スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

imprinting


 サーニャと一緒にいると、思い出す人がいる。
 ラウラ・ニッシネン。エイラたちがラプラと呼び慕っていた、スオムス時代の先輩ウィッチだ。年齢はエイラより1つ上。ハッセと同年のニッシネンは、なんというか、掴みどころのない変人だった。
 無口で無愛想。抑揚のない声で言葉短に、ぼそりと呟くように喋るのが常のこと。表情も澄まし顔のまま滅多に動かず、笑顔を見たことがないという者は多くいた。
 しかし、性格は陰湿とは程遠かった。茶目っ気があって、エイラと一緒になって悪戯をすることも多かった。彼女から学んだことは数しれずある。そして何より、優しかった。
 エイラはニッシネンが好きだった。自分の心は見せないくせに、他人の心の動きには人一倍敏感な彼女が。優しいくせに、不器用な彼女が。

 まだ、エイラがウィッチになって間もない頃の話。
「イッル」
 ベッドに寝そべって、ランプの灯りを頼りに読書するエイラに、抑揚のない声がかけられた。顔だけ向けると、仏頂面のニッシネンが立っている。
「寝なさい」
「やだ」
 ニッシネンはこの時曹長。エイラはウィッチとしては最下級の軍曹だった。
「寝る時間」
「いいだろ。明日休みなんだしさ」
「私が眠れない」
「ラプラだってやすみだろ」
「……子どもは寝る時間」
 ベッドに登り、のそのそと近寄って来るニッシネンに、エイラは小さく舌打ちした。時々やたらと頑固になる。そうなると、こちらの言うことはまったく聞いてくれない。エイラは仕方がなく身を起こした。
「寝なきゃ駄目」
「あーもー。私に構わないで寝ろよ!」
「……。私が眠れな」
「それはもういいって!私知ってるんだからな、ハンガーで整備するふりしながら居眠りしてるの。あんなうるさいところで寝れて、このくらいで眠れないわけないだろ」
「……。お姉さんだから」
「は?」
「私、お姉さんだから」
 急に話題を転じたニッシネンは、自分の方が歳上だから、面倒を見る責任があると言いたいらしかった。
「世話なんてできない癖に」
「……っ」
「部屋の掃除も洗濯も、私任せじゃないか」
「……」
「私がいないと、自分の服がどこに入ってるかもわからないし」
「ねなさい」
「話逸らすな!」
「ぐぅ」
「寝たふりすんな!!」
「ふんがー」
「そんないびきあるかよ!おい!こら!!」
 エイラは目の前に座ったまま、いびき(?)をかきはじめたニッシネンの肩を掴み、がくがくと揺らした。
「ふ、ふがが」
 しかし、ニッシネンは意外と耐える。エイラはさらに強く揺さぶった。それでもいびき(?)は止まらない。もっと力を入れてやろうと、肩を握り直したその瞬間、
「ギブ」
 青い顔でニッシネンは右手を上げた。
「気持ち悪い」
 エイラは手を離したが、ニッシネンの頭はゆらゆらと前後に揺れ動いている。
「ラプラが強情はるから」
「ぐるぐるする」
 そう言って、ニッシネンは倒れこんだ。エイラを押し倒すように。
「こ、こらーっ!!」
「うう」
「重いって……!」
「気持ち悪い」
 エイラは押し返そうとしたが、脱力した人間というのは中々重いもので、もがくだけ無駄だった。
「イッルひどい」
「なっ!ラ、ラプラも悪いんだぞ!」
「許してあげない」
「なんでだよ!」
「ごめんなさいは?」
「絶対言わない」
「じゃあずっとこのまま」
 ニッシネンは僅かに頭を動かして、エイラの横顔に頬をすりつけた。柔らかくて温かい完食に、エイラの心臓が少しだけ鼓動を早めた。
 動揺を振り払うかのように、エイラは一層声を荒げ、
「じゃあどうしろって言うんだよ!」
「ごめんなさいって言ったら、教えてあげる」
「はあ!?」
「そうしないとこのまま。明日も、明後日も、ずっとこのまま」
「ト、トイレはどうするんだよ」
「一緒に行きます」
 それは勘弁して欲しい。
「どうするの」
「くっ……」
「私はこのままでも」
「良くない!くそっ。……ごめんなさい!私が悪かった!」
「よくできました」
「ほら、これで良いんだろ!さっさと退けよ!」
「今夜はこのまま」
「……なんで!?」
「許してあげるから、今夜はこのまま」
 ニッシネンはエイラを抱きしめ、
「あったかい……」
 うっとりと呟いた。
 エイラは数度もがいてみたが、身体に回された腕は外れてくれそうにない。
「すぅ……すぅ……」
 やがて、ニッシネンの寝息が聞こえてきた。今度は本当に眠ったらしい。
 柔らかいにおいと心地よい体温に包まれて、エイラの瞼も重くなってくる。二三言、文句を口にしようとしたが、全部言い切る前に深い眠りに落ちた。
「今日だけ、だかんな……」

 寝息を立てるサーニャを見ながら、エイラは思い出していた。もう5、6年も前になる。我ながらよく覚えているなと苦笑した。
 こうしてみると、ニッシネンはエイラが寂しいとき、必ず側にいてくれた気がする。この時だって、常に淋しさにつきまとわれていた。強がっても仕方のないことだ。エイラも10歳の少女だったのだから。
 頑固で、無口で、無愛想で。度々エイラですら理解出来ない行動をするニッシネン。もしかしたら、彼女がエイラの初恋だったのかもしれない。
 久々に会いたいな。
 小さく小さく、エイラは呟いた。

スポンサーサイト

テーマ : 自作小説(二次創作)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

萩原間九郎

Author:萩原間九郎
スオムス文庫やってます。

ご意見感想その他何かありましたら、以下のアドレスか、メールフォームをご利用ください。

hanzou.oohara鼎gmail.com
(鼎を@に変えてください)

管理画面

来客数
Twitter
スオムス文庫目次

クリックするとSSのリストが開きます。

※印のついているものはR-18です。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

リンクに間違っている箇所がありましたら、お手数ですがお知らせお願いします。

【スオムス文庫@501】

【スオムス文庫@502】

【スオムス文庫@504】

【スオムス文庫@いらんこ中隊】

【スオムス文庫@スオムス】

【スオムス文庫@その他】

【スオムスいらん子中隊涙する】

【Strike Witches 1947 - Cold Winter -】

【学パロ】

【各種サンプル(ストライクウィッチーズ)】

【死にたがりの赤ずきんと気の長い狼の迂遠な関係】

【オリジナル】

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。
カテゴリ
最新記事
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
月別アーカイブ
最新コメント
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。