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ペテン師

 それはまだ、バルクホルンもハルトマンもクルピンスキーもロスマンも、みんなが原隊に揃っていた頃の話。
 クルピンスキーは得意げに笑いながら、地べたに転がされたバルクホルンを見ていた。
「今日は何の日かわかるかい、トゥルーデ」
「知らん」
 裸にシーツを巻きつけられ、さらにその上を鎖でがんじからめにされたバルクホルンの機嫌が良いはずもない。すぐにでも絞め殺してやると、その血走った目は語っていた。
「答えられたらその鎖を外してあげよう」
 クルピンスキーの余裕ぶった笑いが、一々神経を逆なでする。
「卑怯者め!寝込みを襲うとは……!」
 負け惜しみと思いつつも、バルクホルンは言わずにはいられなかった。実際のところ卑怯だろう、寝ている人間をシーツごと縛り上げるというのは。そんなことをされていながら、全く気づかずに寝ていた自分も情けないが。
「気にしない気にしない。ほら、私ベッドの上の女の子を扱うのは得意だから。熟睡してるトゥルーデなんてちょちょいのちょいってやつだよ」
「自慢になるかァ!!」
「どうせ勝負するなら得意なジャンルに持ち込みたいしね」
 起きているバルクホルンを、力づくで取り押さえられる魔女はまずいない。それはつまり、人類には不可能ということだ。年齢は十四歳で、魔力はピーク寸前。正面から挑んで怪我ですむなら、それは幸運というものだろう。クルピンスキーは若いうちから車椅子の生活を強いられるような人生は御免なのだった。
「寝てるトゥルーデも可愛かったよ」
 ぷぷぷ、と口元を抑えて笑いを堪えるクルピンスキー。絶妙にウザい。
「さっさとほどけ!貴様は許さん!」
「やだなあ。そう言われたらますますほどくわけがないじゃない。殴られるのわかってるのに。でも、そうだな。トゥルーデが目を潤ませて、『お願い、クルピンスキー。あなたの気持ちは泣くほどうれしいけれど、最初からこういうプレイは良くないと思うの。わたしだって女の子なんだから、最初は優しくして……』っていうなら考えなくも」
 クルピンスキーは、くねくねと自分の身体を抱くようにして、裏声でそうのたまった。
 その瞬間。メキィッと、硬いものにヒビが入るような、良い音がした。続いてギチギチという、悲鳴のような音も。
「……冗談。冗談だよ?」
「貴様の冗談は笑えん。これが最後だクルピンスキー。今ほどけば数日中に血尿が止まる程度で済ませてやろう」
「それ結構生死の境彷徨ってるよね……。どうしよう。このまま埋めるしかないのかな……」
 バルクホルンはバルクホルンで物騒だが、クルピンスキーもあっさりと、恐ろしいことを言ってのけた。
「……まあ、トゥルーデ。折角だからこうしよう。さっきの私の質問、覚えているかな」
「今日は何の日か、だろう」
「そうそう。正解できたらほどいてあげるし、私を好きなようにしていい。殴るなり、奴隷にするなり、慰み者にするなりね。……ちょっと、軽い冗談なんだからそんな怖い顔しないでよ。ああ、で、その代わりに三回以内に正解出来なければ、一個だけ私の言うことを聞いてもらうよ」
「……ほう。面白い。乗ってやる。しかし、お前だけが知っているものではないだろうな」
「まさか。それじゃあフェアじゃない。トゥルーデだって知っていることさ。それより、私が勝ってもちゃんと約束は守ってくれるんだろうね?」
「二言はない」
「よろしい。じゃあ、早速答えを聞かせてもらいましょうか。特に制限時間はないからゆっくりでいいよ」
「ふむ。……そうだな、誰かの誕生日か?」
「ぶー。誰かの誕生日ではありません。……っていうか、それ大分アバウトだよね。合ってても正解にはできないな。ちゃんと名前まで言ってもらわないと」
 クルピンスキーは仕草で挑発することを忘れず、ちちち、と指を振ってみせた。
「じゃあボニン司令の失恋一周年、とか」
「ハズレ。……意外とひどい事を言うね」
「お前らが祝いそうな日に検討をつけただけだ。……くそっ、あと一回か」
 露骨な舌打ちをし、バルクホルンは考えた。
 こいつらの祝いそうなこと。大体は碌でも無いが……。考えろ、考えるんだ。わざわざクルピンスキーがこういうことをしてきた。そこに意味があるはずだ。こいつ自身のことではあるまい。自分の祝い事にはあまり執着しない奴だ。……待てよ?執着か。なるほど、こいつはやたらとハルトマンを可愛がっている……。そのハルトマンに関わることだとしたら?大いにあり得る。なにせ、人のイベントに悪乗りするのは大好きな奴だから……。
「わかった」
「ほほう。教えてもらいましょう」
「ハルトマンが着任した日だ。あのいけ好かないマルセイユ少尉と一緒にな」
「トゥルーデ……」
 クルピンスキーは残念そうな表情を浮かべた。それが、自分の答えが当たっていたせいなのか、外れていたせいなのかはわからない。バルクホルンは喉を鳴らし、正解を待った。
「トゥルーデ。それ、フラウに聞かせたら泣かれるよ。フラウの着任はもう一月後だ」
「……何?」
「ようするに、ハズレ。じゃあ、言うことを聞いてもらいます」
「ま、待てクルピンスキー!」
「二言は無いんでしょ?じゃあ、ほどくからね。絶対に約束は守ってね」

「ぶふっ!あははははははははは!!!!なになになになにっ!?なんなのそれっ!!!!!?あはははははははははははははははは!!!!!!」
 談話室に入ったバルクホルンを、一番最初に目撃したのはロスマンだった。ロスマンは口に含んでいたコーヒーを噴きだすと、それを拭きもせず、涙を流しながら大爆笑。続けて周囲の人間が何事かとバルクホルンに視線を向け始め、立て続けに起こる爆笑で、部屋は割れそうな勢いだった。
「……悪夢だっ」
 バルクホルンは履かされたベルトの裾を握りしめ、羞恥に耐えた。
「可愛い!可愛いわよ、トゥルーデ!」
 ゴシック調の黒いドレス。ベルトは短く、白いズボンが少しだけ裾から覗いている。まず、この堅物には一生着る機会が訪れないはずの衣装だった。
「……黙れ、ロスマン」
 顔を真赤にしながら、バルクホルンは搾り出すように抗議する。
「これ、私のチョイスね」
 その背後からひょっこりと、元凶が姿を現した。
「伯爵の?いいセンスしてるわ。いや、ほんと」
 そう言っている割に、ロスマンの顔は笑っていた。どう解釈しても褒め言葉ではない。
「いやぁ、ちょっと前にお付き合いしてた女の子からもらったんだけど、サイズが合わなくてね。ふと思い立って、寝ているトゥルーデに着せてみたらなんとぴったり」
「……私が寝ている間に、そんなことをしていたのか」
「はいはい、怒らない怒らない。約束でしょ?この衣装を着て今日一日談話室でみんなにサービスするって」
 クルピンスキーの一言で、談話室は再び湧き上がった。口笛、指笛、歓声、拍手が、まるでハリケーンのように部屋中を跳ね回った。
「じゃあ、そうだね……。あ、フラウ。いいところに。トゥルーデ、フラウに何か飲み物持ってってあげてよ」
 部屋から逃げ出そうとしていたハルトマンは、クルピンスキーに首根っこを掴まれて引きずり戻された。
「え、あ、や、私はいいです、私は!」
 今は後難を恐れて逃げ出したい心境のハルトマンだった。
「……まぁ、いいから、座れ、ハルトマン少尉」
「ほら、トゥルーデもこう言ってるし」
 顔を真赤にして、もじもじするバルクホルンは確かに可愛い。可愛いのだが、やはり後が怖い。それと、後々気まずく接されるようになるのも嫌なのだった。
 しかしそう言われては座らざるを得なかった。
「何を、お持ちいたしましょうか」
「え、あ、じ、じゃあ牛乳で……」
 おずおずと答えたハルトマンの前に、ずいとクルピンスキーが割って入り、
「コーヒーが良いってさ、トゥルーデ」
 勝手に注文を押し付けた。
 バルクホルンはつかの間、どちらを持ってきてやろうかと考えたが、ハルトマンがあまり苦いコーヒーを得意でなかったのを思い出し、かわいそうだとは思ったが、八つ当たりの犠牲になってもらうことに決めた。
「うげ、ブラックコーヒー……」
 机の上に置かれた飲み物を見、ハルトマンは恨めしげな視線を、バルクホルンとクルピンスキーへ交互に向けた。
「まあまあ、そう嫌そうな顔をしない。本当に美味しいのはここからなんだから」
 得意げな顔で、クルピンスキーはバルクホルンの手を取った。
「はい、トゥルーデ。これ持って」
「……ミルク壺?」
「これを、少しかがむ感じで……そう、その角度。こうすると胸の谷間がフラウに……」
「ち、ちょっと伯爵!」
 不覚にもどきりとしてしまったハルトマンは、慌ててクルピンスキーを止めにかかった。しかし、当のバルクホルンは顔を赤くしたまま、
「すまない。見苦しいだろうが……、我慢してくれ。約束なんだ」
 そう苦々しげに呟いた。
「い、いや、見苦しいなんて……」
 ハルトマンは凝視するわけにもいかず、かといって目が小さな谷間へ吸い込まれていくのも止められず……、非常に気不味い。これを眼福と割り切れるほどの図々しさは、この時のエーリカには無かった。

「……あなた、どんな魔法を使ったの」
 ロスマンは胡散臭そうにまゆをひそめながら、クルピンスキーを部屋の隅へとひっ立てた。
 結局、バルクホルンはずっとハルトマンにつきっきりである。クルピンスキーがそう指示を飛ばしているのだ。周りはちょっと残念そうな顔をしているが、ハルトマンなら仕方がないという空気である。
「んー?簡単簡単。ちょっと勝負挑んで勝っただけ。トゥルーデ負けず嫌いだから。……あ、トゥルーデ!それじゃあ次はフラウの隣に座って……、そう、胸を押し付けて!牛乳をちゃんと両手で……、そうそう、お酌をね!」
「勝負って……、あのバルクホルン中尉に?勝てたの?」
「勝ったからこうしてるんじゃない」
「それはそうなんでしょうけど……。でも、あなたが勝てるのってナンパ競争くらいじゃないの。まさかそれにトゥルーデが乗るとも思えないし」
「失礼だな。悪知恵もトゥルーデより上のつもりだよ」
「ああ、ペテン……」
 クルピンスキーは心外そうに肩をすくめてみせた。
「クイズさ。今日は何の日でしょう、ってね。トゥルーデは正解できなかった」
「……ちなみに、答えは?」
「何でもない日」
「……あなた、殺されるわよ」


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