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読心

 青々とした野原に挟まれた道を、一台のキューベルワーゲンが走っている。
 春風が草葉を揺らし、日の光が様々な色の花を柔らかく照らす。
 そんな風景を、助手席のエイラが眺めていた。気怠げで、物憂げにも見える表情には色気とも呼べるような陰りがあり、風になびく髪と白く照らされた肌は、同じ状態にある草花なぞとは比べ物にならない程に美しい。
 誰もが見惚れる、映画のワンシーンのような光景だが、運転するリーネにそんな余裕は無かった。
 見とれて事故でも起こしたら一大事である。自分が怪我をするだけならまだしも、スオムスの至宝に傷をつけるわけにはいかない。
(でも、エイラさんならぶつかる前に車から飛び出しちゃうかな?)
 事故の直前、とうっ!という掛け声と共に車から飛び出すエイラを想像し、リーネはくすりと笑みを漏らした。
 何だか少しおバカな少年のようで、今のエイラとのギャップがおかしかったのだ。
「リーネ」
「は、はいっ!」
 唐突に呼ばれて心拍が跳ね上がった。
 失礼な想像をしていたのがバレたのかと思ってしまう。
 ちらりと横を覗き見たが、エイラは風景に目をやったままで、表情がわからない。
「ちょっと車、停めてくれ」
 流石に未来は読めても心までは読めないだろうと思うのだが、エイラならあり得てしまいそうで怖い。サーニャが絡まない時のエイラには、そう思わせるような神秘的というか、不思議なオーラがある。
 リーネは内心びくびくとしながら、車を路肩に停止させた。
「ん、んんーっ」
 ドアを飛び越え、身軽に降りたエイラは右手で左手首を掴み、ぐぐっと伸びをした。細い身体がさらに強調され、しなやかなシルエットにリーネは唾を飲む。
「ほら、リーネも降りろよ」
 エイラはそう言って、こちらに笑顔を向けた。良かった、機嫌は良いみたい。
 リーネは短く返事をして車を降りると、エイラにならって伸びをしてみる。道路に映った影は、エイラのそれとはちがい、丸く柔らかなラインだった。
 それにしてもいい天気だ。若干落ち込みつつ、そう思う。
 できることならピクニックか、昼寝でもしたい気分。だが、残念なことに、今は買い出しの帰り道なのだった。早く帰るに越したことはないのだが……。
 しかし、エイラは坂になった草原の方へと歩き出していた。何をするつもりかはわからないが、少なくともこのまま帰るつもりはないらしい。
 追うべきか迷っている間に、エイラはどんどん先へと進んで行く。
「なにしてんだよー!はやくこいよ!」
「は、はいっ!」
 振り向いて手を降るエイラ。反射的に返事をしてしまい、これで着いて行くしかなくなった。
 背後の車を見て、どうしようか数瞬迷う。買ったものを放置していいものか、勝手に持って行かれやしないか、不安で仕方がない。流石に軍用車からモノを失敬しようと言う気骨のある泥棒はそうそういないはずだが、これがリーネの性分なのだから仕方がなかった。
 おろおろと荷物を隠せる場所はないか、いっそ車ごと核した方が、などと考えているうちに、業を煮やしたエイラが駆け寄ってきてリーネの腕を掴んだ。
「なにやってんだよ」
「す、すみません……」
「ほら行くぞ!」
 エイラは車からキーを抜き取り、走り出す。
「きゃあ!?エ、エイラさん!ちょっと待っ……!?」
 そしてあははは、と笑いながらの全力疾走。リーネも引っ張られる形で走り出した。
「エ、エイラさん、止まっ……!?」
「うぇっ!?」
 ずべっ。
 足がもつれ、前にのめるようにリーネが転んだ。そしてその腕を掴んでいたエイラも、釣られて転ぶ。
 下が草に覆われていたから良かったものの、ここが道路だったら擦り傷の一つや二つ、こしらえていただろう。
「リぃーネぇ~」
 恨めしげな声とともに、ガバッと身を翻したエイラが覆いかぶさってきた。そして手が地面とリーネの胸との間に滑り込む。
「ご、ごめんなさ……きゃああああああああ!?どこ触ってるんですかぁ~!!!?」
「よくも私を巻き込んでくれたな!それそれ、お仕置きだー!」
「やっやめてくださいエイラさん!やめてぇ~!!」

 それから十分後、2人は軍服を泥と草にまみれさせ、草原に座り込んでいた。
「なー、リーネ。悪かったって」
 エイラはむくれたリーネの頬をむにむにと突つきながら、あまり悪びれた様子もなく謝っていた。
「許しませんっ」
「そんなこと言うなよー。なー、リーネー」
 どことなく甘えた声で、エイラが身体を寄せて来る。
 以前のリーネなら許せと言われればあっさりと許しただろうが、この頃は本来の芯の強い性格が現れてきて、こうして拗ねて見せることも珍しくない。周囲からは好ましい兆候と見られているが、そもそもまったく自覚できていないリーネだ。そんな評価を知る由も無い。
「リーネが許してくれないって言うなら、私にも考えがあるぞ」
 だが、それだけにからかいがいがあるのだろう。この頃はリーネをからかうことの増えたエイラだった。
「えっ」
 問い返す間もなく、エイラはリーネの太ももに頭を乗せ、ごろりと横になった。膝枕の状態だ。
「……凄い眺めだなこれ。リーネの顔が見えないぞ」
 慌てて胸を抑え、仰け反った。エイラがいるので、あまり大きな動きは出来ない。しかし、角度を変えたお陰で悪戯っぽい笑みを浮かべたエイラの顔を見ることが出来るようになった。
「エイラさん……っ」
「怒んな怒んな。リーネが許すっていうまで、私どかないからなー」
「もう、わかりました!許しましたからどいてください!」
「……。リーネの太ももやーらけー」
「~~エイラさんっ!!」
「怒んなって。褒めてるんだぞ」
「嬉しくありません……」
「あったかいし、さらさらだし、それになんか、こう……癖になるにおいが」
「頭落としますよ」
「じ、冗談だって!」
 んー、とか、むー、とか言いながら、エイラは頬ずりするように、リーネの太ももに顔を押し付けている。
 凄く恥ずかしい。
 それに、先ほどエイラの細さを意識してしまった直後である。なんとなく自分が太っているように感じられ、いたたまれない気分だ。
「もう……」
「?なんだ?落ち込んでるのか?」
「知りませんっ。それより、早く帰りましょう」
「えー」
「怒られちゃいます」
「なんてことないって。今日は一日買い物ってことで時間もらってるんだし」
「でも……」
「それに、今帰ったら坂本少佐の猛訓練に巻き込まれちゃうだろ。折角休める日をもらったのに勿体無いじゃないか」
 坂本少佐の怒鳴り声を想像してしまい、リーネら思わず身震いした。
 だが、訓練をやるなら自分は参加しておくべきだと思う。
 芳佳とは違い、今でも自分は隊のお荷物だ。一日でも早く一人前にならなければいけない。
「もっと自信持てって」
 そんな胸の内を見透かされたような一言に、驚いて膝上の顔を覗き込んだ。
 エイラの顔からは悪戯な笑みが消え、代わりに浮かんだ微笑みは、はっとするほどに優しげだった。
 急な表情の変化に、不覚にも胸が高鳴った。
「別に心を読んだわけじゃないぞ。そんな顔をすれば誰だってわかる」
「……」
「頑張るのもいいけど、こういうのも大事なんだぞ。だからさ」
 リーネの顔にエイラの手が伸びた。
 びくりと身体を震わせたが、避けることはしない。出来ない。
 エイラの微笑みから目を離せなくて、まるで金縛りにあったように動けなかった。
 ぐにっ。
 両頬が摘ままれ、無理矢理上に引っ張り上げられる。
「笑ってろよ。楽しいのがイチバン。なっ」
 何時の間にか戻っている悪戯な笑み。今までは身構えていたその顔が、微笑みと同じ意味を持っているのだと、リーネは始めて理解した。

 基地に帰ると、夕食の直前だった。
 遅かった、とは言われたが、特にお咎めはない。泥と草で汚れた軍服にも特にコメントはなかった。チョコレートが溶けていたことに、エーリカとルッキーニがぐちぐち文句を言ったのが唯一と言っていい。
 リーネはエイラを見た。
 普段どおりの、サーニャ命のエイラがそこにはいた。
 くすり。
 笑みを漏らす。
「どうしたの、リーネちゃん?」
 芳佳が首をかしげた。
「ううん。なんでもないよ」
 リーネも、エイラもいつもどおり。でも、少しだけ、距離は縮まったのかもしれない。


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テーマ : 自作小説(二次創作)
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