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未来。夢のような

 気持ちの伝え方もわからなかったあの頃。
 あんなに一緒にいられたのに、ちょっともったいなかったね、なんて。
 会うこともままならない今の私は、過去の私を軽く嫉妬してしまう。
 夢みたいな日々だった。
 きみが嬉しいとき、寂しいとき、哀しいとき、楽しいとき、それに、甘えたいとき。
 いつだって私はそこにいたかった。
 隣にいて、抱きしめてあげたかった。
 暖かかった。
 明るかった。
 思い出すだけで涙が滲む、やわらかな日々。
 今となっては戻れない。
 時は前に、未来に向かってしか、進んでくれないから。
 道草も、道を振り返るのも、歩きながらやるしかない。
 ひとりで歩くには広すぎる道幅。
 私はそこを歩いている。横を見ても、彼女はいない。
 ひとりで一歩ずつ、前へ進む。
 道の端によって、もう一人、歩けるスペースを用意しながら。
 私たちの道はまだ交わっていないと、不安に思うかもしれないけれど……。
 でもいつか、絶対に交わるよ。
 だからもう少し待ってて。
 身を寄せて、腕を組んで、身体を支え合いながらゆったりと歩ける、そんな日まで。
 
「久しぶり」
「うん……」
 再会の抱擁は、私たちのやることじゃなかった。目と目を合わせて、はにかんで。手も繋がず、肩を並べて歩き出す。
「変わったとことはないか?」
 私は首を振った。エイラの荷物を持とうと、手を伸ばす。指先が触れる寸前、ひょいとそれは持ち上がり、逆の手に握られてしまった。
「お父さんとお母さんは元気?」
「うん……。また会いたいって」
 再会した両親は、私が軍に戻ることに反対をしなかった。一緒に音楽を勉強しながら、穏やかに暮らす。私の夢だったし、お父さまもお母さまも、それを望んでいた。だけど私は空に戻った。ふたりは笑顔で見送ってくれた。たくさんの人のために、できることを。離れ離れになったのは、私たちだけじゃない。まだ家族と再会できていない人は大勢いる。別離の苦しみを、身をもって体験した私だから。行かなきゃ。私も両親も、迷わなかった。
 それに、空にはエイラがいる。エイラと飛んだ日々を、私は忘れたことがない。楽しかった。辛いときもあったけど、今ではすべてを楽しかったと言い切れる。あの日々があったから私は今渡しでいられるんだと、胸を張って言うことができる。
「ホテルどこだっけ」
「もう少し先よ。荷物持つわ」
「いーよいーよ。サーニャに持ってもらうわけにはいかない」
 笑顔で断られ、私はこっそり頬を膨らませた。
 エイラは変わらない。私はか弱いものだと思っている。確かに頼りないのは認めよう。でも、それはエイラのようなすごい人とくらべた場合だ。もう少し認めてほしい。
 角を曲がると、一軒のホテルが見えてきた。今日から一ヶ月、エイラが滞在する所だ。
 この長い休暇は、三度目のマンネルヘイム十字章のおまけ。しかし、エイラはそのおまけを、スオムス軍人最高の栄誉よりも喜んだ。
「今日からしばらく、毎日サーニャと会えるんだな……」
 ホテルを見上げながら呟いたエイラの何気ない一言に、私の胸は締め付けられた。
 そうだ。今日からまた、私たちは一緒に暮らせるんだ。期限付きではあるけれど。
 私は何度も何度も頷いた。それを見て、エイラが笑顔になる。
 部屋の番号は、五○一。今回、私はたくさんわがままを言った。この部屋の番号もそう。外泊も認めてもらって、休みもたくさんもらった。でも、それはエイラには言えない。わがままな私なんて、見苦しいところを見てほしくないから。
「いい部屋だな」
 荷物を放り出し、エイラは部屋のあちこちを点検しはじめた。バスルームがきれいだとか、ベッドが広いとか言いながら、子供のようにはしゃいでいる。
「エイラ」
 たまらず、私は服の裾を捕まえて、エイラを振りむかせた。
 何をしろ、というわけではない。何を言えというのでもない。ただ嫉妬した。エイラがこの部屋ばっかり見てるから。
「ん、どうかしたのか?」
 相変わらず、にぶちん。
 いや、だから良いのかもしれない。私の嫉妬深いところに気付かずにいてくれる。私の胸の奥がこんなにどろどろしてるなんて知ったら、エイラは離れていくだろう。
 手を離した。そしてなんでもないよと笑いかける。
 そっか。そう呟いて、エイラはソファに腰を降ろす。鈍いあなたは、これで信じてしまうんだね。嫉妬深い顔を見られたくないはずなのに、私の胸には軽い失望がわだかまった。

 数日が経った。この日も近くのレストランで夕食を終えた私たちは、そのままホテルに帰るのも味気なく、微妙な距離を保ったままに夜の街を歩いていた。
 会話はまだ、ぎくしゃくしている。離れ離れになってから二年。その間に顔を合わせなかったわけではないし、手紙もよくやりとりしていた。なのにぎこちない。会う前はああしよう、こうしようとたくさん考えていたのに、どれもこれも私の頭からは吹き飛んで行ってしまった。
 戸惑っているのかもしれない。エイラとたくさんの時間を過ごせるようになるのは、まだずっと先のことだと思っていたから。
 覚悟が出来ていない。好きな人と過ごすのに覚悟が必要というのは、一見おかしな話だけれど。でも、好きな人に自分の汚いところも受け入れて欲しいっていうのは普通だ。好きな人だからこそ、汚いところを見せたくないっていうのも。
 エイラは私に、なんども好きだと言ってくれた。嬉しかったよ。でも、覚悟はあるの?私に全部見せてくれる?私の全部、見てくれる?
 私はエイラの横顔を盗み見た。かつて並んで歩いていた時より、もっと上を向かなければならなかった。広がった身長差は、そのまんま私たちの距離だ。二年かけてゆっくりと開いた距離は、近いのに、すぐには埋まってくれない。
「座ろっか」
 前方には公園。そのベンチを指さしながら、エイラが微笑みを向けた。
 嬉しさをこらえながら、私は頷く。もやもやとして、今すぐエイラを問いつめたいくらいなのに。なのに、なのに……、笑顔を向けられるのが、どうしようもなく嬉しい。
「サーニャ、悩んでる?」
 聞かせてよ、なんて。エイラは随分と残酷なことをいう。私はそれに答えなかった。黙って俯いて、唇を噛み締めた。何も成長していないなぁ、私。二年前と何も変わっていない。結局うじうじと悩むだけで、自分の気持ちは一個も伝えられないんだ。
「あー、あのさ、サーニャ」
 夜空を見上げながら、呟くような声。
「私といると、不安になったりしないか?」
「……不安?」
「いや、ほら……。私って、自分で言うのもなんだけどさ、鈍いところ、あるから。知らないうちに、サーニャを不安にさせてないかって」
「う、うん……」
「やっぱりなぁ……」
 プラチナの髪が乗った頭をかきながら、
「好きだよ」
「え」
「サーニャが好き。全部好き。何から何まで」
「え、え」
「月並みな言葉だけど、言っとかないと、私も不安になるから」
 そしてエイラは顔を背け、
「私さ、昔ほど鈍くない、と思う。多分。だからサーニャがなにを不安に思っているのか、なんとなくわかるんだ。だから何回だって言うよ」
 呆けた顔を、していると思う。エイラはいつだって鈍くて、私を大切にしすぎて、気持ちには全然気づいてくれなかった。なのに。
「好き。好きだ。ああ、もう。恥ずかしいな。好き。サーニャの考えすぎるところも、嫉妬しちゃうところも含めて全部好き。好きなん」
 ばしっ。私は恥ずかしさに耐えられなくて、エイラの口に手のひらを押し当てていた。力加減を誤って、まるで叩いたような音が出てしまったけれど。
「ち、ち、ちょっと、待って、エイラ……。私、心の整理、できてない」
「必要ない」
 口元から手をどけながら、エイラは呟いた。私の手首を痛いくらいに強く握って、顔を近づける。エイラの澄んだ瞳が、私の視界を埋め尽くした。まるでキスする時のような距離感。何もかもが不意打ちで、予想外で。私は自分を取り繕うことすらできなかった。
「サーニャはただ、私が好きって言ったのを覚えていればいい」
 でも。それじゃ。
「何も返してくれる必要なんてないんだ。私が好きって言ったこと、その声を、サーニャが覚えていてくれる。それだけで私には十分なんだよ」
 キスを。キスをしてくれたらいいのに。
「サーニャは私が好き?」
「好、き……」
「じゃあ約束して。覚えてるって」
「わ、わかった。おぼえてる。ぜったい」
 エイラの唇が、私の唇に触れた。
 説明されるまでもない。これは約束。エイラは私の唇に、その証を焼き付けていった。
「帰ろっか」
 私は差し伸べられたエイラの手をとった。

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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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