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ハヤサ、ミライ

 私が見る夢には、いつもお前がいる。
 笑っていたり、怒っていたり、表情はそれぞれだけど、お前がいるんだよ。
 ああ、わかってる。これは夢だ。切なくなるほどに、ただの夢。有り得ない未来。切望する未来。絶望が終着駅の、夢物語。望めば望ほどに、夢見ればゆめみるほどに、待ち受ける喪失は大きくなる。
 ……でもさ。私の夢が終わるとき、お前が少しでも私に心を残してくれたとしたら、それだけで、私が再び立ち上がる理由に、なると思うんだ。
 だから、だからさ。なあ、バルクホルン。今だけでいい。未来はいらない。まばたきを一回我慢して、その分だけ、私を見てくれないか。一瞬も刹那も、それすら利用して、私はお前の心に私を置いておきたい。私たちのオワリは、そう遠い話じゃないんだから。

「よっしゃ! イチバーン!」
 あるはずのないゴールテープ。私は人差し指を天に向かって突き上げて、なんら抵抗を感じることなく、突き出た胸でそいつを切った。
「くそっ」
 二番目にゴールしたバルクホルンが、息も絶え絶えに、悔しそうな悪態を吐く。
「まだまだですなあ、大尉殿?」
 にやにやと挑発するように、私はバルクホルンを見下ろした。
「徒競走にこだわってばかりとは、あまりにも情けないぞ、大尉……。足の速さだけでは、ネウロイは倒せん……」
 お前もこだわってるみたいに聞こえるぞ。
「負け惜しみ?」
「真理だ!」
 そりゃそうだ。それくらい私にもわかる。負け惜しみが多量に含まれてることも。
「いいか、負け惜しみではない、負け惜しみではないぞ、リベリアン……。私は日々身体を鍛えている。近日中に抜けるハズだ……。だからいずれ、お前は足ですら私に及ばなくなる……」
「私もトレーニングしてるって発想はないのか?」
「してないだろ……」
「まーな」
 しなくても抜かせるつもりなんてさらさらない。いざとなったら固有魔法でブーストかけるし。訓練にならないって少佐には怒られそうだけど。
「休憩ッ! 各自昼食を取り、一時間後にこの場所に集合しろ!」
 少佐の怒号、と言っちゃ失礼か。凛とした号令が飛び、訓練の午前の部の終了が告げられた。
「さ、飯食いに行こうぜ」
「ああ……」
 そう応えたバルクホルンの顔には、まだ悔しさが滲んでいた。この負けず嫌いめ。どれだけ悔しい思いをしてるんだ。
「まあ、お前のことだから、そのうち本当に抜かれるかもしれないけどさ。でも、この速さは私の拠り所だ。そう簡単に抜かせるつもりはないよ」
「……わかっている。だからこそ、抜かしてやりたいんだがな」
「イジワル」
「生意気なやつの鼻っ柱は、定期的に折ってやるのが年長者の務めだからな」
 嘘付け。妹系と見ると、それこそ相手がどん引きするくらいに甘やかすくせに。
「やっぱりアレか? ライバル心?」
「馬鹿な。私がお前をライバル視する理由など皆無だ」
「じゃあ、私にかまってほしい?」
「そんなわけあるかァ!」
「え、なんでむきになって否定すんだよ……。怪しい……」
「……おい。後生だからそこで引いた態度を取らないでくれ」
「そうかぁ。寂しいのかぁ。それなら私が大人の余裕で付き合ってあげないことも……」
 みしり。付き合ってあげないこともない。そう言いかけた私の腕で、骨の軋むような音がした。
 ……私の腕?
「いだだだだだだだだだ!!!!」
 バルクホルンが握力全開、私の腕を握りしめていた。それはそれは、大層爽やかな笑顔で。
「右腕にサヨナラは言ったか、シャーリー?」
「痛えええええ! マジで握りつぶす気かお前?」
「いや、引っこ抜く」
「そんなことしようとするやつ、生まれて初めてだよ!」
 そんなやりとりをしている間にも、私の右腕は悲鳴を上げ続ける。なんて握力。もうヒビの二、三本、余裕で入ってるんじゃなかろうか……!
「悪かった! からかって悪かったって! だから離せ! ほんとに折れる……ッ」
「……そうか。なら、リピートアフターミー」
 ……何故突然、カタコトのブリタニア語を? 一瞬痛みも忘れて、私は胡散臭いものを見るような視線を、バルクホルンに向けた。
「ワタクシハ、アナタサマノ、チュウジツナ、
イモウトデス」
「忠実って妹につける言葉じゃないと思うぞ!?」
 こいつの中の妹の定義は深淵に過ぎる……!
「なに、冗談だ」
 そう言って、バルクホルンは私の腕から手を離した。
「お前はどう頑張っても妹にはなれん。エイラと同じように。残念だったな」
「どこを悔しがればいいか、本気でわからん……」
 手を離されても、右腕からは全然痛みが引かない。さすっていた左手を離し、握られていた箇所に視線を落として私は驚いた。そこにはくっきりと、紫色に鬱血したバルクホルンの手形があった。
「なんて馬鹿力……。ゴリラかお前……」
「馬鹿は余計だ」
 ゴリラも否定しとけ。年頃の乙女なんだから。
「ほんと、負けず嫌いなのな……」
 驚きを通り越して、呆れてしまうくらいに。
「別に、性格が負けず嫌いというのは否定せんが、それが全てではないぞ。ちゃんとした理由がある」
「ほう」
 私が視線を向けると、バルクホルンは姿勢を正し、ごほんと咳払いをひとつ、説教でもするかのように、改まった様子で口を開いた。
「年長者の勤めとして、常に若い者の手本とならねばならん。そのためには簡単に負けてはならないし、もし負けたとしても、勝つ努力を怠るべきではない。負けてへらへら笑っている人間など、手本とされるはずもないからな。まあ、お前やハルトマンのように、私を真面目すぎるというやつはいるが……。それにしても、いつ手本とされてもいいよう心構えだけは解かないつもりだ」
「真面目だねぇ」
 カッコイいとは思うけど。でも、私には真似できないし、常に張りつめてるところとか、結構危なっかしいんだよな。そこに思いをいたしたことは……。まあ、ないんだろう。こいつのことだから。
「それを言うなら、お前が徒競走……、いや、スピードにあそこまでこだわる理由が、私には理解できない」
「そうか? 唯一の長所だし、そこを売りにしたいってのは普通だろ?」
「いや、お前は速さ以上に良いところはたくさん持っているだろう。自覚できているはずだ」
「ぶっ」
「どうした?」
「いや、なんでも……」
 まさか、不意打ちで褒められて照れたとか、流石に言えない。っていうか、突然面と向かってあんなことを臆面もなく言ってのけるとか、どれだけ大物なんだ。幸い、バルクホルンはそれ以上突っ込んでくることはなく、言葉を続けた。
「何故、そんなに速さにこだわる?」
「何でって言われてもな。好きだから、としか」
「ふむ」
 バルクホルンは納得したような、そうでないような、曖昧なうなずき方をして、私を見つめた。
「なあ、バルクホルン。お前、もしかして、私は速さが全部だと思ってる、とか考えてないよな」
「ちがうのか」
 ちがう。全然ちがう。
 例えば、今こうしてお前といる時間。バルクホルンといると、時間の流れがすごく早い。私には、それが勿体無い。こういうときくらい、ゆっくり流れてくれてもいいと思う。
「遅い方がいいものも、ある」
 流石に、全部は言ってやらないけど。
 それでも、 バルクホルンはどこか安堵したように微笑んだ。
「まあ、それがわかっているなら良いか。速さが全て、などと言い出したら、説教してやろうと思っていた」
「なんだよそれ」
「なんというか、な。お前が速さを求める姿は、早く未来へ行きたいと、今をないがしろにしているように見えるときがある」
 そんなこと、ない。
「気を悪くしないでくれ、シャーリー。私の思い過ごしだったようだ。だが、時々危なっかしくて心配する」
 的外れの心配、とは言えなかった。確かにそういう気分の時もある。辛いとき、悲しいとき。身体を速さの世界に置くことで、どこか救われた気分になる。辛さや悲しみを振り切って、未来へ飛んでいけるような気さえする。だから私は速さから逃れられないのかもしれないと、ふと思った。
 だが、そんなことよりも、私はバルクホルンがそれに気づけるくらい、私をみていたということに、膝が篩えるほどの衝撃を受けていた。
「よ、よく、わかるな」
 声は、震えて、いないだろうか。嬉しい。泣きそうなくらいに。
「お前のことだからな」
 やめろ、やめろよ。冗談でもそんなこと、言うなよ。そんな風に、優しく笑いながら、そんなこと、言わないで。速さを追うことが、できなくなってしまう。だって、私が速さを求めたら、お前を置いてっちゃうじゃないか。速さの世界はお一人様専用だ。お前と一緒には、いけない。
「どうした、シャーリー」
「なんでも、ない」
 なんでもない。そう、なんでもない。お前がいる未来を想像して、速さを捨てた未来を想像して、泣き出しそうなくらい幸せな未来を夢見たりなんか、していない。
「変なこと、言ったかな」
 バルクホルンはがりがりと、頭をかき。
「そろそろ食堂に行こう。休憩が終わってしまう。昼食を食いっぱぐれるのは、御免だからな」
 そう言って、背を向けた。
「バルクホルン!」
 私は焦りに、そう、何故か焦りに突き動かされて、その背中に声をかけていた。
「速さを追っかけてる私を、どう思う?」
 口をついて出たのは、思ってもみなかった、質問。案外、本音とはそういうものなのかもしれないが。
「そうだな」
 バルクホルンは束の間、顎に手を当てて考える仕草をして。
「悪くない」
 にこりと笑って、そう言った。
 好きだとも、嫌いだとも、私の求めてる答えとは全然ちがったけど。でも、何故が、不思議と、胸を熱くするような答えだった。
 満足、したのかもしれない。今、この瞬間は。
 速さにかこつけて、未来ばかりを求めていたけれど、私が本当に欲しかったのは、こんな今なのかも、しれなかった。


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