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エイラのナイトウィッチ訓練録その2

「ナイトウィッチの本質は孤独にある」
 ウィトゲンシュタインはそう言った。
 魔導針で繋がっていても、基地に仲間がいるとしても、ネウロイと遭遇する時は独りなのだと。
 そしてこうも言う。
「誰かのために、という考えは基地に置いて行くことだ。夜の空では己のことのみを考えよ。暗闇はいつでも我々を飲み込もうと大口を開けているのだからな」
 これが今ひとつエイラには理解出来ない。というより、理解出来ようはずもなかった。
 そもそもナイトウィッチの訓練を受ける理由がサーニャを独りにしないためであり、ウィトゲンシュタインの語る内容とは相反するものなのだ。
 まるで理解した様子のないエイラに、ウィトゲンシュタインは青筋を立てながらも辛抱強く続ける。
「ユーティライネン。貴様に不足しておるのは技量でも経験でもない、正確な認識だ。よいな、甘い考えは捨ててしまえ」
 エイラは曖昧に頷き、頭の片隅に置いておくことにした。諸手を挙げて賛成する気にならないだけで、超一流のナイトウィッチの言うことだ。決して頑迷な押し付けなどではなく、彼女の豊富な経験や、戦訓から導き出されているのはわかっている。
 だが、それとはまた別の次元で、エイラは目の前の少女からひどく危ういものを感じ取っていた。サーニャの消え入りそうな危うさとは対極の、敷いて言うなれば自らを燃やし尽くしてしまいそうな、烈しい危うさ。
 恐らく、ウィトゲンシュタインは決して敵に背を見せないだろう。そして、追い詰められても立ち向かい、真っ赤なバラのような血を撒き散らしながら、凄絶な最期を遂げる。
 そんな様子を想像し、エイラは哀しくなった。
 信頼出来る人間が共に飛んでいれば、そうはならないだろう。二人で戦えば負けないかもしれない。勝てなくても、もう一人がウィトゲンシュタインを説得して撤退することが出来るかもしれない。
 だが、ウィトゲンシュタインはそれを拒否してしまっている。ナイトウィッチは独りでなければならないのだと、決めつけてしまっている。
 いかに抜群の戦闘技能を持っているとしても、人間である以上常時100%の力を発揮できるはずがない。
 何が彼女を独りに拘らせるのか。考えても仕方のないことだが、エイラとしては受け入れ難い。例えそれがナイトウィッチという、特殊な環境にあってもだ。
「嫌だな……」
 本音が、つい口をついて出てしまった。
「……ん?何か言ったか」
 幸いウィトゲンシュタインは聞いていなかったらしい。お陰で罵倒の嵐にあうことは免れたが、エイラの顔は晴れなかった。
「ん、なんでもない。独り言ってやつだな」
 そう誤魔化したエイラは、ウィトゲンシュタインの耳に届かないほどに小さな声で、再び嫌だな、と呟いたのだった。

 それから一週間が経った。
 その日の哨戒から帰るや、ウィトゲンシュタインは生気のない顔つきでベッドに横たわり、枕に顔を埋めた。軍服すら脱がず、ブーツも履いたままである。
 今のウィトゲンシュタインには、そうする余裕が無い。プライドはズタズタだった。羞恥もある。だが、今胸中を支配しているのは、紛れもなく困惑だった。
 やや遅れて、エイラも部屋に戻ってきた。気遣うような視線を向けたものの、彼女もまた無言。こちらの顔は少し気まずげなだけで、普段と大きな違いはない。
 ウィトゲンシュタインのようにベッドに横たわるつもりはなく、椅子を引き、ゆっくりと腰を下ろした。
 そして、昨夜の戦闘を思い出していた。

「右に避けろ!」
 エイラが叫び声を上げ、ウィトゲンシュタインは咄嗟に身体を傾けた。間を置かず、太い光線が分厚い雲を切り裂き、二人の間をすり抜けていった。
「……敵!?」
 ウィトゲンシュタインの顔が驚愕に歪んだ。
「降下しろ!逃げるぞ!」
 エイラが再び声を張り上げた。
 完璧な奇襲を受けた。何せウィトゲンシュタインのレーダーにも反応がなかったのだ。エイラの未来予知がなければ、二人は地面に叩き落されていただろう。
「何を馬鹿な……!敵は目の前におるのだ!!」
 しかし、ウィトゲンシュタインは逆上している。雲に隠れて姿を見せないネウロイに対し、武器を乱射して弾を浪費することこそしなかったものの、代わりに無限とも思える罵声の銃弾を浴びせかけていた。
 人前で恥をかかされたということもあるが、自身の能力に絶対の自信を持っている彼女にとってこの奇襲はあってはならないものだった。
「姿が見えないんじゃ、戦いようがないじゃないか!」
 腕を掴み、一時の後退を勧めるエイラに対し、
「妾のレーダーがある!」
 そう言って一歩も譲らない。
「さっきはわからなかった!」
「うるさいッ!次に撃ってきた時が彼奴の最期じゃ!!」
「ああ、もう……!」
 この頑固者!エイラは心のなかで毒づいた。ウィトゲンシュタインだって歴戦のウィッチだ。体勢を立て直す必要くらいわかっているだろうに!
「ふんっ!妾に付き合う必要はないぞ」
「ああそうする、と言いたいところだけど、僚機だけ先に帰るわけにもいかないだろ……!」
 エイラは渋々、長機の後ろに着いた。
「何処だ……、何処へ行った……」
 そうして、二人は雲の上で釘付けになった。ネウロイは分厚い雲のどこかに隠れ潜んでいる。隙を見せればすぐさま攻撃をしかけて来るだろう。下手な動きは取れない。
 その上、相変わらずレーダーは役に立たないようだ。雲のせいだけではないだろう。恐らくネウロイの形状、もしくは特殊な能力が影響している。
 頼りになるのは五感と経験。そして、エイラの固有魔法のみというわけだ。
 エイラはこっそり背後に目をやって、ため息を吐いた。瞳を怒りに燃やし、雲の海を睨みつけているウィトゲンシュタイン。その様子を見るに、冷静さは期待できない。
「私が考えるしかない、か……」
 この場を切り抜けられ、尚且つ頑固者の長機を納得させられる策。頭が痛くなるような問題だ。ミーナがいてくれれば、なんてエイラらしくない弱音まで湧いてくる。
「やるしかない、よな」
 このワガママなお姫様には、後で絶対お説教だ。意地にも似た思いが、今のエイラを動かしていた。

 雲を突き抜け、エイラは下降していく。
 中途半端なスピードだった。まだ速度には余裕があるはずだが……。これでは後ろに着いて撃って下さいと言っているようなものだ。自殺行為に等しい。つまり、作戦だ。
「……来たっ!」
 エイラは背後を振り返り、ぐっと拳を握った。瞳には、背後へ迫る双発の黒い物体が、確かに映っている。
 数条の光線がエイラを切り裂こうと伸びた。が、それらはまるで踊るような機動でことごとくかわされた。
「大尉!」
「……待ち兼ねたぞ!!」
 そして、ネウロイの背後にウィトゲンシュタインが現れた。獰猛な笑みが、散々馬鹿にされた恨みを一気に晴らしてやろうと言っている。
 エイラをネウロイが追い、ネウロイをウィトゲンシュタインが追うという図になる。エイラは餌の役を演じたのだった。
 背後のウィトゲンシュタインに気付いてか気付かないでか、ネウロイは狂ったようにエイラへ光線を放つ。しかし、どれも紙一重でかわされ、宙を舞う蝶を捕まえられない。
 そこに背後から迫ったウィトゲンシュタインが、至近から猛烈に連射を見舞った。音を立てて装甲が削られ、銀色の破片になって落下する。
 赤い光が、ウィトゲンシュタインの瞳へ飛び込んだ。
「貰ったぞ!!」
 叫び、コア目がけて銃弾を叩き込んだ。弾が無くなるまで撃ち続けてやると言わんばかりに。
 やがて、動きが止まった。鉄のきしむ様な声でネウロイは鳴き、銀色の破片となって消滅した。
「ふぅ」
 まるで雪が降るようだ。ネウロイ自体は醜悪だが、ウィッチによって破壊された後は、まるで浄化されたかの様に美しい。
 その様子を、ウィトゲンシュタインは、先ほどとは別人のような晴れ晴れとした顔で眺めた。そして満足げに、
「ふんっ。妾を怒らせた罰じや。あの世で反省するが良い」
 ……しかし、一件落着とはいかない。この場にはもう一人、腹の虫がおさまっていない人物がいるのである。
「こーのー馬鹿姫ーッ!!」
「なんじゃ……ひゃあ!?な、なななな何をする!!」
 得意げに逸らされたウィトゲンシュタインの胸をエイラの手が掴み、揉み始めた。
「あんたのせいで私まで死ぬところだったじゃないか!」
「わ、妾は逃げて良いと……、や、やめぬかぁ……!!」
 こういったスキンシップとは無縁だったウィトゲンシュタインは、どう反応して良いのかわからない。やめろやめろと言うだけで、無理矢理振りほどくことをしなかった。それをいいことに、エイラは胸を揉みまくる。
「わ、妾はっ!じっ上官だぞぉ……!!」
「うるせー!私がいなきゃ死んでたじゃないか!!」
「そ、それは……!」
「なーにがナイトウィッチは独りだ!」
「あっ、はぅっ」
「うりうり、ここがいいのか!生意気なお姫様はここがいいのか!!」
「わ、妾が悪かった!妾が悪かったからぁ!や、やめてぇ……!!」
「基地に帰るまでこのままだ!」
「い、嫌じゃぁー……!」

 基地に到着し、ようやく開放されたウィトゲンシュタインは、涙目でエイラを睨みつけた後自室へ駆け去った。
 エイラはやりすぎたかな、などとは思ったが、最早後の祭りだ。
 一応上官でもあるし、後々面倒な気もする。もっとも、目下心配せねばならないのは部屋から締め出されることだ。ウィトゲンシュタインの部屋に居候しているのだから。
 しかし考えるのも面倒である。駄目元で部屋に向かった。
「あれ、開いてる……」
 閉め忘れか、もしくは情けか……。とにかく部屋に入り、何となく椅子に腰掛けた。

 そして今に至るのである。
 一通り思い出し終わったところで、エイラはちょっぴり後悔していた。
 ウィトゲンシュタインは中々発育がよく、揉み応えはあったのだが、やめろという命令を散々無視したわけでもあるし、軽く見ても基地を追い出されるくらいのことはありそうだ。
「んー……。ま、いっか」
 エイラは自分のベッドに横たわった。
 今日はつかれた。命を救ったことを考慮して、罰則を軽くしてくれることを祈ろう。
 そんなことを呟くうちに、深い眠りに落ちていった。

「馬鹿者……」
 寝息を立てるエイラの横に、ウィトゲンシュタインは立っている。
 自分は悶々として眠れないのに、こいつはどうしてこんなに気持ち良さそうに眠っているのだ?
 忌々しい。だが、嫌じゃない。胸を触られている時も嫌ではなかった。
 顔が熱い。熱があるのかもしれない。一眠りして、医務室へ行こう。
 身体は無意識のうちに、エイラの寝床に潜り込もうとしている。
 独りじゃないのも、良いのかもしれない。
 温かくて、よく眠れるから……。


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