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焼き過ぎたきもち

 まっくらな部屋。小さな影が二つ、ベッドの上にちょこんとのっかっている。
「トゥルーデは、私のこと、好き……?」
 小さな影の小さな方が、微かに震える声で問いかけた。大きい方は一瞬、声をつまらせた。そしてゆっくりと、決心したように口を開き、
「好きだ」
 毅然とした声で、そう答えた。
 小さな影が、大きな影の胸に倒れこんだ。いや、抱きついたのか。大きな影は優しく受け止め、恐る恐る背に腕を回し、戸惑うように抱きしめた。小さな影が、幸せそうに頬を摺り寄せる。抱きしめる腕にも力が入った。
 小さな影はひたすら幸せだった。大きな影はとにかく照れていた。長くすれ違いと遠回りを繰り返した二人は、ここでも少しだけ食い違った感情を抱いていた。それでも、明日を楽しみにする心は一緒。これまでとはちがう、未来の自分たちの関係に、胸を踊らせていた。

 幸せそうな顔で眠るハルトマンを、今日だけはどうも起こす気にならず、バルクホルンは一人で朝食を取りに食堂を訪れた。
 いかに非番とはいえ、寝坊を見逃してやるとは自分らしくもないと、バルクホルンは思う。しかし、これも心境の変化というのだろうか……。朝日に照らされた柔らかな寝顔を見ると、怒鳴り声も喉を通過する頃には溜息に変わってしまった。この分では、これから苦労するだろう。甘やかさないよう、気を引き締めなければなるまい。
 ハルトマンにとっては甚だ迷惑な決意を新たにしつつ、バルクホルンは食堂の扉を押した。
「おはよう!堅物!」
 シャーリーがフォークに突き刺した芋を高々と掲げ、真夏の太陽並に明るい声を投げてきた。朝だというのに元気なことだ。バルクホルンはやや皮肉なことを考えながら、その向かいに腰を下ろす。
「朝食は、コレか?」
 山盛りの芋、バター、塩。テーブルの上にはそれしかない。
「今日は私の番だったんだけどな。ちょっと寝坊しちゃってさ」
 ちょっとの寝坊ではこうはなるまい。本当にぎりぎりだったんだろう。ルッキーニあたりがぶーぶー文句を言ったに違いない。シャーリーのことだから、すでに丸め込んでいるだろうが。
「まぁ、良い。私にとってはどんなメニューだろうと大した違いはない」
「おいおい、いいのか、そんな事言って?毎朝一生懸命作ってくれる宮藤の朝食とこのイモが一緒かよ?聞いたら悲しむだろうなぁ」
「なッ!違う、断じて違うぞ!宮藤の料理は別格でだな!」
 ここにいない宮藤に言い訳するように、バルクホルンはまくし立てた。シャーリーはにやにやとその顔を眺めながら、
「わかった、わかったから食えよ。ほれ」
「んぐ」
 一口サイズまで囓って小さくした芋を、バルクホルンの口に突っ込んだ。
「おふぁふぇふぁいふふぉいふふぉ……」
「何言ってんだかわかんねー。食い終わってから喋れよ」
 両肘をテーブルにつき、手の甲に顎を乗せながらバルクホルンを見上げるシャーリー。
 その様子を、じっと見つめている一組の視線があった。
「トゥルーデ?」
「んむっ?ファ……、ごくっ。ハルトマンか。早いじゃないか。もう少し寝てても良かったんだぞ」
「おお!?お前、どうした?普段のお前じゃ有り得ない発言だぞ」
「五月蝿い。お前は黙ってろ、シャーリー」
「へいへい」
 剣呑なようで、剣呑じゃない。まるでじゃれあいみたいな、バルクホルンとシャーリーのやりとり。ハルトマンの顔はどんどん暗くなっていった。
「お前もこっちにこい。腹が減ってるだろう」
 そんなことにはまったく気づかないバルクホルンは、普段通りの態度でハルトマンを手招きした。これがまた、ハルトマンには気に食わない。
「……いい」
 吐き捨てるように拒絶の言葉を残し、背中を向けて食堂を出て行ってしまった。
「なあ堅物。お前、ハルトマンになんかしたの?」
「い、いや、したにはしたが、なぜ怒ってるのかは……」
 困惑した二人は芋を口に運ぶのも忘れ、ぽかんと食堂の扉を見つめていた。

 この日、ハルトマンはどこにもいなかった。
 どれだけバルクホルンが探しても、呼んでも姿を見せない。本当は、ずっとバルクホルンの後ろをついて歩いていたのだが、焦ってハルトマンの姿を探すバルクホルンはまったく気づかなかった。
 ようやくハルトマンが姿を現したのは、深夜になってからだった。
「ハルトマン!お前、いったい何処にいたんだ」
 安心したやら、ハルトマンの暗い顔が気になって仕方がないやら、バルクホルンはフクザツな心境で、言葉を荒らげた。
「トゥルーデは楽しかった?シャーリーとの朝ごはん」
「な、なに?」
 底冷えのするような声に、バルクホルンの額を冷たい汗がつたう。
「宮藤との訓練は?リーネとの打ち合わせは?サーニャの見送りは?ルッキーニとの追いかけっこは?どう?楽しかった?」
 だからなんだ。そこまで言いかけて、これを言ってはいけないという予感がそれ以上続けさせなかった。
「楽しそうだったよね。笑ってたしね」
 へらへらと、ハルトマンは笑った。たぶん、笑ったのだろう。口を歪め、まるでピエロのような笑顔だ。ハルトマンに似つかわしくない、真っ暗な笑顔。バルクホルンは胸が締め付けられるようで、何故だと聞いてしまいたかった。しかし聞けない。理由がわからないまでも、自分のせいだということくらい、わかっている。
「べ、別に普段通りで特に楽しいということは……」
「ああ、そうなんだ。いつも楽しいんだ」
「フラウ、フラウ。落ち着け。変だぞ、今日のお前は」
「変?」
 ハルトマンの顔が、突然殺気を帯びた。
「変にもなるよ!!!!!」
 びくりと、バルクホルンの肩が震えた。
「昨日、私のこと好きだって言ったよね!?」
「い、言った」
「嘘つき!!!!」
「う、嘘なんてついてない!」
「何、言ってるの?」
 ハルトマンに一方的に責められている。理由はわからない。逆に怒り返したいところなのに、バルクホルンの喉は張り付き、声が出てこなかった。
「ねぇ、嘘じゃないんでしょ。私のことが一番好きなんでしょ」
「も、もちろんだ」
「じゃあ、私のことだけ好きになってよ。他の奴らにへらへら笑わないでよ。意味が分からないよ。どうしてそういうことするの。私へのあてつけ?それとも口だけなの」
 支離滅裂だ。
「落ち着け、私が悪かったなら謝る。だから、一旦落ち着いて話そう。な、ハル……」
「うるさい!!!!」
 ハルトマンが身体をぶつけてきた。バルクホルンは瞬時に身をかわす。何故受け止めてやらなかったんだと思うのも束の間、ハルトマンの手に握られたナイフの鈍い光に、背筋を冷たい何かが駆け抜けた。
「な、何をする!」
「私は怒ってるんだよ、トゥルーデ。落ち着けとかさ、そういうこと言って欲しいんじゃないの。わかる?私に許して欲しければ、私が言って欲しいことを言って。して欲しいことをして。許して欲しくないなら、私は一生トゥルーデを許さない」
 『お前を殺す』という言葉が形を変えて、『一生許さない』という言葉になっていることを、バルクホルンは肌身で感じとっていた。もとより死ぬのを怖いと思ったことはない。しかし、死ぬより遥かに怖いものを知っている。
「フラウ」
「なに」
「許してくれ、とは言わない」
「じゃあ」
 ずいと足をすすめるハルトマンを、バルクホルンは手で制した。
「だから、頼む。もう一度、夕べのやりとりを、やり直させてくれないか。そしたら、お前の好きにしていい。殺すなりなんなり、好きにするといい」
「どうして?どうしてもう一回?昨日のは嘘だったの」
 ぽろり。ハルトマンの目尻から、涙がこぼれ落ちた。
「違う。あれは、お前を好きだというのは、私の本心だ。でも、今日私は間違えてしまったのだろう。お前を泣かせるほど酷い間違いだ。だから、一度だけやり直させて欲しい。明日のお前が幸せでいられるように、私はもう一度、心を伝えるところからやり直したい」
 からん、と音を立てて、ナイフが床に落ちた。つづいて鈍い音。バルクホルンが目をやると、ハルトマンは膝をつき、手のひらで目を覆って泣きじゃくっていた。
「卑怯者、卑怯者」
「すまん」
 バルクホルンは今だに、ハルトマンに何を責められているのか、よくわかっていなかった。しかし、ひとつだけ。自分が考えうる最大限の表現をもって、ハルトマンを愛してやらねばならないとそれだけは理解した。
 当たらずとも遠からずだろう。不器用なことだ。もっとも、それはハルトマンにも言えたことかもしれないが。
「フラウ」
「うん」
「好きだ」
「もっと言って」
「ああ。好きだ。好きだ、好きだ、好きだ……」


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