。
 キスマークくらい。
 ま、そうなんだけどさ。
 拒否されたらなんとなくもやっとするじゃん、何でもない事でも。
 シャーリーは溜息を付いた。
「お前だって私の胸吸いまくった癖に」
「なっ……!」
「赤ん坊みたいにさ」
「し、してな……、いや、したかもだけど、そんなには吸ってないし」
「あんなに強く吸ってさ。場所が場所だったら絶対痕残ってたなぁ」
 挑発的な笑みを浮かべたシャーリーは、まだ横になっているエイラを仰向けにさせ、その上に跨った。
「……もう一回やってよ」
「え。い、いや、もう今日は疲れたし……」
 顔を横に向けようとしたエイラの顔を、両手で無理やり押さえつける。
「どこでもいいからさ。ちょっと痕残してよ」
「は、はぁ……? いや、だからバレたら不味いって」
「私が気をつければいいんだろ? 問題ないよ。虫さされだって言い張るし」
「隠す気はねーのかよ……」
「だって暑いしなぁ」
 そう言って、シャーリーは汗でべたべたになった裸体を、エイラに押し付けた。
 胸がエイラの身体でに押し付けられ、形を変える。
 エイラがごくりと、喉を鳴らした。
 こいつ、絶対まだヤれるだろ。
「ここんとこにさ、頼むよ」
 首筋を、エイラの顔の前に差し出す。
「嫌だよ。目立つじゃん」
「平気だって」
「嫌だ」
 強情だな。
 シャーリーは再び恨みがましい視線を向けた。
「なんでそんなに嫌がるんだよ」
「なんでそんなにやらせたがるんだよ」
 別に深い理由はない。
 なんとなく、拒否られたから、意固地になっただけだ。
 それ以外に理由なんてない。
「ほら、そろそろどけよ。早くシャワー浴びないと、みんな起きてくるだろ」
 エイラはもう終わりだと言わんばかりに、シャーリーの下で身を捩った。
「それとも汗とか色々なニオイ混ざったままみんなの前に出る気かよ。一発でバレちゃうぞ」
 それもいいかな、と一瞬思ってしまう。
 とはいえ、それをやればエイラとこの関係を続けるのは無理になるだろうし。
「わかったよ、わかった」
 シャーリーは諦めて、身体を離した。
「まったく……」
 頭を掻きながら、半目でこちらを睨んでくる。
 非難するような視線。
 肩を竦めて受け流そうとしたシャーリーの顔が、エイラの両手にホールドされた。
「これで我慢しろよ」
 唇に、エイラの唇が触れ、一呼吸の間をおいて離れた。
「……なあ、エイラ」
「なんだよ」
「ムラッと来た。もう一回、もう一回だけ」
「はぁ!? やめろって! おい、おい!!」


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

持たざるもの


 器用に立ち回るのは、好きではなかった。
 自分を曲げ、人にへつらい、筋を曲げる。そんな生き方は、ビューリングのそれではない。
 媚びるのは、何よりも嫌いだ。
 娼婦のような笑顔で歓心を買うくらいなら、死んだ方がましとすら思う。
 そんな生き方をするビューリングを、人は奇人と嘲う。
 上等だ。
 ビューリングはその評価に満足していた。
 少なくとも、ビューリングに人並みの媚を求めたりはしない。
 人が避けてくれれば、それだけ人に関わる面倒事も避けられる。
 背負うものが無いのは、とても楽なことだ。
 そういった思いは、大切なものを失う度に、加速していった。
 持たざるものは、失わない。
 ビューリングの思想とは、そういうものだった。

「……」
 息も切れ切れに、ビューリングはスラッセンの街を歩いていた。
 周囲からは好奇の視線を向けられ、居心地悪いことこの上ない。
 もしもビューリングが身軽であったなら、汗を流しながら歩くことも、悪目立ちすることもなかったろう。
 だが、この日は一人ではなかった。
 背中に、酔いつぶれた智子を背負っている。
 ビューリングの顔の横で、すやすやと酒臭い寝息をたてる智子は、重荷以外の何物でもない。
 それを何故放り出さないのか、ビューリングが一番困惑していた。
 疲れた身体に染みるなどと言い出し、調子に乗って度数の高い酒をがぶ飲みして潰れた挙げ句、起きろと言っても起きないのであれば、あとは自分の責任ではないか。ビューリングの知ったことではないはずだ。
 それを放っておけなかったのは何故か。
 わからない。まったく理解できない。
 自分の中の理性が、愚か者と罵る。そして今からでも遅くない、どこか宿屋に預けて一人で帰れと勧めてくる。それを、感情が頑なに拒否していた。
 結局、悪態を吐きながら智子を背負い続ける。
 吐き気がするのは、酒のせいだけではないだろう。
 今、自分はらしくないことをしている。
 その意識が、ビューリングの中で強烈な不快感を発している。
 度し難いことに、智子を背負うことを、ビューリングの感情は喜んですらいる。
 何故、何故、何故。
 ビューリングの理性に、感情は言葉を与えてはくれなかった。
 歩いていると、ベンチが見えた。
 ビューリングは智子を下ろし、ベンチに座らせた。……といっても、泥酔して脱力した智子である。両腕をベンチの背もたれの後ろに回し、それが支えになっている。座らせたというよりは、引っかけたという方が正しいかもしれない。
 何でも良い。
 とにかく、煙草だ。
 火をつけたビューリングの肩に、智子が頭を乗せた。
 むせた。何度も咳をして、視界が涙に滲んだ。何度も何度も、煙草の火が消えるまで、ビューリングはむせた。目尻からは、涙が流れている。
 煙草のせいだ。
 そうに違いない。
 決して、絶対に、断じて、智子のせいではない。
 そう言い訳して、捨てられない自分から、ビューリングは目を背ける。
 捨てられないから、持ちたくない。
 ビューリングは、臆病な自分と、向き合うことができなかった。

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ジャンル : 小説・文学

プロフィール

萩原間九郎

Author:萩原間九郎
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