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恋に悩む娘は可愛いと思うがどこか親心


「まったく、呆れた」
 そう言いながら、醇子は微笑みを浮かべていた。
「……仕方がないだろう。こんなこと、今まで考えたことはなかった」
 その前で、美緒が拗ねたように、顔を横に向けた。
「ええ、そうね。美緒は自分の誕生日ですら忘れちゃうものね」
「返す言葉もないが、今回は忘れてたわけじゃない……」
「わかってるわよ、美緒が土方君の誕生日を忘れるわけがないってことくらい。それから、プレゼントを何にしようか考えすぎて決められなかったり、一週間くらいまともに寝ないで考えてたり、気付いたら明日が誕生日だったりってことも」
「待て、なぜ知っている!? 誰にも……、あ」
 顔を赤くして椅子から立ち上がり、言いかけたところで、美緒は自分が自爆したことを知った。
「あらあら、そうだったの。やっぱりねぇ」
 醇子は余裕の笑みを浮かべていた。
「……醇子」
「なにかしら」
「カマカケとは、意地が悪いとは思わないか……?」
「このくらい、鎌をかけたうちにも入らないわ。ところで、座らないの?」
「あ、ああ……。すわる……」
 美緒は腰を下ろした。
 抗議の言葉は、それ以上は出てこなかったけれども、その代わり、恨みがましい視線で無言の抗議を始めた。
 醇子はどこ吹く風で、さらりと受け流してしまったが。
「まあ、その様子じゃ中々決められないでしょうね」
 随分と近視眼的で、余裕がない。流石にそこまでは言わなかったけれども、美緒が目的を見失っているのは明らかだった。
 そもそも、美緒は不器用だ。
 あれこれと考えず、目に付いたものでも買って贈れば良い。これよりあれの方が喜ぶのではないか、とか、あちらの方が使い勝手が良いのでは、とか、そういう細かいことを、贈る前から考えるべきではない。
 自分がプレゼント、と言えるくらいの狡さも度胸もないのだし、なんだったら、候補を全部贈ってやるくらいのことをしても良いのだ。それだけの稼ぎはあるだろう。それは極端な例としても、ごちゃごちゃと考え込むくらいなら、そうした方がずっと美緒らしい。
 自分を見失って、思い詰めて。それで良い結果を出せた試しがないというのに。不器用なことだが、美緒は全然学んでいなかった。
 ため息が出る。まったく、ため息がでるほどに。
「可愛いんだから……」
 拗ねた美緒の頬は、心なしか、膨らんで見えた。

「それで、何を贈ろうと思ったの?」
 ため息混じりに、醇子は本題に入った。
 一途さをこじらせた美緒をからかうのは楽しいが、だからといって、それで一日を終える気はない。忙しい中、どうにかスケジュールを調整して休みまで取ったのだ。それだけでは、少し物足りないものがある。
「む……」
 美緒が、視線を向けた。多分に警戒の色が含まれている。醇子は苦笑して、
「悪かったわ。もうからかわないから」
「別に、気にしてはいない」
「うん」
「ただ、本当に困ってる」
「うん、うん」
「ちゃんと聞いてくれるか?」
「もちろん。そのために来たんだもの」
「そうか、じゃあ……」
 と言って、美緒は考えたものを並べ立て始めた。
 それはよくもまあこんなに、と思えるほどの数で、醇子は二十個まではちゃんと覚えていたけれども、それ以降は良さそうなものだけ記憶に留めておいた。
 主なものとしては、ネクタイ、シャツ、浴衣、時計といった実用的なもの、旅行のような形のないもの、それから、料理とも言い出したので、それだけは止めておいた。
「いい、美緒。料理だけは駄目。あなたが本当に将来のことを考えているなら、料理だけは絶対に駄目よ」
「なんで二回も……」
「なんでもよ」
 この時の醇子の顔には、鬼気迫るものがあったという。
「だ、だがな、醇子」
「駄目だったら」
「最近発見したんだが、茶碗一杯分のおにぎりをビー玉サイズまで圧縮できる方法が」
「……誕生日に兵糧丸贈ってどうするのよ」
 土方は美緒の手作りなら何でも喜ぶだろうが、誕生日に戦国時代の携帯食が贈り物というのは、いくらなんでも豪快すぎる。
 どうせなら米だけでなく精力のつくものも一緒に握れば良い。一粒で一晩動けるくらいの。
「とにかく、料理は駄目だからね」
「む。じゃあ、何がいいんだ……」
 肩を落としつつ、悩む美緒。
「装飾品も小物も、なんかありきたりな気がしてなぁ」
 それは、美緒の料理に比べればそうだろう。
「中々、心に残るものとなると」
 料理の場合は確かに残るだろう。トラウマが。
「やはりりょ……」
「旅行!? ああ、いいわね、旅行! とってもいいと思う!」
「え、いや」
「どうせなら、二、三日と言わず一週間くらい一緒にすごしてきたら良いんじゃないかしら!」
「……む」
「土方君も疲れがたまっているだろうし、美緒とゆっくり過ごせるなら喜ぶと思うわよ」
「そ、そうかな……。でも、旅行というか、一緒に旅館行ったりはよくするし……」
 それは醇子も聞いていた。美緒が帰国する度に、二人は決まった旅館に泊まるのだという。だが、醇子の提案は、まだ終わりを見てはいなかった。
「なら、たまには別のところも良いんじゃない?」
「別のところ?」
「思い出の場所。例えば、ガリアとか」
 美緒の頬に、赤みがさした。もう一息。醇子は確信した。
「どうせ、もうすぐガリアに帰るんでしょう? なら、土方君に休暇を取らせて連れてっちゃえばいいのよ」
「む、む……」
「ガリアも大分復興もして見るところは沢山あるし、一緒に思い出深いところを歩いてみるのも趣があるんじゃない?」
「そう、かも」
「なら、決まり。それにしなさい」
 心を揺らしつつ、またあれこれと考え出しそうな美緒を見て、醇子はそう決めつけた。
 どうせ土方の都合はどうか、とか、そんなことを考えだしたに決まっているのだ。愚問である。美緒に誘われて、土方が喜ばないはずはない。あの仏頂面に汗を浮かべて、時間を工面するはずだ。
 美緒は何か言いたげではあったが、元より乗り気にはなっている。否やのあろうはずもない。
「あ、醇子」
 別れ際、夕焼けを背に負い、美緒は醇子を呼び止めた。
「その、ありがとう」
 そして、はにかんだような、礼。
「気にしないで。それより、頑張りなさい。良い思い出にしないと、お祝いにならないんだから」
「ああ、わかってる」
「ああ、でも」
「頑張り過ぎて、ハネムーンにしないように」
 まだあなたには早いわ。
 夕焼けより赤くなった美緒に、醇子はそう付け加えた。


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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

雪花


 この旅館に止まるのは、何度目だろう。
 雪の積もる、古めかしいその宿を見上げ、土方は大きく息を吐き出した。溜め息ではなかった。どちらかといえば、深呼吸に近い。
 逸る気持ちを、土方は抑えこんでいた。
 この宿で、二人が初めて閨を供にしたあの部屋で、坂本が待っている。
 何も思うなという方が無理な話だった。
 坂本と逢うのは、決まってこの宿の、あの部屋である。坂本は特別な愛着を抱いているらしく、それは、土方にとっても同じことだった。
 気もそぞろに玄関を入り、案内するという中居を断って、土方は部屋へ急いだ。
 部屋は大分奥まった所にある。廊下を幾度も曲がらねばならないが、土方の足取りに迷いはない。板張りの廊下を泳ぐように、部屋を目指した。
 最後の曲がり角。そこを曲がると、目の前に、坂本が浴衣姿で立っていた。
「そろそろくる頃だと思っていた」
 土方を見上げ、それから視線を下ろし、はにかみながら、前髪を指先で遊ぶ仕草が可愛らしい。豪放さや凛々しさは、軍服と一緒に任地へ置いてきたようだった。
「……遅くなってしまい、申し訳ありません」
「本当だ。私がどれくらい待ったと思っている?」
 悪戯っぽい笑顔でそう言われては、土方も日頃の謹直な顔を保つわけにはいかない。
「本当に申し訳ありません」
 繰り返しながら、苦笑を漏らした。
 そして胸の内で、やはり中居の案内を断って良かったと呟いた。

 部屋で荷物を解く土方は、背後に視線を感じていた。
 言うまでもなく坂本の視線だ。
 そして聞くまでもなく、坂本が何を思ってそのような視線を向けてきているのか、土方にはわかっていた。
 坂本は、土方を急かしていま。早く終わらせろと、早くこっちを見ろと、言葉以上に雄弁に、その視線は語っていた。
 苦笑しつつ、鞄の中から包みを取り出した土方は、ゆっくりと、坂本に向き直った。
「中佐」
 そう呼びかけて、包みを差し出す。
 二人は相変わらず、「土方」と「中佐」である。それについて、違和感を抱いたことすらない。
「これは?」
 怪訝な顔を、坂本は向けた。
「贈り物です。先日街で見かけ、中佐に似合うかと」
「誕生日ではないが……」
 どこかつれないようなことを言いながら、坂本は落ち着きなく前髪をいじる。
 土方は微笑んだ。
「どうしても贈りたかったのです。口実を考えるより先に買ってしまい、結局浮かばぬまま、こうしてお願いしています」
 受け取って頂けませんか。
 そう続けられ、坂本は顔を照れさせながら、ためらいがちに包みを受け取った。
 中身は、帯だった。
 濃紺の生地に、刺繍された白い小さな花びらが無数に舞い、また、それがまるで雪のように、下側に線を作っている。
 坂本はしばし、見入った。
「い、いいのか、本当に」
「気に入って頂けたなら」
「あ、ああ。大切にする」
 坂本はいつまでも、花びらを指先でなぞっていた。

「あっ、あ」
 うわずったあえぎ声を、坂本は漏らしていた。
 うつ伏せで腰だけ上げた坂本に、土方は覆い被さり、二つの乳房に手をかけ、坂本の横顔に自分の顔を密着させながら、容赦なく腰を振っていた。
 土方が腰を引き、坂本の背を、ぞくぞくとした痺れが走る。
 土方が腰を突き入れ、坂本の頭の中で、大きな痺れの塊がはじけた。
 最初は抑えていた声も、それを繰り返されるうち、理性が飛び飛びになり、気がつくと、はしたない声であえぐようになってしまう。
 その声に土方は興奮を強め、腰を打ち付けるのだった。
 初めは痛がった坂本も、逢瀬を重ねるうち、身体が順応したのか、快感を覚えた。意識してかしないでか、自分から腰を振るほどである。
 好みの体位というものもある。覆い被さる土方の背に手を回し、しがみつくようにするのが、坂本は好きだった。
 ただ、今日は体勢が違う。
 普段は嫌がる後ろからの体勢を、今日は坂本が望んだ。
 坂本の手は、枕元に延びている。
 そこには帯が広げられていた。
 涙に潤んだ瞳で、口から情けない声を漏らしながら、その手は帯を、優しく撫でている。
 行灯の光が白い花びらを金色に光らせ、それが美しい。
 坂本は、気をやるまで、帯を握りしめることなく、優しく、優しくなで続けていた。

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 雪の降る静かな街路を、坂本は歩いていた。
 その顔は憂色に満ちている。
「はあ……」
 この日十数度目の溜め息が、坂本の口から漏れた。
 慣れぬ仕事に疲れたわけではない。
 坂本は、悩んでいた。
 最初に夜を共にしたその日、土方が初めてでないと言ったことが、今更ながらに気にかかり、仕事に逃避でもしなければやっていられない有様だった。
 どんな女を、どういった経緯、どういった関係で、どのように抱いたのか? 土方はその女、もしくは女達をどのように思っているのだ? まだ、そのことを覚えているのか。覚えていたとして、自分と比べてどうなのか……。考え出せばきりがない。
 幾度かの逢瀬を経て、二人の絆は深まっているはずなのに。どうして、不安に胸を締め付けられねばならないのか。
 つまらぬことだとわかってはいた。しかしそれだけに、こだわる自分が嫌でもあった。
「くそっ」
 やりきれない気持ちは、濃い霧のように坂本の心を覆う。
 以前の自分なら、どうしただろう?
 なんの遠慮もなく、堂々と聞いただろうか。過去、お前と関係のあった女について教えろと。
 馬鹿げている。まったく、馬鹿げている。そんなことを聞けるほどの無神経さなら、そもそもこうして迷ったりはしない。
 惰弱な人間になった。その苦い認識が、坂本にはあった。
「……ただいま」
 暗い玄関をくぐり、一人で住むには広すぎる家に、坂本は帰りついた。一人だけのこの家に、挨拶を返す人間はいない。虚しく響くだけである。それでもつい口にしてしまうのは、無意識に寂しさを紛らわそうとしているせいかもしれなかった。
 坂本は灯りも付けず、自室に向かった。住み始めて一年が経つ。目をつぶっていても歩き回れるくらいにはなっている。
 食事も風呂も、外で済ませてきた。やることは何もない。これ以上余計なことを考える前に、さっさと着替えて寝てしまいたかった。
 服を脱ぎ、寝巻きがわりの浴衣に袖を通す。帯は土方から贈られたものだった。締めているのは腰なのに、何故か、胸が締めつけられるようである。他の女も、同じように帯を受け取ったのだろうか。そんなことを考えては、惨めな気持ちに襲われるのだ。
 女らしさに欠ける。そのことが気にかかって仕方がなかった。化粧の仕方もわからず、着飾ることも知らない。身体は未だに筋肉質で、柔らかみがないと思っている。凛々しいだとか麗しいだとか、そういう褒め言葉を頂戴することは確かにあるけれども、言われるたびに坂本は、女性らしさがないと皮肉られている気がした。
 眠れ。眠るんだ。
 身を横たえ、布団を被る。何を考えても、今はいい方向に向かいそうになかった。
「土方……」
 小さな声で、土方を呼んだ。
 突然、枕元の電話が鳴り出した。まるで、坂本の呼びかけに応えるかのように。
 慌てて飛び起き、受話器を取る。
「坂本だ」
『中佐。土方です。お休みだったでしょうか』
 心臓が飛び跳ねるようだった。土方から見えるわけもないのに、いそいそと浴衣を直し、手櫛で髪を整える。
「い、いや、起きていた。その、眠くはないし、暇を持て余していてな」
『それは良かった』
 電話越しの土方の声は、顔をあわせて話す時よりも、少しだけ低い。床を共にするとき、耳元で囁く時の声と似ていた。
『実は、この頃中佐が何か、思い悩んでおられるようだという話を耳にしまして……』
「……っ!」
『何か、私で力になれることはないかと思ったのですが』
「い、いや、大したことではないんだ。その、ちょっと気になることがあってな……」
『それは、機密に関わることでしょうか』
「いや、そういうわけではないが」
『よろしければ、お聞かせくださいませんか』
 土方の声は、この上なく優しい。この声に甘えてしまいたいという衝動を、坂本は堪えなければならなかった。
「気にするな。大したことじゃない」
『中佐。私では、お力になれませんか』
 いつになく食い下がる土方。
『私では力不足でしょうか』
「そうではない、そうではないんだ。……その、言うなれば、恥、なんだ。聞けば、幻滅するかもしれな」
『致しません。絶対に』
 決然と言い放つ土方。坂本は瞼を閉じた。そこに、土方の真剣な表情が、くっきりと浮かんだ。
「……ぜ、絶対だ。絶対だぞ。聞いても幻滅してくれるなよ」
『必ず』
 坂本は、深く息を吸った。
「お、お前の、昔の女について、知りたい」
 電話の向こうで、土方が絶句したのがわかる。
「だ、だから言ったんだ!」
『い、いえ! 中佐、お待ちください! 予想外の質問だっただけで、幻滅はしておりません……!』
「……本当か」
『勿論です……!』
「それで?」
『は』
「それで、教えてくれるのか?」
『わ、わかりました……。と言いましても……』

「……そうか」
『ご満足、いただけたでしょうか』
「うん。今になってみれば、どうしてこんなことで悩んでいたのか、というくらいだ」
 土方には、付き合った女性はいなかった。すべて上官や先輩に連れられて行った、遊び先での出来事だったという。
 愛した女性は中佐が初めてです。
 土方のその一言が、何よりも坂本を満足させた。
『予め、申し上げておくべきでした。本当に申し訳ありません』
「あ、謝らないでくれ! その、私がどうすればいいか、わからなくなる」
 電話の向こうで、土方が笑った。つられて坂本も笑う。
『他に悩まれていることはありませんか?』
「いや、もうない。十分だよ。気が楽になった」
『それは良かった……。それでは、中佐。おやすみなさい』
「ああ、おやすみ……。あ、土方!」
『はっ』
「そ、その、愛してる、ぞ」
『え、』
 土方の答えを聞く前に、坂本は勢い良く、受話器を置いた。
 憑き物の落ちたような顔で、布団に潜り込む。
 腰を締め付ける帯が、土方に抱かれているようで、今は心地よかった。
 今日は、よく眠れそうだ。
 そんなことを考えながら、静かに眠りに落ちた。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

Strike Witches 1947 - Cold Winter - After Story B

※エロ有り注意。18歳以上の方のみご覧ください。

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テーマ : 二次創作:小説
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冬のある日、境内にて

 とある神社の境内、紅葉の敷き詰められた参道の石畳の上に、坂本と土方は、身を寄せ合うようにして立っていた。
「すまないな、こんなところに付きあわせて」
 傍らに立つ土方を見上げ、坂本は申し訳なさそうに眉をひそめる。
「いえ、ご一緒させていただきたいと無理を言ったのは私ですから」
 そう言いながら、土方は油断なく辺りを見回している。坂本はバレないよう、こっそりとため息を吐いた。土方が最初から護衛のつもりでついてきていることは、坂本にもわかっている。しかし、それでも、少しくらいは、自分と一緒の時間を楽しんでくれてもよいではないか……。
 甘いにおいを立てる落ち葉の道を荒っぽく踏みしめながら、坂本は境内を見てまわる。
 昔、まだ自分がまだ訓練を受ける身でしかなかった頃、よくこの神社に来たものだ。つらいことがあれば、この神社の裏で泣いたものだ。友人と歩いた小さな縁日は、いつか戦争行かなければならないのだということも忘れ、ただ楽しむことができた。正月には必ず初詣に来て、北郷先生たちと並んで手を合わせた。それだけではない。この場所には、大小様々な思い出が詰まっている。
 それが魔女を引退した今、無性に懐かしくなった。扶桑に帰国するとき、なんともなしに思い出したのだが、居ても立ってもいられなくなってしまったのだ。
 土方は、数歩後ろを着いてくる。こんな所で自分を襲う者など、いようはずもないのに……。
「土方」
「はっ」
「こっちにこい」
 坂本は無理やり腕を掴んで横に並ばせた。腕を組む姿勢になるが、仕方が無い。土方はすぐに離れていこうとするからだ。それに、このあたりに人影はない。それならなんとか羞恥にも耐えられよう。
 土方は困惑しているようだが、嫌がってはいないようだ。ただ、護衛の事を気にしているらしく、周囲を注意深く見回すのは続けている。余程無用と言おうかとも思ったが、そんなことでこの苦労性が警戒をやめるはずもないし、理由はどうあれ自分を守ろうとしてくれていると肯定的に考えて、無言でいることにした。ただし、腕はしっかり組んだまま。
 土方が時折困ったような視線を向けてくるのを、いい気味だと受け流す。それはなかなか悪くない。境内を一周する頃には、大分溜飲も下がっていた。
「この後はどうされますか?」
 鳥居の前に戻ってきた所で、土方がこれからの予定を聞いてきた。
「今は何時だ?」
「十四時を少し回ったところです」
「ふむ」
 十八時に会食の予定があるが、まだ時間に余裕があるらしい。どうしたものか。
 坂本が考え込んでいると、鳥居に臨む階段を登って来る者がある。坂本は慌てて腕を離すと、三歩後退り、土方から距離を取った。
 姿を表したのは、二人の老人だった。矍鑠とした老爺が、妻女と思しき老婆の手を引きながら、一段一段、ゆっくりと階段を登ってくる。
 階段を登り終え、拝殿に向かう二人に道を開けながら、坂本と土方は会釈をした。
 会釈を返した老人たちは、参道をゆっくりと歩いて行く。
 老爺は腰の曲がった老婆に手をかしながら、一歩一歩、老婆の足取りを確認するように歩を進めていった。老婆は全てを委ね、老爺の言うことにはい、はいと上品に頷いている。
「ご夫婦でしょうか」
 土方が呟いた。
「恐らくな。そうでなければ、ああまで献身的にならんだろう」
 頷きながら、坂本の胸には言いようのない感情がわだかまっていった。それが羨望や、憧憬と呼ばれるものだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
 老いてなお、あのように誰かを愛せるものだろうか。
 そもそも、これまで誰かを愛するという経験を、坂本はしたことがない。
 今は土方を好きだと思えるが、果たしてこれが、愛情と呼べるものなのだろうか。先日の、ガリアでの事件で土方に助けられ、その感謝の気持ちを勘違いしているだけなのではないか。
 その疑問は絶えずつきまとい、坂本は戸惑っていた。
 そこへ、この老人たちが現れた。二人の寄り添う姿は、坂本にとっては衝撃だ。二人はきっと死に別れるまで、身を寄せ合い続けることだろう。それこそ、本当の愛のあるべき姿ではないか。
 自分の土方への思いが、この上なく軽く、稚拙なものに思えてくる。
「あのお二人は、本当の夫婦なのでしょうね」
 土方のつぶやきに、坂本は顔を上げた。
「長い年月を共にし、お互いの存在が空気のようにあって当然のものになったからこそ、あのように自然に相手を気遣えるのでしょう」
「そう、思うか」
「無論、深く愛しているからだとは思います。ですが、愛というのは自覚出来るものが全てではないでしょうし、意識してどうする、というものでもないのでしょう」
 なんにせよ、自分が結婚することがあれば、あのような関係にまでなりたいものです。土方はそう付け加えて、言葉を締めた。
 参拝を終え、去っていく老人たちの背を見送りながら、坂本は土方の言葉を思い出していた。
「自覚できるものが全てではない、か」
「は……?」
 離れた位置にいる土方には、聞こえなかったらしい。
「いや、なんでもないさ。今日は来て良かった」
「何よりです。またお出かけの際は声をおかけください」
 ありがとう。
 坂本は最後にそう言って、帰路についた。
 何についての礼だったのかは、坂本にもわからない。ただ、今日一日だけのありがとうでないことは、確実だった。

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プロフィール

萩原間九郎

Author:萩原間九郎
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