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Strike Witches 1947 - Cold Winter - 中編

Strike Witches 1947 - Cold Winter -

 翌日、坂本はパリ市内の病院にいた。検査のため、一晩だけ入院していたのだ。あの夜、大丈夫だと言いはる坂本を、ペリーヌと土方は二人がかりで納得させた。
 退院の手続きを終えた坂本は、無言で車に乗り込んだ。土方が車を発進させてから十数分、エンジンとタイヤの音だけが車内を支配した。
「昨夜は迷惑をかけたな」
 坂本はようやく口を開いた。口を閉ざしていたのは、自身の不甲斐なさに憤っていたためだ。魔力が無くなったとは言え、昨夜のような醜態を晒すとは。弛んでいたと言わざるを得ない。
「……私こそ、お守りできずに申し訳ありません」
 そしてそれは、土方も同じだった。ネウロイの前に男は無力である。それでも、土方は坂本を守りたかった。守らねばならなかった。それがあの体たらく。まったく情け無い。ペリーヌが現れなければ、庇おうとした土方ごと、坂本は灰すら残さず葬り去られていただろう。
 土方はハンドルを握りしめた。坂本も、軍刀の柄尻を握る手が震えている。二人とも自身の不甲斐無さと、矜恃を傷つけられた怒りで燃え上がっていた。
「なぁ、土方。この借りは必ず返してやろう。私たちの手で」
 土方は力強く頷いた。復讐を果たさなければ前には進めない。プライドを傷つけられた人間というのはそういうものだ。そしてこの場合、復讐は事件の解決によって成就される。私怨と言われようとも、解決へのモチベーションが上がったのは事実だった。
「急ぎましょう、中佐。動いているのは、我々だけではありません」
 急がなければならない理由は、解決を目指すライバルがガリアだけではないことにもある。事が事だけに、カールスラントやリベリオン、ブリタニアといった関係のない国の人間も動いている可能性は高い。そしてそういった連中の目的は、恐らく碌なものではないだろう。事件をまっとうに解決するとも思えず、犯人がその手に落ちる前に捕まえなければならない。
 私怨と正義。この場合、それらは両立するものだった。
 土方はアクセルを踏み込んだ。ぐん、と引っ張られるように、車が加速する。日が沈みつつあるなか、舗装されていない砂利道を、風を切って進んだ。

「あまり大きな基地ではないな」
 車を降り、坂本は呟いた。二人は近くの山からこっそりと基地を見下ろしていた。ガリア軍に行動を制限されるのを嫌い、基地へは向かわなかったのである。
「しかし、今ウィッチが在籍している施設の中で襲撃を受けていないのは、五○六基地を除くとここしかありません。扶桑陸軍のウィッチが一時的にこちらへ移動していることもあり、結構な大所帯になっています」
 土方が双眼鏡を覗きながら答えた。
「奴らは五○六を仕上げに回すと思うか?」
「恐らく。あの男の行動は示威としか思えません。だとすれば、五○六基地を襲う時期は、一番最初か最後でしょう。そうするのが一番衝撃的ですから」
「五○六に十分な準備をさせ、それでも打ち破れる自信があるというわけか。……しかし、その割にはやり方がせこいな。これまで夜陰に乗じた奇襲しかしていない」
「追跡を恐れてのことと思われますが」
「かもしれん。なんにせよ、捕まえて吐かせんことにはな」
 とにかく、すべてが推測だった。情報は少ない。人手も足りない。フットワークの軽さと、忍耐力でそれを補う他はなかった。
 二人はこの基地を見張ることに決めた。ただし、見張るのは夜だけだ。坂本が言うようにこれまでの十数回の襲撃はすべて夜。昼間は休息と調査に当てることにしていた。いざという時に疲労で動けないのでは、まったく意味がない。
 見張りを始めて三日が経過した。
「まだ姿は見えんか」
 車から降りつつ、坂本は聞いた。土方が無言で首を振る。一時間ごとに交代で車内で安む取り決めだった。今度は坂本が外で見張る番である。
 土方は坂本の温もりが残る毛布を身体に巻きつけながら、様々なことを思案していた。
 真っ先に浮かぶのは、再びあのネウロイと対峙した時、どうやって倒すかということである。
 先にあの男を抑えるか?
 なるほど、その方が容易だ。あの男が慢心して、自身の安全を顧みず、ネウロイにだけ集中してくれるのであれば。……駄目だ、考えづらい。夜襲を繰り返し、決して自らの足跡を残さない男だ。自身を守る術は、必ず用意している。焦点は、あの男からどうやってネウロイを引き離すかにしぼられた。
 坂本には、考えがあるのだろうか?
 窓の外へちらりと目をやった。坂本は泰然として、視線を基地へ向けている。これほどに落ちついているのであれば、何かあるのかもしれない。……もしかすると、出たとこ勝負と思い定めているのかもしれないが。
「これを、使うしかないのか……」
 奥の手は、あるにはある。
 坂本に見られないよう後部席のシートをめくると、細長いものが白い絹に包まれていた。
 これは土方が密かに手を回し、坂本の十年来の親友の手を借りてようやく手に入れたものだ。何故探したのかはわからない。しかし、打ち捨てておく気にもなれず、ずっと大事に保管していたものだった。
 これを坂本に渡せば、あのネウロイすら倒せるかもしれないと、土方は思う。だが、それでは坂本に戦わせることになる。彼女はもうウィッチではない。どれほどに強くとも、坂本の戦いはもう終わったのだ。
 土方はシートを元に戻し、天井を見上げた。
 自分の無力さが恨めしい。食いしばった歯が、軋むような音をあげた。

 爆音が響いた。
 慌てて車を出ると、基地に向かって赤いルビーのような光弾が打ち込まれているところだった。ネウロイの姿は夜闇に紛れて確認できない。赤い星のような光が宙に浮かび、それが基地に向かって尾を引きながら飛んでいく。まるで赤い箒星。落ちた先で破壊が起こっていると知らなければ、それは美しい光景だった。
「中佐!急ぎましょう!」
 土方が叫んだ。しかし坂本は、立ったまま、あさっての方向に目を向けていた。
「……中佐?」
 視線の先に土方も目を向けてみるが、ただ闇が広がっているだけだ。
「土方。下がれ」
 坂本の手が軍刀の柄にかかる。
「流石、坂本少佐」
 唐突に、闇の中から粘りつくような、不快な声が響いた。現れたのは、例の男。暗がりでしっかりとは見えないが、追い求めてきた男だ。間違えようがない。
「気配でわかる、というやつですか?サムライにはそんな技があるとききましたが、まさか本当に出来るとは。……ああ、そんなに警戒しないでください」
 男は笑った。どうしようもなく下卑た笑い声だった。
 土方は密かに拳銃を抜いた。馬鹿な男だ。ネウロイは基地を襲っている。今なら取り押さえられるではないか。
 前に出ようとした土方を、坂本は手で制した。
「坂本中佐、取引をしようではありませんか」
 男は意外なことを言い出した。
「断る。貴様のような男の持ちかける取引など、碌なものではあるまい」
「まぁ、聞いてください。もう一度、空を飛ばせてやると言ったらどうでしょう?欲しくないのですか?失ってしまった、魔女としての人生が?」
 土方は息を飲んだ。坂本が応じてしまうのではないか、と思ってしまった。
「どうでしょう。我々ならもう一度あなたを空に戻してあげられる。その分、協力はしてもらわねばなりませんが。悪いお話ではないと思いますよ」
 男は興奮していた。土方は不安だった。一人、坂本だけが平然としていた。
「答える前に、聞きたいことがある」
「なんなりと」
「私と取引するつもりなら、何故あのネウロイをけしかけた?」
 男はため息を吐いた。そして芝居がかった仕草で、やれやれと首を振る。
「あれは、ミスでした。私は坂本中佐をお連れしろ、と命令したのですよ。それをあの馬鹿者は、何を勘違いしたやら。中佐の死体を持ってこようとしたのです。こちらの不手際。お詫びしますよ」
「……もう一つ。何故私なのだ」
 男は笑った。笑ったようだ。月明かりに照らされた顔が、くしゃくしゃに歪んでいた。とても笑顔とは思えない、醜悪なその表情。土方は目を逸らしたくなる衝動を必死で抑えた。
「我々が求める条件と、最も合致するのが中佐だったのです。人を守りたいという強い心。決して曲がることのない鉄の意思。そして身体に残る僅かな魔力……。あなたなら我々の実験も必ず成功する!あなたが!我々と!この戦争に革命を起こすのです!」
「……そして、その成れの果てがあのネウロイというわけだ」
 興奮してまくし立てていた男の顔が凍りついた。彫像のように固まった笑顔が、徐々に苦しげなものへと変わっていく。
「図星、か。カマをかけただけだったのだがな。……ということは、今あそこにいるのが諏訪真寿々か。哀れなことだな」
 坂本は軍刀を抜いた。
「さて、答えを聞くまでもあるまい!観念してそこに直れ!」
 凛とした気合を受けても、男は存外、平静だった。
「やれやれ……。おとなしくしたがってくだされば良かったのに。やむを得ません。生きていればそれで良い。協力していただけずとも、貴重な検体にはなるでしょう」
 右手が上がる。男の背後で、轟音と共に雪埃が舞い上がった。
「そいつ……!」
 坂本の目が、驚愕に見開かれる。
 現れたのは、鉄の体を持つ機械の魔人。
「ウォーロック!!」
 形を変えて現れた、三年前の悪夢。その瞳が、再び赤い光を帯びた。

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