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いけないミーナ先生

「トゥルーデ」
 ミーナの手招きに、バルクホルンは数瞬、ためらいを見せた。こうして呼ばれるとき、バルクホルンはあることを期待し、そして自分を恥じる。それは的外れな期待を抱いたからではなく、期待を抱くことそのものを、彼女のプライドが許さないのだった。
 ミーナがもう一度、名前を呼んだ。まだ、バルクホルンのプライドは欲求に打ち勝っている。どの道ミーナの言うことに従うにせよ、バルクホルン自身の心のために、逃げ出したい衝動は抱いておかなければならなかった。
「行きましょうか、生徒会室」
 さっと、バルクホルンの頬に朱がさした。
 ミーナが背後に回り、ぐいと背を押す。歩き出した。足取りは、重いのか、軽いのか。教室を出、階段を二階上がり、教室を三つ通過する。バルクホルンは足を止めた。生徒会室と言っても、見た目は他の教室と変わらない。だが、妙な威圧感というか、重たい雰囲気が漂っているように感じられた。
 唾を飲み込み、引き戸を開けた。なかには誰もいない。バルクホルンが入り、ミーナが続く。ミーナは後ろを向くと、戸をしめ、鍵をかけてしまった。ガチャン、という錠の落ちる音。バルクホルンはびく、と身を震わせた。
 本来、生徒会室は彼女の城だった。生徒会長という雑用係の王様が、執務を行うための部屋。バルクホルンは自分の任務に忠実だったし、それ以外に使用するつもりもなかった。
 状況がかわったのは、一週間も前になるだろうか。生徒会顧問の教師が産休を取り、代理としてミーナが入った。赤毛の美女は生徒から絶大な人気があったし、教師としても謹厳例直、誠実な人柄であったので、バルクホルン自身も密かに尊敬していたものだ。
 ある日、一人残って生徒会報を作るバルクホルンを見かけて、ミーナは言った。
「寂しくない?」
 本音を言えば、勿論寂しいに決まっている。友人が遊びに行く約束をしていても、自分は一人それを断って仕事をしなければならない。置いて行かれるのは、嫌だ。
「私の仕事、ですから」
 強がって答えたバルクホルンの隣へ、ミーナは腰を下ろした。そのまましばらく作業を見つめていたが、何を思ったか、ペンを握るバルクホルンの手を持ち上げ、
「きれいな指」
 愛おしむように、なでながら呟いた。
 バルクホルンの頭が一瞬で沸騰した。ただ指を握られているだけだ。指の造形を褒められただけだ。慌てることじゃない。まるで言い訳するように、言葉が脳内を走り回る。無駄だった。真っ赤になった顔と、早鐘を打つ心臓はどうしても、取り繕えなかった。
 ミーナはバルクホルンの肩に手を差し伸べ、相対するように動かした。
「肌、白いのね」
 冷んやりとしたミーナの手が、バルクホルンの手の甲を撫でる。乾いた手はするすると動き、気持ちがよかった。
「髪も、さらさらとして、いいにおいがする」
 もしも目の前にいるのがミーナでなかったら、バルクホルンは拒絶しただろう。上下の関係に厳しい彼女でも、道理の通らないことを拒絶するくらいの分別はある。
 しかし、ミーナの目を見ると、抵抗する気力が失せて……、いや、違う。期待してしまうのだ。心の深いところで、この人にもっと褒められたいと求めてしまう。指でも肌でも髪でも、褒めてもらえるならなんでもいい。なんでもするつもりになる。
「髪、ほどいてもいいかしら」
「……はい」
 ほとんど迷いはしなかった。
 ミーナの手が髪留めに伸びる。少しだけ顔が近づき、バルクホルンはぎゅっと目を瞑った。髪をほどくだけ、髪留めに触れただけ。なのにどうして、こんなにいけないことをしている気分になる?
「やっぱりほどいた方が可愛い」
 可愛い。そう言われるだけで、胸は高鳴った。腰は抜けたようにチカラが入らず、膝は小刻みに震えた。
「じ、じゃあ、もう、髪は結びません」
「それはダメ」
 ミーナは意地悪そうに微笑むと、
「髪をほどくたのしみがなくなるのは、寂しいもの」
 バルクホルンの髪を手櫛で梳きながら、耳元で妖しく囁いた。
 ひどい。バルクホルンはそう思った。そんなことを言われたら、毎日これを期待してしまう。それは依存の芽生えだ。勝手に依存することのつらさを、聡いバルクホルンは知っていた。それに、彼女はまだ未熟だった。成熟したように見える部分は、すべて未熟な部分の裏返し。意地を張り、虚勢を張って保っているだけの張りぼてにすぎない。どんなに強がっても、心の奥底では自分を支えてくれる、大樹の存在を持てめてやまないのだ。
 泣き出しそうな疼きが、バルクホルンの胸を覆った。身体と身体が触れ合いそうで触れ合わない。
 ミーナは全部わかっているように思えた。切なさも、何に飢えているかも、バルクホルン自身が気付いていない思いにも。そして、それらは麻疹のような、幼さ故の一時的な病だということも見抜いているだろう。
 それでも、髪をなでるミーナの手は止まらなかった。日が暮れるまで、優しい手つきでなでてくれた……。


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