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芝の布団

「背、伸びたなぁ……」
 青空の下、芝生を布団、私の胸を枕にして寝息を立てるルッキーニ。
 再会した私のガッティーノは、子猫と言うには少し、育ちすぎていた。
 ルッキーニは面影をそのままに、歪むことなく真っ直ぐ成長したように見える。それでも私には、幼いあの日のお前であったならと、そう思わずにはいられないんだ。
 唯一変化のない、お日様のにおいがする黒い髪。私は鼻を埋め、ルッキーニを抱きしめた。
 ああ、昔は腕の中にすっぽり収まったのに。成長した身体は、収まりが悪い。痩せ過ぎと言えるくらい細い身体も、記憶にある重さより、ずっと重くなっていた。
 しかし、"あの"ルッキーニが中尉か。ちょっと信じられない。手を引いているつもりだったのが、何時の間にか、隣に来ている。いつか私の手を引くようになり、ついには手を離れ、一人で遠くへと行ってしまうのだろうか……。
 私は胸にわだかまるこの感情を、なんと呼べばいいのかわからなかった。恐怖とはすこしちがう。寂しさがすべてとも、思えない。誇らしさ。諦め。羨望。心配。ごちゃごちゃだ。
「お前は私を恨んでいないか?」
 卑怯と知りつつも、声に出してしまった。どうせ寝ている。聞いてやしない。答えやしないんだ。伝わって欲しいと思いながら、直接言えない私は意気地無しだ。
 私が本国に帰るということを告げた日、幼いルッキーニは泣いた。絶対にいやだと、おいていかないでと縋ってきた。アフリカには一緒に言ったじゃないかと責められた。だけど、連れて行くわけにはいかなかった。事情が全然違うから。
 私だって別れは辛かった。でも、これでいいんじゃないかって気がしていたのも事実。いずれ私は、ルッキーニに着いてやることができなくなる。だったら別れは早い方がいい。いい機会のはずなんだ。
 自分ですら納得させられない、身勝手な理屈。付き纏う心の声を振り切るように、私は荷造りに没頭した。離れたところから、縋るようにこちらを見つめるルッキーニを尻目に。
 別れ際、俯くルッキーニを抱き寄せた。避けようとも、抱き返そうともしてこなかった。私は小さな頭に向かって一言、ごめんなと呟いた。
 いつの間に、私はこんな、卑怯な生き方しかできなくなったんだろう……。
「怒ってないよ」
 唐突にルッキーニが口を開いて、私は心臓が止まるかと思った。
「……起きてたのかよ」
「眠れなかっただけ」
 慌てて表情を取り繕おうとしたけど、効果の程は怪しい。
「シャーリーそんなこと気にしてたの?」
「……気にするだろ、普通。あんな別れ方をして、そのあと手紙もなんも、やり取りしてなかったんだし」
「そっか」
 そっか、そっかと繰り返す、ルッキーニの口は何故か笑っていた。手玉に取られたような気分。くそ、なんだか悔しい。私は悔し紛れに、胸元の開いた軍服に手を差し入れ、成長具合を確かめてやることにした。
「ぎにゃあ!」
「……うお!?育ってる!?」
「ちょっと、離してよ、シャーリー!」
「ルッキーニのくせに……」
「離してったら!」
 身を翻して逃げる、ルッキーニ。私は腰をおろしたまま追いかけなかった。
「はは、悪かったよ」
「……ぶう」
 つまらなそうに口を尖らせる、ルッキーニの子供っぽいしぐさ。私は何故か安心し、明るくなりかけた心を再び暗い雲が覆い始めた。
 それをどう勘違いしたんだろう。ルッキーニは心配そうな表情になると、
「本当だよ?本当に、怒ってないからね?」
「ああ、うん。良かった」
 違うんだ。私は、いつまでもお前に子猫でいて欲しいって、そんな不埒なことを考えているんだ。お前の成長を素直に喜んでやれない。浅ましい。聞いたらお前は幻滅するだろう。だから本当のことは言えない。気持ちだけ、ありがたくもらっておくよ。
「シャーリー?シャーリーこそ、怒ってない……?」
「私が?どうして」
「シャーリーが行っちゃうとき、たくさんわがまま言ったのに、ごめんって、言えなかった……」
「馬鹿だな」
 私は手を伸ばした。その手のひらに、ルッキーニが頭をぐりぐりと押し付けてくる。
 お前はそういうこと、考えなくていいのに……。悪いのは全部、私……。
「……馬鹿なのは、私もか」
 違う、違うよな、ルッキーニ。私は確かにお前の保護者役をやっていたし、お前の手を引いていた。でも、お前より上の人間なんかじゃなかった。私たちはコンビだった。どっちが上なんてあるはずがない。なのにどうして、私だけが悪いなんて考えていたんだろう。私が悪いって思う分だけ、お前も悪いって思うべきだった。
「なに?」
「いや、なんでもない」
 誤魔化して、私はルッキーニの頭をなで続ける。
 馬鹿だ、本当に。なあ、相棒。私は私を悪いって思わないことにする。そうすれば、お前を悪く思わなくてすむから。
「あー。やっぱり、ルッキーニがいないとダメだわ」
「わたしも、シャーリーがいないとダメだよ」
 数日したら、また私はリベリオンに帰らなきゃなんないけど。でも、来て良かった。
「今のうち、充電しとくかー」
「充電!わたしもシャーリー充電する!」
「ははっ!よし、来い!」
 飛びついてきたルッキーニと、縺れ合うようにしてごろごろと転がる。歳に似つかわしくないスキンシップ。でも、これが一番私たちらしいのかもしれない。


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