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未来。嘘のような


「エイラ、帰るの?」
 にっこりと、サーニャが私に微笑みかけた。まるで天使のような笑顔。なのにそれを見ると、私は足が竦んで動けなくなる。狼と対峙する兎になった気分だ。身体からは脂汗が吹き出して、顔は血の気を失う。
 サーニャは笑顔のまま近づいてきて、私が左手に握ったスーツケースを奪い、部屋の中に投げ捨てた。スーツケースは勢い良く壁にぶつかり、憐れ、留め金を壊して中身を吐き散らした。
「帰るの?」
 底冷えのする様な声。少なくとも、私にはそう感じられる。この場に誰かいれば、寂しがって甘えている様な声音、と言うかもしれない。確かに寂しがっているのは事実。ただ、事実とするにはピースが一つ欠けている。サーニャがこの上なく怒っているという、巨大なピースが。
「か、帰らなきゃ。休暇、終わっちゃう」
 私は震える声で抗弁を試みた。駄目で元々だ。
「帰ってほしくない、な」
 突然声音が変わり、サーニャは甘える仔猫のように、私に身をすり寄せてきた。そしてその白い指で、私の顔の輪郭をゆっくとなぞる。ぞくぞくとした感触が背骨を走り、私は危うく、声を出してしまうところだった。
 こんなこと、一体どこで覚えたんだ……!内心毒づきながら、必死に誘惑に耐えた。今すぐにでも、跪いてサーニャの言うことに従ってしまいたい。だけど、私は責任がある立場だ。仲間や部下のためにも、屈してしまうわけにはいかない。
「ねぇ、エイラ」
 サーニャの身体が、誘うように私にまとわりつく。甘いにおいが鼻をくすぐり、声は痺れるような響きで耳奥を支配した。ああ、頭がくらくらする。
「私の言う通りにして?」
「だ、だめだよ、サーニャ……。だって、だって私……」
 従ったら、駄目だ。一つでも従ったら、私は……。
「ちょっとでいいの。お話ししましょう?」
「き、汽車が来ちゃう」
「少しだけ。三分だけなら、汽車には間に合う。そうでしょう?」
「そう、だけ、ど……」
「じゃあ、決まりね。コート、脱いで?」
「また、すぐ着る、から……」
「エイラの軍服姿がみたいの。あなたの軍服姿って、凛々しくて、とても素敵なのよ」
 私はコートを脱いだ。既に身体は汗で濡れ、何かを欲しがるように、小刻みに震えている。
「呼吸が荒いわ」
「そ、そんなこと」
「少し座った方がいいわね。跪いて」
「ま、待って」
「跪いて?」
「軍服、よごれちゃう……」
「跪きなさい」
 もう、逆らえない。一度屈した時点で、抵抗する気力は霧散してしまった。崩れ落ちるように両膝を床につけ、サーニャを見上げた。
「いい子」
 私の両頬を掴み、顔をうっとりと覗き込んでくるサーニャ。きれいだった。脳がとろけてしまいそうだ。わけもなく、目頭が熱くなる。
「エイラ。まだ帰りたい?」
「かえ、らないと……」
「私を置いて?そんなのは駄目よ」
「で、でも」
「だーめ」
 軽快な音とともに、私の視界がゆれた。続いて、頬にひりつくような痛み。頬を張られたのだと、気付くのには時間が必要だった。
「エイラはここにいるの。私と一緒に」
 反論しようにも、言葉がでてこない。頭が混乱して。サーニャに打たれた。痛い。痛いのに、甘い痛み。こんな痛みなら……。
「どうしてそんなに物欲しそうな顔をしているの?打たれたのが気持ちいい?もっと打ってほしい?」
 ちが、う……。
 三度、軽快な音とともに、右、左、右とぞくぞくするような痛みが私の脳を揺らした。甘くて気持ちがいい。腰は抜けたように力が入らず、身体は感動したように震えた。
「嬉しい?私に打たれて」
 私は横に首を振った。力が入らなくて、それは弱々しい否定にしかならなかった。
「嘘ついちゃだめ。すごく気持ち良さそうな顔してるよ。エイラは私に打たれて気持ちよくなってるの。正直に言って」
「や、やだ……。だって、私、私は……」
「それはプライド?私たちの間にそんなものは必要ない。今すぐ捨てて」
 そんな、ひどい。そう思っておきながら、私はあっさりとプライドを捨ることを決めていた。
「捨てたら私の靴を舐めて。犬みたいに。階級も、三度のマンネルヘイム十字章も、これまで戦って来た矜恃も全部放り捨てて、犬に成り下がって」
 絶対零度の命令が、私の心臓を突き刺した。罵倒としか思えない。なのに、私はこれを待ち望んでいた気すらしている。
 否やはなかった。顔を下げ、サーニャの黒い靴を見据えた。舌を伸ばし、ゆっくりと近づける。まるでサーニャの身体に舌を這わそうとしているかのような緊張感。息を荒くしながら小刻みに震える身体を叱咤し、私は顔を近づけていった。
 ……舌が、なめらかな感触を脳に知らせた。
「は、ぁ……。はぁ、はぁぁ……っ」
 はしたない水音を立てながら、サーニャの靴を舐めていた。顔を見ずとも、サーニャが喜んでいるのがわかる。屈服させた充足間に打ち震えているのがわかる。嬉しい。私は一生懸命に靴を舐めた。時間なんて気にならなかった。右が終わったら左。左が終わったら右。サーニャがやめろというまで、私はやめられない。このままずっとサーニャの靴を舐めて生きる?それもいいかもしれない。いや、幸せなんじゃないだろうか。
「可愛い……。素直なエイラ、すごく可愛い……」
 うっとりと、サーニャが呟く。主に褒められた犬。今の私を表すにはぴったりだろう。
「でも、もういいわ」
 サーニャは突然冷徹に言い放つと、舐められていない方の足で私の肩を蹴り上げた。つま先がめり込み、一瞬呼吸がとまる。
「あうっ」
 私は仰向けに転び、蹴られた左肩を抑えた。その上に、サーニャが馬乗りになる。
「サ……」
「手、邪魔。どけて」
「い、痛いんだ、肩……」
「どけてって、言っているのよ」
 どけるしかない。私は力を抜き、両手を広げて横たわった。
 サーニャの手が私の軍服にかかり、一つずつボタンを外していく。
 ああ、今日は帰れないんだろうなぁ。
 わずかに残った理性は、諦めたように呟いた。


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