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スオムス文庫 エイゲル-3-1『眠っていた甘えん坊』

 エイラは食堂に向かっていた。
 時間は昼食と言うにはまだ早い。間食するほど腹が空いているわけでもない。
 昼食の当番なのだった。
「めんどくせー……」
 御世辞にも料理が好きとは言えないエイラだが、宮藤とリーネが訓練で作れないとあらば仕方がない。空腹のまま午後を迎えるのはだれだって御免だ。
 せいぜい同じく当番に割り当てられたバルクホルンの邪魔をしないようにしよう。
 調理場に入ると、バルクホルンはすでに準備をしていた。まな板の上には、よく研がれたナイフと丁寧に洗われたイモが置かれ、調理を始めるだけになっている。
「遅かったな、エイラ」
「時間ぴったりだよ」
 エイラはエプロンをつけた。
 我ながら全然似合っていないと、ぴかぴかのシンクに写った自分の姿を見て思う。
 ちらりとバルクホルンを横目で見ると、そちらは実によく馴染んでいた。自分とどこが違うのだろう?
 そんなことをぼんやり考えていると、
「何をぼーっとしている?早く手伝え。時間に間に合わなくなるぞ」
 窘められたエイラは、慌ててイモとナイフを拾い上げた。バルクホルンは早くも3つ、皮を剥き終わっている。
 ぞりっ。ボトッ。ぞりっ。ボトッ。ぞりっ……。
「エイ、ラ……?」
「ん?」
「バ、バカ!皮を剥きながら余所見するんじゃない!ナイフを置け!」
「なんだよもー……。さっさとやれって言ったり、手を止めろって言ったり……」
 いびつな形のイモとナイフをまな板に置き、エイラは向き合った。
「その、お前はナイフの使い方を習ったことは……?」
「ないな。原隊じゃ料理なんてすることはなかったし。でも、私の包丁さばきもまあまあだろ?」
 胸をはるエイラ。バルクホルンは頭痛がするとでも言いたげに、こめかみを抑えた。
「ちょっと私の持ち方を真似してみろ」
「いいけど。……こうか?」
「違う。肩に力が入りすぎだ。まったく……」
 バルクホルンは溜息をつくと、包丁を置き、エイラの後ろに回った。そして手を伸ばし、ナイフを握ったエイラの白い手の上に、そっと自分の手を添えた。
「お、おい!」
「とりあえず、手から力を抜け。手の位置を教えてやるから」
「で、でも」
 身体が、というか、胸が背中に密着している。その上手まで握られて、これで緊張するなというのはちょっと無理な話だ。
「良いか、まず左手でイモをしっかり持つ。それからナイフを握る右手。小指と薬指にはあまり力を入れない」
 エイラの顔のすぐ横に、バルクホルンの顔がある。顔の半分が痺れたように熱くなった。
「皮を剥く時はナイフの刃元を使うんだ。刃元の角に親指を添えてナイフを安定させ、折り曲げた人差し指の側面でナイフの背を押していく」
 バルクホルンが説明しながらイモを動かすと、しゅるしゅると音を立て、皮が一枚の紙のように剥けていった。
「イモを動かす左手に力を入れすぎないように注意しろ。指を切るからな。よし、やってみろ」
 そう言ってバルクホルンが離れると、背中と顔が少し、すーすーした。
 教わったとおりにイモと包丁を持ってみる。バルクホルンは何も言わなかった。多分、教わったとおりに出来ているのだろう。
「えっと、こんな、感じ……」
 ゆっくりと芋を動かすと、途中でぷつんと切れてしまったが、前よりずっときれいに剥けた。
「上手いじゃないか。その調子だ」
「そ、そうか?」
 褒められてなんだか嬉しくなってしまう。照れずに素直に嬉しいと思えたのは、なんだかすごく久々な気がした。
 ひとつ、またひとつと、イモを剥き終わるたびに、皮が長くなっていく。上達していくのが感じられ、面白い。
 だが、それで浮かれてしまったのは良くなかった。
「いてっ」
 つい左手に力を入れすぎ、滑ったナイフで親指をざっくり切ってしまった。
「切ったのか!?」
 バルクホルンが慌てたようにエイラの手をとった。
「い、いてー……」
「結構深いな……、んむっ」
 バルクホルンは血の流れる親指を口に含み、舌で患部を舐めた。
「な、ななななな……、何すんだよ!!」
 エイラは慌てて手を引く。顔が真っ赤だ。
「何って、消毒だが……」
「そ、そんなことまでしなくていい!」
「ふむ……。まぁ、そうだな、あまり時間もないし。よし、お前は医務室に行って来い。後は私がやっておこう」
「そ、そうする!」
 エイラはそう言い捨てて、涼しい顔のバルクホルンを残して食堂を駆け出ていった。

 食堂を出たエイラは医務室へは行かず、廊下の壁にもたれかかって傷口を眺めていた。
「はぁ……、どうしてあんな事すんだよ……」
 まるで子供扱い。姉のアウロラに何かを教わっているときのような感じがした。
「ねーちゃんじゃないのに……」
 さっきの自分を思い出すと、意識しないままに、甘えた口を利きそうになっていたことに気づく。
「ねーちゃんじゃねーし、あんな妹狂い……」
 アウロラはもっと凛々しくて、優しくて、何よりエイラを好いてくれていた。
 バルクホルンは精精手のかかる部下程度にしか思っていないだろう。だから平気であんなことが出来る。
 姉とはぜんぜん違う。なのに、どうしてアウロラとのことが頭に浮かんだんだろう。
「ねーちゃんじゃ、ないのに……」
 乾きにも似た空しさ。それを紛らわそうと、エイラはゆっくり、親指を口に含んだ。
 血の味が、少しだけ甘く感じた。



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