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囲い者

 坂本さんが借りてくれた家に、私はいた。置き手紙だけ残して家出した私は、気の済むまでいていいという坂本さんに甘えてここに住み着いた。押しかけた私の顔を見て、ちょっと困ったように笑った坂本さんは、事情を聞かなかった。私も喋らなかった。だって、喋るだけの理由がない。例えば若気の至り。例えば何をやっても遅々として進まない、退屈な生活からの逃避。言ってしまえばそんなところ。お母さんやお祖母ちゃんには何も言っていないけど、多分必要なことは坂本さんが伝えてくれている。面倒がおこらないのはいい。その程度しか感じないけれど。
「宮藤?」
 引戸を開け、玄関をくぐった坂本さん。帰ってきた、というには語弊がある。坂本さんはここに住んでいるわけじゃない。かといって、住んでないわけでもない。一週間のうちの数日をここで過ごし、あとは官舎で起居しているのだ。
 囲い者。私をそう呼ぶ人がいた。それを聞いて、私は家から出なくなった。なぜだろう?傷つけられるような誇りを持ち合わせているわけでもないのに。それに八割方その通りじゃないか。しかし、どうしても、私は外に足を踏み出す気になれないのだった。
 必要な食料は坂本さんが置いていってくれるし、洗濯や掃除は坂本さんがやってくれた。料理だけは私がする。坂本さんが唯一出した条件が、それだったからだ。それだけ。あとは置物のように何もしない。これは楽だ。何も悩まなくていい。ただ日が登り、沈んで行くのを感じるだけの、浪費的な生活。あるとき、死んでいるのと一緒だ、なんて考えもした。まぁ、どちらでも良い。
 出迎えもなく、一人で着替えをし、暗い室内に明かりを灯した家の主は、壁に背を預けた私を見て眉をしかめた。
「また、何も食べていなかったのか」
 怒っているのでもなく、呆れているのでもない。苦しそうな表情に見える。肩に伸ばされた手を、私は払い除けた。よくあることだ。気乗りさえしなければ、三日たべないことなんて。坂本さんもそれを知っているはずなのだから、いまさらそれを咎めることもないだろうに。まったく、煩わしかった。
「言ったじゃないですか。今日は外で食べてきてくださいって」
「だって、お前。今日は折角こっちに泊まれる日なんだから……」
 私はもう目を開けるのすら億劫になって、
「意味がわかりません。すみませんけど、今日はお料理しませんよ。外で食べてきてください」
 追い出されるかもしれないな、という感じはある。それすらどうでもよく感じた。ここの次はどこに行こう?坂本さんからお金を盗んで、ブリタニアにでも行こうか。そんな隙があればだけど。
「宮藤……。なあ、今から何か買ってくるから。だから、一緒に食べよう。何から食べてくれ。なあ、宮藤。なあ、なあ……」
 私は返事をしなかった。諦めたように俯いた坂本さんが出て行き、家の中に耳鳴りのする静けさが戻ってきた。
 大人なら、こういうとき酒を飲むのかもしれないな。なんとなく、そういうことを考えていた。

 人生を坂に例えるのは、上手い例だと思う。前に進むのは辛く、つまずいて起き上がるのは難く、一度転落し始めると、勢いづいてあれよあれよという間にどん底へ。しかしそれは、人との関係においても言えることだった。一度間違えた私と坂本さんの関係は、瞬く間に悪化していった。それは険悪になったという類のものではなく、悪質で、陰湿で、爛れた不健全な方向へ向かっているということだ。
 坂本さんは、頻繁にこの家へ足を運ぶようになった。そして細々と、私の世話を焼く。昔ならとうの昔に私を殴り倒して、無理矢理立ち直らせたに違いない。まったく何もかも、昔の坂本さんとは違ってしまっているのだった。
「宮藤……食え。食ってくれ」
 買ってきたお弁当を、坂本さんはすがる様に私の口へ入れようとする。私は顔を背けた。三回に一回くらいは従うが、その時も鳥の餌ほどしか食べない。食べる気がしないのだから、仕方がない。おかげですっかり痩せてしまった。
 私は箸を持つ坂本さんの手を握り、驚いた様に見開かれた目を見つめた。みるみるうちに、坂本さんの顔は赤く染まる。
「ま、待て……」
 言葉だけの、弱々しい抵抗。やりたくないことをやらされようとしたとき、こうすれば回避できることを私は知っていた。腕を引き寄せる。私の弱った腕力でも楽に引けるくらいに、坂本さんは脱力していた。
「何期待してるんですか。いやらしい」
「き、期待って……」
「してるんでしょう。正直に言えばいいのに」
 部屋着の浴衣、その胸元に、私は腕を差し入れた。
「夕べ素直になったと思ったら、またすぐ意地を張るんですね」
「や、やめろ宮藤……」
「じゃあ、突き飛ばせばいいじゃないですか。それとも殴り倒しますか?」
「そんなことできるわけ」
「そうですよね、できるわけないですよね。期待してるのに。始めてやったときから、毎日のようにここへくるようになった坂本さんが」
 坂本さんは違うとか、そんなんじゃとか、か細い声で否定したけれど、まったく説得力がなかった。
 私は坂本さんの胸を揉んだ。抵抗の少ない柔らかな感触。掌からこぼれる乳房は、数年前よりも大きくなっている。坂本さんの熱い息が、私の首筋をくすぐった。浴衣が乱れ、朱のさした白い肌が露わになり、汗の付着した黒髪からは甘いにおいが漂いはじめていた。首筋を吸おうとした、その時。
「やめろ!」
 唐突に、私は突き飛ばされた。
「駄目だ、宮藤。こんなこと……」
 私の頭は混乱していたが、なんとなく、坂本さんが私を拒んだのだということだけは感じていた。
「もう、やめよう。な、宮藤。駄目だ、こんなことをしていては……」
「……何を今更」
「遅くない。まだ遅くない」
 はだけた胸元を隠しながら、坂本さんは涙に滲んだ目で、私に呼びかける。
「知った風な口、きかないでくださいよ。もう遅いですよ。全部嫌になっちゃったんだから」
 こんな状況なのに、私はそんな坂本さんから目が話せない。
「手伝うから。何でも手伝うから。なぁ、宮藤……。立ち直ろう」
 坂本さんを押し倒した。
「そんなこと、もうどうでもいいんで」
「みや、ふじ……」
 犯されすすり泣く坂本さんは、実に良いものだった。



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