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スオムス文庫 智ジュゼ-1-1『ここに来て、良かった。』

 この日、チュインニはご機嫌だった。
 今日は彼女の誕生日。きっと憧れの智子中尉のガードだって甘くなるはず。そしたら今夜は2人っきりで……。
 にこにこと笑みを浮かべたチュインニが廊下を歩いていると、タイミングの良いことに智子が執務室から出てきた。
 これは幸運?それとも運命?
 軽やかなステップで智子に近づく。
「えっへへ。智子中尉ーっ」
「ん……?うげっ」
「……うげって言いました?」
 体を密着させ、尻を撫で上げながら、拗ねたように聞く。
「い、いいいいいい、言ってないわよ!」
「智子中尉はわかりやすすぎます……。ああ、私はこんなにもお慕いしているというのに、智子中尉はそんな挨拶でしか返してくれないのですね……!」
「お、お尻撫でるのやめなさいよ!ちょっと、首筋もやめ……、服に手を入れるなー!!」
 智子の抜き払った刀を身軽に交わし、チュインニは距離を取った。真っ赤になった智子は追いかけようと振りかぶるが、
「智子中尉……、今夜、非番ですよね……?その、私、私ぃ……」
 突然甘えるような声で、恥ずかしげに身を捩るチュインニの姿を見て、ぴたりと動きを止める。
 智子がこういう仕草に弱いのは学習済みなのだ。
「私、今日誕生日なんです。一緒にお夕食でも、その、いかがですか……?」
 ちらり、と上目遣いに見やる。智子の顔はますます真っ赤になり、頭から蒸気を出しそうなくらいに葛藤しているのが見て取れた。
 もう一押しで落ちる。百戦錬磨のロマーニャ娘、ジュゼッピーナ・チュインニ准尉は手応えを感じた。
「だ、だめよ……、きょうはだめ……、だめ……」
「智子中尉、お願いします……。プレゼントも何もいらないんです。ただ私、中尉がご一緒してくれたらそれだけで、それだけで最高の誕生日になるとおもうんです……」
「う、うう……、その、じゃあ……」
 落ちた。その手応えを感じた直後、背後から邪魔が入った。
「駄目だな。今夜は諦めろ」
 振り返ると、ビューリングがコーヒー片手に佇んでいる。
 こんな時に邪魔するなんて!いくら美人のビューリング少尉でも許せません!などとは流石に言えず、
「どうして今夜は駄目なのですか」
 そう憮然と問い返すのがやっとだった。
「何でも、だ。准尉」
 ビューリングは”准尉”にアクセントを置き、これ以上の質問は許さないと、無言の圧力をかけてくる。
「でも、今日は……」
「お前の誕生日だというのは知っている。トモコもな。だからどうした、という話だが。仕事がある。道を開けろ」
 何も、そんな言い方しなくたって……。
 チュインニの視界が潤んだ。
「部屋に、帰ります……」
 何か言いたげな智子の脇を抜け、とぼとぼと、泣きそうになるのを堪えながら宿舎へと歩いて行った。

 チュインニは結局、ずっとベッドの中で布団をかぶって過ごした。
 もうすでに日は沈んでいる。そろそろ夕食の時間はずだが、行くつもりは無かった。泣き腫らした顔を見せられるわけもない。
 折角の誕生日なのに。智子中尉との食事を、ずっと楽しみにしていたのに……。
 あれこれと計画を考えながら、色々想像していたときは幸せな気分だった。まさか、あんな形でそれをぶち壊されるとは思ってもみなかったが。
 なによ、いいじゃない。夕食の僅かな時間くらい、一緒にいてくれたって。
 どうせ自分は新参者なのだ、といういじけた気持ちが、鎌首をもたげる。
 惨めだなぁ……。
 ぐすり。音を立てて鼻水を吸い込んだ。
「ジュゼッピーナ?いるの?」
 扉があき、誰かが入ってくる。
 誰か?決まってる、この声を間違えるはずもない。智子中尉だ。
「ジュゼッピーナ?」
 チュインニは体を丸め、布団から出るつもりはないと意思表示した。
「もう夕飯よ?」
 行きません。行きたくないです、智子中尉。
「昼のことは謝る。ビューリングも強く言うつもりはなかったのよ。ただ、その、ちょっと不器用だから」
 嫌。嫌です。今あの人をかばわないで。
「お願い。一緒に来て。みんなあなたを待ってる」
「う、うぞでず……」
「え、な、泣いてるの……!?」
「ないでないでず……」
 強がってみても、鼻声でバレバレだった。
 かぶっていた布団に手がかけられ、勢い良く引き剥がされる。
「あー、もう……。顔ぐしゃぐしゃじゃない……」
 ハンカチを取り出した智子が、優しく顔を拭いてくれた。乾いた布が、ちょっと痛い。
「ぐすっ」
「あーもう……。ちょっとこれ、水で濡らしてくるわね」
「ほっといてください……。どうせ私は新参ですし……」
「はぁ?」
 智子は呆れた顔でチュインニの泣き顔を見た。
「あのね、ジュゼッピーナ。誰もあなたをいらんこ扱いなんてしてないわよ」
「嘘で……」
 そう言いかけたチュインニの眉間に、智子は人差し指をぴたりとくっつけ、
「話は最後まで聞く。だって、あなたを大事に思ってなかったら、パーティーの用意なんてしないわ」
「ぱー……、てぃー……?」
「そうよ。もう仕方が無いから言っちゃうけど、今夜はあなたの誕生パーティー。だから今夜は一緒に行ってあげられなかったの」
「でも、でも……」
「ビューリングも当然祝うために準備してくれてた。不器用でああいう言い方しか出来なかったけどね。あの後落ち込んでたわよ?」
 落ち込むビューリング?想像してつい、くすりと笑ってしまった。
「やっと笑った……。それで?パーティーには参加してくれるの?」
「勿論です。……そのかわり、今度はふたりっきりの夕食に連れてってくださいね」
 いたずらっぽくほほえむチュインニに、一瞬ぽかん、とした智子は、
「夕食だけならね」
 首を振りながら呟いた。多分、夕食だけでは終わらないだろうことを悟りつつ。
 そしてチュインニは、差し出された智子の手を握り、エスコートされながらパーティーに向かった。
 まだ目や瞼は赤いままだ。
 でも、泣き腫らした顔を見られるのも良い。仲間になら。



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