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持っていてくれ


 早朝、ビューリングの部屋の戸を、叩く手がある。
 外はまだ暗い。時計を見ると、なんと四時。こんな時間ではネウロイすら起きてはいまいと、しばらく無視していたビューリングだが、その手はあまりにしつこく、戸を叩き続ける。
「……誰だ」
 仕方なしに、苛立たしげな顔で、扉を開けた。
「オハヨ」
 立っていたのは、智子だった。
 ビューリングは少しだけ後悔した。智子だとわかっていたら、扉を開ける前に鏡を見ておくのだった。寝癖は立っていないか。目やには。
 そんな内心の焦りに気付くことなく、智子は口を開いた。
「ちょっとお願いがあるの。部屋に入れてくれない?」
 智子の口調は、少しだけ焦っているようだった。よくよく見てみると、周囲を気にするように視線を動かし、なにやら落ち着かない。
 服装もこの時間にしては、妙だった。
 寝間着でもなければ、軍服でもない。戦闘用の巫女服を纏っていた。
 敵襲であれば、ビューリングが気づかない筈はない。訓練を始めるにしても、外はまだ暗すぎた。
「……まあ、入れ」
 扉を開けて、智子を招き入れた。
「ありがと」
 小さく礼を言いながら、智子が脇を通り抜ける。なびいた髪から甘いにおいが漂い、ビューリングは視線を逸らした。
「座れよ」
 椅子を引いてそうすすめたが、智子は首を振った。立ったままで良いらしい。そのまま椅子を戻すのも億劫で、ビューリングは肩を竦めて腰を下ろした。
「それで、何なんだ、頼みというのは」
 言いながら煙草をくわえ、下を向いて火をつける。
 智子は少しだけ言い淀むようにあたりを見回して、それから決心したように口を開いた。
「ズボン貸して」
「ゲホッ! ゲホッゲホッ!!!」
 一服目の煙は、咳とともに吐き出された。
「な、何……?」
 煙が妙なところへ入ったらしく、ビューリングはむせながら、ようやく聞き返した。
「ズボンよ、ズボン。履くやつ」
「……それは、わかる。何故それを貸せと……」
「それがね……」
 もごもごと、智子は口ごもった。
「それがね、えっとね、あの子たちに盗まれてね……」
 瞬間、ビューリングの視線が、壁にかかったグルカナイフに向いた。
「追い詰めたんだけど、隠し場所全然言わなくて、今も吊るしてるんだけど、変なところで根気強いから……」
 ……殺ろう。
 智子が帰った後、まず何をするか、ビューリングの心は決まった。
「二人は何処に?」
「え? ハンガーで吊るしてるけど。首から『私は下着を盗みました』っていう札を下げて」
 智子も意外と辛辣だった。
 ビューリングが容赦してやる理由にはならないが。
「それで、明日になれば補給が来るから新しいのも手に入るんだけど、今日の分がなくて」
「……なるほど。それで、昨日と同じ物を履いていると」
「……え?」
「ん?」
「そっか、そうすれば……」
「待て待て待て待て。お前、まさか今」
「……履いてません」
 ほら。智子はそう言って、袴の裾を捲り上げた。
 智子は立っている。
 ビューリングは座っている。
 そのビューリングの目の真ん前に、肌色の膨らみが現れた。
 ガタァン。
 椅子ごと転倒するビューリング。
「バッ、バババババババカ野郎!!」
「な、何よ!?」
 バカという言葉に、裾を捲り上げたまま抗議の声を上げる智子。
「い、いいからしまえ!」
「バカって何!」
「いいから!!!!」
「あ、うん……」
 別に女同士だからいいじゃない、とか、普段風呂場で見慣れてるだろう、とか、そういったことをつぶやきながら、裾から手を離す智子。確かにその通りではあるが、ビューリングがこれまで目をそらしていたことを、智子は知らなかった。
 ビューリングは椅子を戻し、それに腰掛け直すと、咳払いをひとつし、視線を逸らしながら口を開いた。
「それなら、いいだろう。今日くらい、昨日のを履け」
「洗濯出しちゃった!」
「バカだなお前……!」
「さっきからバカバカうるさいわよ! 仕方がないでしょ!? 下着全部盗まれるとか、想定外なんだから!」
 確かにそれはその通りではあるが。
「……だからといって、私のは貸さない」
「なんでよ!」
「なんでも、だ」
 よく考えても見ろ。貸すということは、私が履いたものをお前が履くんだぞ。そして、お前が履いたものが私に帰ってくる。間接キスなどというレベルじゃないいかがわしさだ。
 ビューリングはそう主張したくて仕方がなかったが、恥ずかしすぎて無理だった。
「お願い! このままだと今日は何も履かずに外に出なきゃいけなくなるのよ! あんたはそれでもいいの!」
 良くはない。決して。他のやつに見せてたまるか、とも思う。見るのはビューリングだけで良かった。……まだ、まともに見ることは出来ないが。
 智子は、自分の隊の指揮官がそんな醜態を晒しても良いのか、という意味で言ったのだが、ビューリングの受け取り方は少し違っていた。
「……わかった。なら、新品のを貸してやる。返さなくて良い」
「悪いからあんたが普段使ってるのでいいわよ」
「それは駄目だ」
「なんでよ!」
「なんでも、だ」
 タンスから、まだ履いたことのないズボンを取り出し、智子に手渡す。
「ありがと。洗って返すわ」
「いや、返さなくてもいい」
 横を向きながら、ビューリングは呟くように答えた。
 すると、智子は顔を不機嫌に曇らせ、口をとがらせる。そしてこう言った。
「……もしかして、私が履いた後のは汚くて嫌?」
「……何?」
「さっきから貸すのを嫌がったり、私の裸を見て怒ってたわよね。私が履いた後だと、汚くて履けないって事? 私があの子たちによく襲われてるから? 扶桑人だから? それとも、私のことはそんなに嫌い?」
「ま、待て、違う。そういうことじゃない」
「じゃあどうしてよ」
 智子は真剣に怒っている。ビューリングはたじろいだ。たじろいだが、ここで何も言わないのはもっと危ないと、経験で知っていた。ごちゃごちゃになりかけている思考を必至にまとめようと努めつつ、なんとか口を開く。
「い、いや、別にズボンの一枚くらい、返すまでもないと言っているんだ」
「借りっぱなしなんて、気が済まないじゃない」
「別に、そのくらい気にするほどのことでもないだろう。たかが、布切れ一枚だ」
「たかが布切れ一枚なら、別に返してもいいんじゃないの? そこまでして嫌がる理由がわかんない」
「それはだな、その」
「汚いから?」
「違う!」
 もう、わけがわからなくなっていた。
 だからだろう、こんなことを言ってしまったのは。
「お前に、私の下着を持っていて欲しいからだ……!」

 数分後。
 一人になった部屋で、ビューリングは酒瓶を呷った。


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