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迷い猫の歌

「ああっ!似合うっ!すっごくよく似合うっ!!」
 年甲斐もなく……もとい、歳相応にきゃあきゃあと騒ぐフェデリカと向かい合うようにして、エーリカは座っていた。
 何故か赤ズボン隊の軍服を着せられており、カメラを手にせわしなく動きまわるフェデリカを、何か不思議なものでも見るような顔で見つめている。
「はいっ!視線こっちね!」
 リクエストに答えてポーズを取ったり、視線を送ったりするエーリカだが、どこか普段の彼女と雰囲気が違っている。
 服装のせいではないだろう。所作には日頃の億劫そうなところが見られないし、顔つきもどこか幼く見える。
「いいわいいわー。エーリカちゃん、今度はちょっと足崩してみましょうかー」
「えー、りか……」
 足を崩しつつ、自分の名前を繰り返すエーリカ。その声はどこか虚ろな響きだった。

 遡ること数日、朝靄の浮かぶ504基地滑走路に、エーリカは立っていた。
 ぼうっと突っ立ったまま、一向に動く様子がない。誰かが声をかけない限り、1日でも2日でも、そのまま立ち続けていそうだった。
 最初にエーリカを見つけたのは竹井だった。ランニング中に見つけて目を疑ったが、間違いなくエーリカ・ハルトマンだ。何度か501を訪ね、顔を合わせていなければとても信じられなかっただろう。
 エーリカが来るという連絡は受けていなかったし、時期的にも不可解だ。それになにより、彼女の出で立ちがズボンと黒のタンクトップという部屋着なのである。501と504は同じロマーニャにあるとはいえ、結構な距離があるのにも関わらず、靴すら履いていない。
「あの、ハルトマン中尉……?」
 ぼーっとしたエーリカにおずおずと近寄る竹井。
 元々地上ではぼーっとしている姿が多いと聞くし、実際にその姿もみている竹井なのだが、今の様子はそれとは若干異なっているように思えた。強いて言うなら、そう、何も考えていないと言った感じ。普段のハルトマンは面倒くさそうにふるまいつつも、周囲への目配りを欠かさず、常に頭を回転させていた。
「中尉?」
 竹井は繰り返した。エーリカの反応はない。
 明らかに様子のおかしいエーリカを前に心配が先立ち、無視されているという不快感はない。
 色々と呼びかけてみたが、正面に周って目を覗き込むようにしたとき、ようやく反応があった。
「あ……」
 エーリカの、澄んだ瞳が揺れる。
「ハルトマン中尉?何故ここに……」
「……?」
「中尉?」
「ちゅう、い……」
「あなた、エーリカ・ハルトマン中尉よね……?」
「え……、さぁ……」
「さあって……。じゃあ、あなたは誰?どうしてここにいるの?」
「わかりま、せん」
「わからない?そんなはずはないでしょう?ここは基地の中よ。民間人が入れるわけがない」
「はぁ……」
 ぼんやりとした言葉しか返さないエーリカに、竹井は困惑しながらも根気よく質問を重ねた。だが、全く何一つとしてわからない。間違いなくエーリカだと思うのだが、段々と自信も無くなってきた。
「身分証があれば、話は早かったんだけど……」
 エーリカは着の身着のままどころか下着姿である。望むべくもなかった。
「仕方が無いわ。一緒に来てくれる?」
 エーリカに自信の軍服を羽織らせると、竹井は手をとって基地の中へと歩き出した。

 エーリカの手を引いた竹井は、赤く塗られた扉の前で立ち止まった。
「また、増えてる……」
 そう呟いた竹井の視線の先には、なんというか、統一感皆無な装飾がある。ライオンをかたどったノッカーがあるかと思えば、扉の両脇には何故か角松。デカデカと「Wellcome!」と間違えたスペルで書かれた垂れ幕は万国旗で吊るされ、さらにそこからぼろぼろのパペット人形が、首吊り死体のようにぶら下がっている。赤い扉に漢字で大書された「赤っ恥」など、もはや気にならないレベルである。
 竹井は頭痛を覚えつつ、扉をノックした。
「あいてるわよーっ」
 すぐさま明るい声が廊下に響き、竹井は溜息を一つ、扉を開けて部屋に入った。
 中でにたのは、足を組んでデスクに腰掛けた、やたらと色っぽい美人だった。
「扉の前のアレ、前に撤去した筈ですが……」
「ああ、また撤去してもいいわよー?どうせ退屈しのぎだし、私完成品には興味ないから」
 苦い顔の竹井に、飄々と返す美女はフェデリカ・ドッリオ。まるで女優のような風貌だが、これでも第504統合戦闘航空団の指揮官であり、ロマーニャを代表するエースである。
「それで何かしら。暇つぶしになりそうな物でも持ってきてくれたの?」
「お暇でしたらいくらでも書類をお持ちしますよ。それよりも、ちょっと困ったことがおきまして……」
「ふうん?」
 そこで初めて、フェデリカはエーリカに目をやった。
「……エーリカ・ハルトマン?」
「だと、思うのですが……」
 竹井は困ったように、視線を泳がせた。
「あなたらしくないわね。報告が正確さを欠いている」
「申し訳ありません。ですが、その、どうも要領を得なくて……」
 フェデリカはエーリカを見ながら、脚を組み替えた。
「……なんかぼーっとしてるわね」
「そうなんです。質問してもわからないとか、覚えてないとか、何一つ分からなくて……」
「自分の名前も言えないの?」
「わからないと……」
「ふうん……。記憶喪失ってヤツかしら……」
 デスクから降り立ち、フェデリカはまじまじと、エーリカの顔を覗き込んだ。エーリカは特に反応せず、ぼーっと見つめ返している。
 そのまま数分が経過し、先に目を逸らしたのはエーリカだった。フェデリカは笑みを浮かべると身を翻し、ふわりとデスクに腰掛けた。
「ま、いいわ。この子は私が預かりましょう」
「……えっ?」
「ミーナ中佐には私から話を通しておくわ」
「帰らせたほうが良くはありませんか?」
「この格好を見るに、戦闘中の事故で不時着したという訳でもないでしょう。多分基地を抜けだしてきたのよ、この子。だとすれば記憶が戻らないうちに帰らせてもまた抜け出す可能性がある。それならこちらで保護しておく方が無難じゃない?」
「ですが……」
「それに、この子ホントは……」
 そこまで言いかけて、フェデリカは口を閉ざした。
「?なんでしょう?」
「なんでもないわ。とにかく、しばらくはウチで預かりましょう。あなたにも世話をお願いするかもしれないからよろしくね」
「はぁ。了解しました」
「じゃ、まずは私の部屋に案内してあげて。基地の案内は不要でしょう。独り歩きされても困るしね」

 2人が退室した後、フェデリカは電話機を引き寄せた。
「……ああ、ヴィルケ中佐?ドッリオです。お宅の迷い猫を保護したのですけれど……。ええ、そう、ハルトマン中尉。……いや、それには及びません。しばらくこちらで預からせてもらいます。ああ、どうか落ち着いて。どうも記憶を失っている”らしい”のですよ。はぁ、まぁ、尚の事、というのはわかりますが……。でも、そちらであったのでしょう?いざこざが。私が言うのも筋違いなのは分かっていますが、中尉の心の整理がつくまで、少し時間を与えられては……。ああ、流石に察しが良い。はい、3日もあれば十分だと思いますよ。代わりの人員ということでウチの秘蔵っ子をそちらに派遣しますから。精精可愛がってやってください。なに、今は訓練以外やることがないですから。あの子たちにもいい刺激になるでしょう。ええ、ええ。それではこちらこそよろしく」
 いささか含みのある取り決めが、ミーナとの間でされたようである。

 そうして時間が経過し、冒頭に至るわけだが、フェデリカはエーリカの記憶に着いて一切聞こうとしなかった。
「じゃあ次はナースになってもらいましょうかー」
 こうしてコスプレを強要してくるばかりである。
 エーリカは徐々に疲れた顔になりつつも、されるがままになっている。
「いいわー!本当はフェルに着せようと思ってたんだけど、あの子すぐ逃げるから諦めてたのよねー!はぁ……、エーリカちゃんが来てくれて本当によかったわぁ……!!」
 エーリカはこっそり溜息を吐いた。
 後悔しているのだ。記憶喪失のふりをしたことを。
「はい、このカルテ持って!左手は腰に!もうちょっとお尻付き出して……、そうそう!それよ!そこではいっ!笑顔ちょーだい!」
 笑顔を向けながら、エーリカは事の発端を思い出していた。
 それは数日前の事、ちょっとしたすれ違いから始まった。
 バルクホルンから生活態度を注意されただけ。普段なら軽く受け流しただろう。しかしこの時、年少組の心配ばかりするゲルトに少しばかり嫉妬してしまっていたし、細かい事で鬱憤も溜まっていた。それでついくちごたえをし、諍いになってしまったのだ。
 最初は、
「私はお前を含め全員の心配をしている」
 といっていたバルクホルンだが、嘘だとハルトマンが食い下がるうちに頭に血が登ったと見え、
「何を子どものような。今更そんな心配などせんでもお前はやっていけるだろう」
 と言ってしまった。
 それを聞き、半ば逃げるようにしてバルクホルンの前から去ったエーリカは、すっかり自棄っぱちになっていた。だから転んで頭にデカいたんこぶをこさえもしたし、気絶したふりもした。そして夜、こっそりと基地を抜けだした。
 自分の言葉がこういう結果を招いたのだと、少し責任を感じればいい。そんな考えだった。
 だが、時間が経てば経つほど後悔の念は強まってくる。
 いつまで記憶喪失のふりをすればいいのだろう?どうやって戻ればいいのだろう?
 子どもじみた思いつき、仕返しで自分が大切なモノを失おうとしていることに気付き、エーリカの顔は意識しないうちに暗くなっていった。
「んー……、笑顔がイマイチねぇ……」
 カメラを下ろしたフェデリカが、残念そうに呟いた。
 フェデリカは良い人だし面白い人だけれども、どうしても笑おうという気になれない。
 エーリカは謝る代わりにぺこりと頭を下げた。
「ねぇ」
 フェデリカは身を屈め、エーリカに目線を合わせ、
「帰りたい?」
 エーリカの瞳が揺れた。
「ど、どこに……」
「あなたが帰るところ、ひとつしかないでしょ?」
「なんのことだか……」
「あなたがこのままここにいたいって思うなら、私は構わないわよ」
 フェデリカはくしゃりと、エーリカの頭をなでた。
「でも、そろそろ気が済んだんじゃないかしら。あまり時間が立ち過ぎると今度は戻れなくなっちゃうわよ」
 エーリカは答えなかった。フェデリカは苦笑し、目の前の小さな身体を抱きしめた。

「お世話になりました」
「記憶が戻ってよかったわ。また遊びにいらっしゃい、ハルトマン中尉」
 赤ズボン隊の制服を借りたエーリカを見送りつつ、竹井が声をかけた。
 フェデリカはこの場にいない。別れは彼女の部屋ですでに済ませた。この上感傷的な別れをする必要などない。
 輸送機に乗り込んだエーリカは、貰った赤ズボンを握り締め、フェデリカの言葉を思い出していた。
「いつでもいらっしゃい。遠慮なんていらないから。でも、もうあんな周りに心配かけるのはダメよ?悲しむに決まってるんだから」
 今回は随分と迷惑をかけてしまった。
 こんな出会いで申し訳ないと思う。
 次は、もっと別の形で彼女と会いたい。
 エンジンの音を聞きながら、ぼんやりと思った。

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テーマ : 自作小説(二次創作)
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