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スオムス文庫 ロスマン-1-1『心からの』

 この世に触れてはいけないものは数あれど、その最たるものは何と言っても女性の年齢だろう。
 誕生日を祝われるのは嬉しいものだが、その反面実年齢には触れて欲しくない。
 少女であるうちはまだしも、成長するに連れその思いは顕著になっていく。
 特に”あがり”の近づいたウィッチにとって、誕生日を迎えるというのはさらに深刻な意味合いがある。
 20歳を迎えると同時に、ウィッチとしての寿命が尽きてしまうのだ。
 仲間を残して軍を去るのは、退役を望む者達でも辛い。
 それが責任感の大きい者、使命感に燃える者、そして面倒見のいい者といった、退役を望まない者達にとっては尚更だ。
 それゆえに、エディータ・ロスマンの誕生日を前にした502基地は、一種の緊張感とも言うべきぎこちなさに覆われていた。
 
 訓練を指導していたロスマンに呼ばれ、サーシャとクルピンスキーはハンガーに足を運んだ。
 この日訓練を受けていたのは管野とニパの2人。
 無茶しがちな彼女らをどう導くか。それは難しい問題であり、3人はよく集まって意見を交わし合うのだった。
 ある程度次回の訓練について方針が固まったところで、ロスマンはぽつりと呟いた。
「あの2人、この頃落ち着きがないわね」
「そうかな?先生の気のせいだと思うよ」
「管野少尉やカタヤイネン曹長あたりが特に……」
「だ、大丈夫です!管野さんもニパさんもいつも通りですよ!」
「そうかしら。大尉がそういうのなら気にしないことにするけど……。
 でも、あまり落ち着きがないようなら、出撃や訓練を見合わせたほうがいいかもしれないわ」
「け、検討しておきます!」
 ロスマンは当然サーシャの様子がおかしいことも見抜いているのだろうが、それが何故かというところまで頭が回っていない。
 ただ首をかしげ、1人飄々としているクルピンスキーを、疑わしげに見るだけだった。
 
「大尉、あれじゃあ先生にバレちゃうよ」
「わ、わかってはいるんですが……」
 ロスマンが退室したのを確かめ、クルピンスキーはサーシャを咎めた。
 サーシャはラルから、ロスマンの誕生会を取り仕切るように言われている。
 隊長直々の命令でもあるし、ロスマン20歳の誕生会ということもあって相当気負っている。
 あまり眠っていないようで、可愛らしい目元には、うっすらと隈が出来ていた。
「普通に祝ったらいいのに」
「そう言われても、私たちは中々割り切れないものです……」
 サーシャは疲れたように肩を落とした。
「まぁ、みんながそうしたいっていうなら私も手伝うけど。でもね、あまりそういう気の使われ方、先生は好きじゃないと思うな」
「ですけど……」
「美味しい物を食べて、みんなで騒いで。先生はそっちの方を望むと思うよ」
 クルピンスキーが何度も言っていることなのだが、真面目なサーシャや、年少組の管野とニパはどうしても重く考えてしまうらしい。
 そもそも、”あがり”を迎えてもロスマンが教官として残留することは、既に通達されている。
 だから必要以上に気に病む必要はないし、ロスマンの性格からして、重たい雰囲気は嫌がるだろう。
 傍目にはあっけらかんとして見える、ロスマンの心中がどうあれだ。
 まぁ、それを分かっていながら気にせずにはいられないあたりが、彼女らの幼さと言えるのかもしれない。
 全く愛すべき妹たちである。
「誕生日は明日。準備するならそろそろ始めなきゃ。どうするの?」
 サーシャが良案を持たないままこの日まで来ていることを見通しつつ、敢えて聞いた。
 案の定、返答は歯切れが悪く、
「そ、そうですね……。そろそろ始めないと、その、間に合いません……」
「ねぇ、大尉。私に任せてくれないかな?」
「で、ですが……」
「ちょっとイイこと思いついてね。大尉のお仕事奪っちゃうようで申し訳ないけど。駄目かな?」
「う、うう……」
 サーシャはしばし逡巡した後、諦めたように頷いた。
「ありがと。色々衣装があるから手伝ってもらうよ。いいよね」
「……へ?」
 伯爵スマイル全開のクルピンスキーは、サーシャに有無を言わせなかった。

 誕生日当日。
 ロスマンはラルの執務室で秘書もどきの仕事をしていた。
 本来ならばサーシャやクルピンスキーがやるべき仕事だが、
 サーシャは戦闘全般を任されていてそれどころではないし、クルピンスキーは管野とニパの面倒を見ている。
 結果的に階級は不足しているものの、力量と見識を買われたロスマンが副官の役割を果たしていた。
「そろそろ食堂へ行こうか」
 パーティーの始まる時間である。ラルはおもむろに立ち上がり、ロスマンを促した。
「夕食の時間にはまだ早いようですが」
「休憩がてら、軽く軽食でも取ろう」
 どうやら仕事に忙殺され、本当に自分の誕生日を忘れてしまっているらしい。
 別にサプライズというわけではないが、本人が忘れているのなら、敢えて教えてやることもないだろう。
 ラルは一足先に廊下に出て、ロスマンを待っていた。
「今日はやけに基地の中が静かですね」
「そうか?」
「いつもならもう少しドタバタしているような気がするのですが」
「気のせいだろう」
「そうでしょうか」
「今日は一日、お互い執務室に缶詰だったからな。外の様子が分かりづらいのも無理はない」
「なるほど、確かにそうかもしれません」
 ゆっくりと歩きつつ、ラルはわくわくする気持ちを必死で抑えていた。
 いくつになっても、こういう作戦は心が踊るものなのだ。

 食堂からは光が漏れていたが、不自然なまでに静まり返っている。会話する声はおろか、調理する音すら聞こえてこない。
「誰もいないのかしら……」
 そう呟いたロスマンが食堂を覗き込むと、
「ロ、ロ、ロ、ロスマン曹長お誕生日おめでとうございましゅ!」
 フリフリの白いドレスを纏ったサーシャが、気負いのあまり口上を噛みながら飛び出してきた。
「……大尉?」
 ロスマンはポカン、と口を開け、真っ赤な顔であうあう言葉にならない声を発しているサーシャを眺めていた。
 その背を、後ろから現れた男装のクルピンスキーが、そっと押す。
「さ、先生。お席にどうぞ」
「え、ええ……?」
 紳士的な物腰のクルピンスキーに手を取られ、ロスマンは普段ラルの座る、最奥の席に案内された。
「ちょっと!この席は隊長の……」
「良い。ロスマン、今日はお前が主役だ。大人しくそこに座れ」
 ラルの笑みも柔らかい。
 ここに来てようやくロスマンは、自身の誕生日が今日であったことを思い出した。
「もう……。こんな事、しなくてもいいのに」
「まあまあ先生。みんながお祝いしたいって言うんだから、大人しく受けときなよ」
「……そうね、ありがとう。正直嬉しいわ。自分でも忘れてたから」
「うんうん。さ、そういうわけだから、みんなお料理持ってきて!」
 頬を染め、照れくさそうに俯くロスマンを満足そうに見、クルピンスキーは手を叩いて合図した。
 ぞろぞろと、料理を持って管野たちが姿を見せる。
 それをみて、ロスマンはぷっと吹き出してしまった。
「……せんせ、笑うな」
「ぷっっ……!あははははは!ごめんなさい、やっぱり駄目!管野少尉、よく似合ってるわ!」
 不満げに頬を膨らませる管野はサーシャと色違いのドレスを着ており、なんとその色はピンク色。
 どうせクルピンスキーあたりに無理やり着せられたのだろうが、頭にリボンまで付けていて、なんとも可愛らしい。
 普段とのギャップでついつい大笑いしてしまったが。
 ニパはクルピンスキーと同様のタキシードで男装し、ジョゼはメイド服、下原は振袖という出で立ちだった。
 統一感なんて微塵もなく、それこそノリと行き当たりばったりを総動員して計画されたパーティー。
「はは……。本当に、本当に最高ね……」
 ロスマンは目尻を拭った。
 笑いすぎたからか、それとも感極まってしまったからか。
「じゃあ音楽かけるよ」
 レコードから音楽が流れ出し、ニパと管野がぎこちないダンスを踊りだしたあたりで、再びロスマンは大笑いすることになった。
「お手本を見せてあげたほうがいいかな?」
 いつの間にか、横に立っていた伯爵が顔を覗き込んでくる。
「あなたと踊るのは辛いわ。身長差がありすぎて」
「ちゃんと合わせますとも」
 目の前では管野がずっこけ、ニパを押し倒した。ジョゼとサーシャの表情が少しだけ曇る。
「そうね、しっかりお手本を見せてあげたほうがいいかも」
 ロスマンはクルピンスキーの手をとった。
「ありがと」
「どういたしまして」

 もう自分は飛べなくなる。
 20歳の誕生日なんて迎えたくはなかった。だから頑張ってこの日のことを考えないようにしたし、忘れていた。
 その姿が周りにどう見えていたかはわからない。でも、やっぱり嫌だった。
 忌まわしい20歳の誕生日。
 どんなに足掻いても避けられないもので、一生苦い思い出として残るはずだった。
 なのに今はこんなにも幸せで、きっと将来思い出しても、同じ気持にさせてくれるに違いない。
 20歳の誕生日を幸せな思いで迎えられたウィッチが、過去にどれ程いただろう。
 ロスマンは心から感謝した。この部隊に来れて良かったと思った。
 パーティーの後布団に潜り込み、沸き上がる嗚咽を堪えながら、ロスマンは何度も何度も、ありがとうを繰り返した。
 
 

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