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drink in desperation


「ニパさんと管野さんはそこに正座ーーーーーーーーーッ!」
 サーシャの怒りの咆哮が、格納庫の空気をびりびりと震わせる。管野とニパは大人しく正座して、至近距離でその怒声を浴びていた。
 説教を受ける二人の背後には、大破したストライカーが二機。カールスラント製Me109K-4と、紫電二一型だ。それを整備兵たちが取り囲み、
「ああ、こいつらはもう駄目だなぁ……」
「見てくれよ、こっちのメッサーシャルフなんて、ついこないだ中破したのを一週間かけて再生したんだぜ……」
「それを言ったらこっちの紫電だって……」
 などと言い合いながら、この世の無常を見るような、諦めと絶望のない交ぜになった瞳を向けていた。
 もっとも、こんな会話はサーシャの声にかき消され、管野とニパには届いていない。
「新しいストライカーを調達するのに、どれほどの時間と手間がかかることか……!ええ!あなたたちの身に比べれば、ストライカーなんて安いものですとも!無事に帰ってきてくれただけありがたいとも思います!ですが!これから私はまた徹夜で書類と電話で折衝しなければならないんですよ!?わかりますかその労苦が!それに見合う戦果を上げた!?ならどうしてわたしの仕事は増えているんでしょう!納得の行く説明してもらえますか!ニパさん!?管野さん!?」
 本来サーシャは、部下の失敗をフォローして慰める度量を備えた、温かみのある士官だ。しかし、管野とニパが度重なる飛行脚壊しで油を注ぎ続けた結果、この通り空を焼く勢いで燃え上がっているのである。
 もっとも、サーシャのこの怒りようには多分に演技が含まれていて、感情的ではあっても理性は失っていない。計算によって水増しされた部分の方が、割合的には多いとさえ言える。
 なにせ、統合戦闘航空団というものは、ウィッチだけでは成り立たないのだ。裏で支える人間たちあってこそと言っていい。ウィッチと、それを支援する人間たちの間に不和が生じるのは、なんとしても避けたいところだった。
 あえて二人を冷たい格納庫の床に正座させ、大声で叱り飛ばすのはそのためだ。度が過ぎるくらいに怒って見せることで哀れな整備兵達の不満をなだめ、同時に管野たちへの同情心を植え付けるのである。要するに、
「命懸けで戦ってきた彼女たちを、あそこまで叱ることはないのに……」
 と思わせるわけだ。結局、この件に関しては一人で泥をひっかぶるのが、サーシャに与えられた仕事なのだった。

 これで、荒れるなという方が無理だ。
 サーシャは部屋に帰ると戸棚からウイスキーを取り出し、瓶に口を付けて一気に呷った。
「っっっぷはぁ!ああ、もう、なんで……!」
 よろめくように、椅子に腰を下ろす。
 サーシャは歳の割に、分別を付けられるという自覚があった。しかし、それはそれ。年相応に繊細な心を持ち合わせた彼女にとっては負担となることの方が多く、その分別とやらをつけてしまう度に、こうして異郷の酒を呷ってストレスを発散せずにはいられないのだった。
 冷たい液体が舌を焼き、喉を焼き、胸を焼いて、胃を焼いた。身体を内側から焼く痛みを求め、一口、また一口と、熱さが消える度に瓶を煽る。マゾヒストではないサーシャだが、この時ばかりは不快な感触を気持ち良いと思えた。妙な話だが、痛みが痛みを癒すということは、実際にある。その良い例の一つが俗に言う、自棄酒である。
 副作用で訪れる浮遊感が、サーシャの内側で膨らんで行った。愉快だ。意味もなく歌ったり、笑ったりしたくなる。今ならなんだってできる。どんなことにだって耐えられる。そんな気さえ、してくるのだ。
「別に、わかって欲しいなんて思ってないわよ」
 ぐったりと、だらしなく腰掛けながら呟いた。アルコールを大量に含んだ言の葉は、誰を酔わせるでもなく宙を漂い、霧散した。まったく、中身のこもっていない言葉なのだから、宙にとどまり続けることなどできるはずもなかった。
 喉を二回鳴らして、液体を垂下する。
 大体、どうして好き好んで嫌われなければいけないのか。
 酔った人間は正直だ。サーシャは上司のラルを恨み、降格してのうのうと中尉の生活を楽しむクルピンスキーを怨んだ。
 こんな役割、自分より歳上の二人がやればいい。クルピンスキーなど管野やニパと一緒になってストライカーをブチ壊すのも珍しくない。私に仕事を押し付けて、自分は好き放題やるなんて、酷過ぎはしないか。
 瓶を呷った。
 そうだ、アイツだ。あの男女。伯爵とかいう、ご大層なあだ名を奉られて調子に乗っているアイツが悪い。文句を言ってやれ。ついでに二、三発張り手もかましてやろう。そうすれば少しは気が晴れるに違いない。私のストレスの発散に貢献することは、部隊の運営に貢献することだ。よし、やろう。いってやろう。

「いるんでしょお!クルピンスキー中尉ぃ!!?」
 やや浅黒い、エキゾチックな肌色の裸体をシャツで包み、それに寝巻き用のズボン一枚という姿で眠っていたクルピンスキーは、唐突に訪れた闖入者による、破壊行為一歩手前のノックで眠りを覚まされた。
「なっ、なに!?」
 慌てて身を起こしたところで、もう一発、ドアが叩かれる。……叩かれたのか、殴られたのか、蹴られたのかはわからないが、とにかくクルピンスキーは扉が粉砕される前に開けることにした。
「おゥ、いましたね、このスケコマシ」
「ス、スケ……!?」
 部屋にずかずかと上がり込む闖入者。頭一つ分小さなサーシャは、クルピンスキーの襟首を掴み、見上げるようにして睨みつけた。目は据わり、アルコールの臭いをぷんぷんとさせ、日頃のサーシャにあるまじき言動をしている。泥酔しているのは明らかだ。
「あなたのおかげで私は嫌われ者ですよぉ!もっとしっかりしなさいよ!歳上のくせに!」
「え、あ、ええ……?」
 色々と唐突過ぎて、クルピンスキーは状況がよくわからない。日頃真面目なサーシャが泥酔して部屋に乗り込んできて、何故だかわからないが一方的に責めてくる。整理してもさっぱり理解できない。
「いっつもいっつもねぇ!あちこちふらふらふらふら!たまには手伝いなさいよ!」
「は、はあ……」
 サーシャは突き飛ばすようにして手を離すと、部屋の真ん中のテーブルセットのところまで荒々しい足音で歩き、どっかと、椅子に腰をおろした。
「ああ、大尉、ちょっと落ち着こう。今水持ってくるから」
「敬語使いなさいよぉ、敬語ぉ!今は中尉なんですからね!私の方が偉いんですからね!」
「ああ、うん。すみませんでした、大尉殿。とにかく今、お水を用意しますから……」
「酒」
「はい?」
「酒出しなさいよ。どうせ隠し持ってるんでしょう。……それと、安酒出したら承知しませんからね」
 クルピンスキーは経験上、こういう酔い方をしている人間には逆らわない方が良いことを知っている。苦笑しながらも、戸棚から秘蔵のワインを取り出した。
 やれやれ……。この間あの子から贈られた、ガリアワインの逸品だというのに。まさかこんな使い方をしないといけないなんて。
 そんなことを一応考えてはみたものの、クルピンスキーは大して躊躇わず、慣れた手付きでコルクを抜いた。気前が良いというより、あまりものに執着を抱かない性格なのだった。
「はい、大尉。持ってきましたよ……」
「んが……」
「……寝てるし」
 とりあえずグラスを置いて肩を揺すってみるが、だらしなく眠るサーシャは、全く反応を示さなかった。
「はぁ……。なんだったんだろう」
 あの荒れっぷり。自棄酒でも呷っていたのだろうか……。それとも、酔うといつもああなのか?とにかく、それについては明日、起きてから問いただすことにしよう。覚えていないかもしれないが。
 ベッドに寝かせてやるべく、クルピンスキーはサーシャを抱き上げた。
 軽い……。日頃強気なせいかあまり気にならなかったが、サーシャはかなり華奢だった。この部隊ではロスマンの次に貧相なのではないか、とすら思える。ニパは言うに及ばず、管野ですらもう少し健康的な身体つきをしている。
「私は、悪くない……」
「え?」
 起きたのかと思ったが、そうではないらしい。
「みなさんと……。怒りたくなんか。私、ばっかり……。ごめんなさい……。私だって。嫌い……」
 サーシャの寝言は支離滅裂だった。
 しかし、なんとなく、クルピンスキーは腑に落ちたような気がしたものだ。
「おやすみ、大尉」
 頭を撫でてやるとむずがゆそうな顔になり、なんだかそれが幼く見えた。
 歳上のくせに、か。クルピンスキーの顔は苦笑に歪んではいたが、どこかやさしげだった。



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