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Strike Witches 1947 - Cold Winter - 後編

Strike Witches 1947 - Cold Winter -

 男は鞄から大きな瓶を取り出した。中には赤く巨大な宝石が浮いている。ネウロイのコアだ。本来綺麗な多面体であるはずのそれは、何故か大きく欠けていた。
「ウォーロックがどんな結末を迎えたか、お前はよく覚えているはずだ!」
「だから改良したのですよ!このウォーロックMk.2を、あの出来損ないと比べてもらっては困りますな!」
「貴様の元上司が泣くな、それを聞いたら……!」
 ウォーロックの厄介さを、坂本はよく知っている。頬を伝う汗を、手の甲で拭った。しかし、ここで退くわけにはいかない。
 男が手元のコアに何かを命じた。一瞬のタイムラグの後、ウォーロックの両肩に装着されたポッドが外れ、回転しながら坂本に襲いかかった。
 坂本は避けなかった。それどころか、向かってくる円柱状の物体らに対して大きく踏み込み、裂帛の気合とともに軍刀を振るう。ポッドはふたつとも、真っ二つにわられて坂本の後ろに散らばった。
「流石ですな。剣の腕はまったく鈍っていないようで」
「正気の沙汰とも思えん。あれほどのことを引き起こしていながら、再びウォーロックを使おうなどとは……」
「改良したと申し上げたはずです。第一、貴女がそれを言いますか。戦艦を一つ、ネウロイに仕立て上げた扶桑人の貴女が」
 坂本は言葉に詰まった。その代わり、歩を進めて男に斬りかかる。狙いは左手に握られたネウロイのコア。あれが恐らくウォーロックのコントローラーだ。
 それ目掛けて駆ける坂本を、ウォーロックの放つ光弾が阻む。絶妙にコントロールされた射撃は、坂本の足元を抉った。どうやら、本当に殺すつもりはないらしい。しかし一気に足場が悪くなり、坂本のスピードは殺されてしまった。
 すかさず土方が男の足目掛けて発砲した。ウォーロックはそれに敏感に反応する。発砲をやめ、旋風を巻き起こしながら盾になる。銃弾はウォーロックの鋼の体に阻まれ、男へは届かなかった。男の防御を優先するように、プログラムが組まれている。
 土方は不敵に笑った。銃弾が届かないのは織り込み済み。目的は隙を作ることにある。
「可哀想だが、その腕貰うぞ!」
 出来たのは僅かな隙だった。しかし、坂本にはそれだけで充分だ。地を切るような音を立てて跳躍した。既に坂本の間合である。最早、ウォーロックが体を寄せる暇はない。腕を伸ばして庇おうとしても、それごと両断するだけだ。鉄をも切り裂く勢いで、軍刀は迷い無く振り下ろされた。
 取った!
 坂本も土方もウォーロックの腕と男の腕が宙に舞うのを確信した。
 ……しかし、実際に折れ飛んだのは、坂本の軍刀の方であった。真ん中から折れた刀身が、数回回転した後、地面に突き刺さる。
「馬鹿な!!」
 着地した坂本が、素早く飛びすさった。土方は驚きの声を上げながら、銃弾を放ってそれを援護する。
 一瞬の膠着。
 坂本と土方は、信じられないものを目にした。
 ウォーロックの一部、坂本の刀が触れた位置が、黒く変色していた。それだけではない。升目のような黒い六角形がそこから少しずつ、見せつけるようにウォーロックの身体を覆っていったのだ。
「鉄は切れても、さすがにネウロイは斬れぬようですな」
 男が嗤う。
「ネウロイ、だと……!」
「その通り。ご覧のように、ウォーロックMk.2はネウロイ化しても、完全に制御下にある。最早弱点はない」
「馬鹿な……」
 有り得ない。ネウロイのコアを完璧に制御するなど、できるはずがない。
「どんなカラクリだ……!?」
「教えて差し上げてもよろしいが……」
 ぱちん。男の指が鳴った。
 坂本の視界からウォーロックが消える。そして脳が揺れ、数瞬の失神から覚めた時、身体は巨大な黒金の指に握られていた。
「それは後程、体験を交えてゆっくりと」
 男の高笑いが、闇夜を揺らした。

 その頃、麓の基地では人型ネウロイとの空戦が繰り広げられていた。
 ネウロイの放つ、まるで未来を予測しているかの様に正確な偏差射撃。瞬く間にウィッチたちは撃墜されていった。ガリアのウィッチは全滅、基地に詰めていたウィッチで残っているのは、扶桑陸軍の諏訪天姫中尉一人となっていた。
 援護に駆けつけた第五○六統合戦闘航空団のメンバーですら、残るはペリーヌとウィトゲンシュタインのみとなり、戦況は不利を極めている。
 残った三人は意識しないままに一塊となり、ペリーヌを先頭とした三機編隊を形成していた。
「隊長はあれと戦ったことがあるのだろう!なんとかせぬか!」
 敵の放つ光弾を回避しながら、ウィトゲンシュタインが尊大に言い放つ。
「そうは言われましても。前に戦った時は色々有耶無耶になってしまいましたし」
「頼りにならんの」
「おだまりなさい!」
 怒りながらも、振り向いたペリーヌの照準はぴたりとネウロイに据えられている。しかし、相手の機動は尋常ではなく、必殺を期した射撃もあっさり回避されてしまう。
「……こうなれば正々堂々正面から撃墜する他なさそうじゃな」
「嬉しそうですわね」
「ふふん」
 ウィトゲンシュタインは猛禽を連想させる、好戦的な笑みを浮かべた。
「どうせ狩るなら、兎より獅子の方が楽しかろう」
 ついていけないとでも言うように、ペリーヌは首を振った。
 ネウロイは編隊を組んだ三人をどこまでも追ってくる。速度は同等。旋回性能はあちらのほうが上らしい。中々振り切ることが出来ない。
「ところで貴様」
 先程から言葉も発さず、射撃も行わない扶桑人に、ウィトゲンシュタインは向き直った。
「戦うつもりがないならさっさと去ね。足手まといを抱えて戦うほどの余裕、我らにはないぞ」
 天姫は気まずげに視線を逸らす。それでも、編隊から外れようとはしなかった。
「あー……。人型のネウロイに、それと戦いたがらない扶桑人。嫌な予感がしますわ……。昔を思い出します。……まさかとは思いますけれど、あれと話しあおうだとうか、戦わずに和解しようだとか、そんなことを考えてはいないでしょうね?」
「……そのとおりです」
 搾り出すような天姫の声。ペリーヌはがっくりと肩を落とした。
「確かに三年前は成功していたようですけれど……。そう何度も上手くいっていたら、戦争はもっと早く終わっていましてよ」
 呆れたようなペリーヌへ、天姫は血相を変えて抗議した。
「ち、違うんです!あれは、あのネウロイは私のお姉ちゃんなんです!」
「「はぁ?」」
 二人の声が重なった。無理もない。ネウロイと姉妹だと言われ、誰が信じられるだろう。
「私のお姉ちゃん、行方不明になってて。でも、あれは絶対……!」
「馬鹿らしい!貴様、そんな理屈で死ぬ気か!?」
 ウィトゲンシュタインが憤激した。遊びではない。命がけの土壇場で、そんな世迷言を聞いていられるか、というわけだ。しかし天姫も引き下がらない。
「でも、あの動きは、昔見たお姉ちゃんが飛んでる姿にそっくりで!」
「見間違いだろうよ!ええい、もういい。貴様さっさと……!」
 そう言って掴みかかろうとするウィトゲンシュタインを、ペリーヌは制した。
「それで、貴女はどうしたいのかしら」
「隊長!?」
 抗議しようとするウィトゲンシュタインは、ペリーヌの真剣な眼差しを見、言葉を飲み込んだ。
「仮にあのネウロイが貴女のお姉さんだったとして、貴女は何をしたい?」
「……止めたい。お姉ちゃんを、助けたい」
「方法は?」
「……わかりません。でも!」
「……そう。でも、気持ちだけでは誰も救えません。例え、心が原動力のウィッチであっても」
 ペリーヌの言葉は、天姫の心へ鋭く突き刺さる。
「ですけど!ですけど……!」
「決まりですわね。わたくしたちはあのネウロイを撃墜します」
「そんな!待ってください!」
 すがりつこうとする天姫。ペリーヌは視線を正面に据えたまま、
「その前に、五分だけ差し上げます。貴女一人であのネウロイと対峙なさい」
「何を言っておる!?此奴を殺す気か!?」
 驚愕し、ウィトゲンシュタインが目を見開く。
「……わかりました。やります」
「おい!?貴様も!」
「ただし、五分は絶対です。そして貴女が撃墜されても、わたくしたちはあのネウロイと戦います。ハインリーケさんも、それで構いませんわね」
 少しだけ迷いを見せたウィトゲンシュタインも、結局は頷いた。何かを言おうとしたが、呆れて言葉も出なかったらしい。
「……はぁ。もう、勝手にせい。妾だけじゃ。ここでまともなのは」

 天姫は銃を捨てた。背に負うた一本の刀のみでネウロイと対峙するつもりだった。
 一人残った天姫の前で、ネウロイも静止した。
「お姉ちゃん、なんだよね」
 ネウロイは答えない。
「今、助けてあげるから」
 身体を前に倒し、天姫がネウロイに突進した。
「はああああああああああああああああああ!!!!!」
 気合とも、叫びとも、悲鳴ともつかない声が、天姫の喉を震わせる。
 対照的に、ネウロイは静かだった。存在しない瞳で天姫を見つめている。刀が胸を切り裂こうとしたその刹那、舞うような機動でそれをかわした。
 間髪を入れず、天姫が追い打ちをかける。何度も、何度も、何度も。回避されても、決して手を休めなかった。今この瞬間に、命を燃やしつくそうとしてるかのような、天姫の気迫。届かない。それでも届かないのだ、相手の身体へは。
 天姫の剣筋は、決して悪くはない。名だたる扶桑のエースたちと比べれば当然見劣りするが、それでも大型小型をあわせ、十機近いネウロイを屠ってきている。しかしネウロイは、いとも簡単にかわし続けていた。
 ネウロイはかわすだけだった。決して攻撃をせず、そして顔を背けない。これではまるで、剣の稽古ではないか。ペリーヌは心の奥で呟いた。あるいは本当に天姫の姉なのではないかとすら、思ってしまった。
「あと三分」
 マイク越しに、ペリーヌは残り時間を告げた。
 返事はなかった。
 天姫の目はネウロイの胸、コアのある場所にのみ据えられている。天姫の意識と身体の全ては、ネウロイにのみ向かっていた。そしてその剣が、少しずつ、少しずつネウロイを捉え始めた。
「あと一分」
 切っ先が、ネウロイの装甲を僅かに抉る。
「あと三十秒」
 ネウロイの胸に刻まれた数条の傷が、徐々に深さを増していく。
「あと十秒」
 ネウロイの胸に、天姫の剣が突き立った。

 夜闇を真紅の光が切り裂いた。
「……なんだ!?」
 勝利を確信していた男の顔から、一気に余裕が消え失せた。
 その一瞬の隙を、土方は逃さない。
「中佐!これを!」
 車に飛びついた土方は、布に包まれた棒状の物体を取り出し、坂本に向かって放り投げた。
「……ッ!何をッ!!」
 男が憤怒の形相を向け、ウォーロックの照準が土方を捉えた。機銃が放たれ、車が爆発する。土方は辛うじてそれを避けたが、爆発の衝撃で数メートルは吹き飛ばされた。
 止めを指すべく、男が命令を下そうとしたその瞬間。
 彼の背後で、重いものが地面に落ちたような重低音が響いた。
 男がゆっくりと振り向く。
 そこには、坂本が立っていた。切断されたウォーロックの腕に片足を乗せ、右手には白木拵の刀が握られている。
 刀で斬ったのか。ネウロイの装甲を持つ、ウォーロックの腕を!?
 男はパニックを起こしかける思考を、必死に抑えようとしていた。
「この刀……」
 驚いたような坂本の呟き。
「拵えこそ違うが、烈風丸……!」
「ウォーロック!捕まえろ!!」
 命令は、叫び声に近かった。忠実なウォーロックはそれに従って坂本に飛びかかる。
「はァッ!!!」
 しかし、その手は届かない。
 気合と共に、坂本の分身とも言える刀は煌き、腕と左足が両断された。そしてすれ違いざまにウォーロックの右足までもが切り落とされる。
「そんな、馬鹿な……」
 達磨にされたウォーロックを、男は放心して見つめている。
「何故だ……。何故、ネウロイの装甲を断てる!?魔力のないあなたが!」
 最早、パニックを抑えることは出来なかった。唸り声を上げ、喚き立て、絶叫を上げる男。辛うじて聞き取れるのは”何故”という単語だけだった。
「お前が知らんのも無理は無い。こいつはな、私が魔力を込めて打った刀だ。……すでに魔力は使い果たしたと思っていたが、まだ残っていたのだな」
 坂本の瞳には、様々な感情が浮かんでいる。
 その後ろで、紅い光がゆっくりと、地面に向かって落ちていった。
「ネウロイは落ち、ウォーロックもあの通りだ。もう、貴様に武器はない」
 坂本が烈風丸の切っ先を、男に突きつける。土方も額から血を流しつつ、その脇に立った。
「ふふふ……。ふふははははははあははははははは!!!!」
 男は笑った。抑揚を失った狂人の笑い声だった。
「武器!武器だと!ははははははははは!何も知らないバカ者共!あのネウロイを落としたのか!はははははは!知らん!私はもう知らんぞ!ははッ!止められん!もう誰にも止められん!滑稽だ!バカ者共!あはッ!あはははははははははははは!!!!」
 男の声は、それ以上聞き取ることが出来なかった。爆音にかき消されたのだ。
 坂本たちが振り返ると、ウォーロックが立っている。……いや、これでは立っているとは呼べまい。両足から伸びたケーブルが、まるで脂にまみれた髪のような光を放ち、身体を支えているのだ。
「なんだ、これは……!!」
 ウォーロックは跳んだ。飛んだのではない。跳躍したのだ。基地で土煙が巻き起こる。そして数瞬の後、巨大な黒い龍が、月明かりを背景に姿を現した。

「なん、じゃ……、これは……!?」
 豪胆なウィトゲンシュタインも、突如出現した巨大な黒い蛇を見て呆気に取られた。
「これは、ネウロイ……?」
 ペリーヌもまた、驚愕に目を見開いている。
 ガリアの陸軍が現場に現れ、砲撃を始めた。曳光弾が尾を引きながら、黒い蛇に吸い込まれる。……これは、比喩ではなかった。まさにそのまま、ウォーロックだったものは、砲弾を吸収し、少しずつ、少しずつ自身の身体を成長させていった。
「……クソッ!地上のガリア軍!聞こえているか!妾はノーブルウィッチーズのウィトゲンシュタイン少佐だ!すぐに砲撃をやめよ!貴様らの砲撃はすべて、奴に食われておるぞ!よいな!すぐに砲撃をやめるのだ!!」
 インカムに向かって、がなりたてるウィトゲンシュタイン。その背後で、ペリーヌは何か、因縁めいたものを感じていた。

「答えろ……!アレは何だ!?」
 男の額に拳銃を突きつけ、土方は聞いた。額にある乾いた血の跡が、凄みを増させている。
「はは、は」
「答えろ!!!」
 男の顔面が、土方の拳で弾き飛ばされた。
「はははははは。そんなに知りたければ教えてやる……。あのネウロイはな、制御装置だったのだよ……!」
 男は笑うのをやめない。
「ネウロイのコアを、人間が直接制御しようとしたから、ウォーロックは失敗したのだ。ネウロイのコアは、ネウロイに惹かれるからな。……ならば、人間に忠実なネウロイにコントロールさせれば良い。決してネウロイに屈しない意志の強さと、決して人間を裏切らない正義感。それを持った人間をネウロイにし、我々の言葉を中継させれば良い」
「そのための、諏訪真寿々……」
「その通り!……しかし、その制御装置は最早失われた。見給え。あの黒い蛇を!あれはきっとガリアを食い尽くし、欧州を飲み込むだろう!は、はは。はははははははは!!」
 土方は再び男の顔を殴った。さっきよりも強く。二発、三発と殴り続けるその顔は怒りに燃えていた。
「貴様はッ!貴様は中佐をそんなものにしようとしていたのかッ!!!!」
「……よせ、土方。死なれては困る」
「……くっ」
 肩で息をしながら、土方は手を止めた。
「ふひ、ふ、はははは。忠犬だなぁ、ヒジカタ。お前は忠誠を尽くす相手がまだいて良かったなぁ。羨ましい、羨ましいよ」
「何?」
「マロニー閣下には、私欲なんて無かったのだ。あったのはブリタニアの、そして人類の未来を守らねばならないという、崇高な義務だけだった!ウィッチなどという小娘に、託してはいけないものを、あの方は自身の手で守ろうとしていたのだ……!」
「……馬鹿な男だ。そんなことのために、これだけのことを」
 土方は吐き捨てた。要するにこの男は、盲信した挙句の逆恨みで、ここまでのことをやってのけたのだ。唾棄こそすれ、哀れを感じる必要など全くない。
「君ならわかってくれると思っていたんだがなぁ……。坂本中佐に忠実なだけの軍人。そんな君ならば……」
 怒りで沸騰した土方の頭は、それ以上の言葉を紡いではくれなかった。
 男の鳩尾に、土方の拳がめり込む。数回、苦しげな呻きを上げた後、男は気を失った。
「違うぞ、土方……。お前は違う……」
 坂本は、何度も何度も、そう呟いていた。

 落下した先で、天姫は黒金に包まれた真寿々を助け起こしていた。
「天姫……」
 色濃くネウロイの面影を残したまま、真寿々が天姫を呼ぶ。
「うん。うん……!」
 天姫の目に、涙が光る。真っ黒なネウロイの仮面の奥で、真寿々が微笑んでいる。
「天姫……。お願い……。私を、連れて行って。空に……。あの、黒い龍のところに……」
「駄目……!駄目だよ……。怪我しているのに……。ね、病院に行こう?きっと、他の人が何とかしてくれるよ……。お願い、お願いだから……」
「ごめんね、天姫……。でも、行かなきゃ。あれは、私の身体のもう半分だったの……。私じゃないと、止められない……」
「でも……!」
「天姫。お願い。全部が終わったら、またお話しよう?」
 真寿々の声は弱々しい。それでも、強い意志の力が篭っていた。
「やだ……。やだよう……。今言ったら死んじゃう……。折角戻ってきてくれたのに、お姉ちゃんと別れたくないよぉ……」
「甘えん坊だ」
 天姫の鼻先を、真寿々の指がちょんと突いた。
「ね、天姫。私は天姫を信じてるよ。私をちゃんと連れ戻してくれるって。だから、天姫が一緒にいてくれれば、私はどこにも行かない。……ね、全部終わらせて帰ろう?五色や、みんなのところに……」

「化物が!!」
 虎の子の薄殻魔法榴弾で一度まっぷたつにしてやったはずの蛇が、一瞬で元の姿に戻ってしまった。無数のワイヤーが絡まり、つながっていく。再生するその光景は実におぞましいものだった。
「隊長!どうする!?」
 流石に大物の方が狩り甲斐があると豪語していたウィトゲンシュタインでも、龍の類と戦いたいとは思わないらしい。
「うーん。まぁ、なんとかなるのではないかしら」
 しかし、ペリーヌは落ち着いていた。
「何を呑気な!」
「だってほら」
 指さした先では、先ほどの人型ネウロイを抱えた天姫が、凄まじい速度で黒蛇の頭へと向かって上昇していた。
「なッ!?何をしておるか!!戻れ!そやつは普通の敵ではないぞ!……隊長も止めんか!」
「いや、ああなった扶桑の魔女というのは、止められないものですわ。好きにさせましょう」
「はァ!?」

「お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん、もう少し、このまま……。天姫、おっきくなったね」
「やめてよ。そういう話、帰ってからするって約束したじゃない」
「……うん」
 真寿々は胸に埋められたコアに意識を集中した。
 止まって。私だよ。あなただよ。止まって。……止まりなさい。
 コアの同調が乱れている。命令がすんなりと通ってくれない。
 黒い龍は、数回蠢動した後、動きを止めた。
「いい子」
 天姫に抱えられたまま、真寿々が触れる。物言わぬまま、黒い龍は頭を開いた。
「大きい……」
 そこに収まったコアの大きさを見て、天姫が驚嘆の声を上げる。
「天姫。力を貸して」
「……うん」
 天姫は刀を抜いた。その手に真寿々の黒い手が添えられる。
「ごめんね」
 真寿々の声は震えていた。
 刀がコアに吸い込まれる。
 ……白い粒子が、月光の下を舞った。

「……と、まぁ、事件の真相はこんなところらしいですわ」
「なるほどな」
 事件から一週間。訪ねてきたペリーヌの報告を聞き、坂本は頷いた。
 あの男の背後には、あちこちの国の大物がいたらしい。それらがひとつにまとまり、ウォーロックや人間を使ったネウロイを作り出していた。
「ウィッチを嫌う人間も、少なくはありませんから」
 ペリーヌは苦笑する。ガリアの英雄であるペリーヌも、色々苦労しているということだろう。
「……しかし、そうか。諏訪真寿々とその妹があの龍を倒したのか」
「いつもながら、扶桑の方には驚かされます。中佐もそうでしたし」
「宮藤も」
「……ええ、遺憾ながら」
 坂本とペリーヌは、示し合わせたように笑った。
「諏訪真寿々はどうなる?」
「行方不明になってしばらく経っていたため、不名誉除隊となっていたようですわ」
「そうか……。それなら、まぁ、安心だろうな。名家の出らしいし」
 諏訪真寿々は、これから一生、胸にネウロイのコアを着けたまま生きていかねばならない。どういった症状が出るかもわからず、下手をすれば監視を名目に軍部よってモルモット扱いされる危険もあった。軍に在籍していれば命令に従わざるを得なかっただろうが、既に除隊した身であれば、何かしらの手段で回避することも可能なはずだ。
「……まぁ、とにかく。これで席を空けっ放しだった航空団司令にも、ようやく戻れますわ」
「本職だな。頑張れよ」
「はいっ!」
 ……帰る途中の車内。ペリーヌはウィトゲンシュタインと隣り合って座っていた。
「隊長、ひとつ聞いておきたいのだが……」
「なんでしょう」
「こうなることがわかっておったのか?」
「さぁ、なんのことやら」
「……妾も扶桑人の扱いは、少し考えておくべきかもしれんな」

「さて……!終わったなぁ、土方」
「ええ。お疲れさまでした」
 坂本は土方の固辞を押し切って、飛行場まで見送りに来ていた。
「何を言う。今回の功労者はお前じゃないか」
「まさか。中佐でなければ、あの男は捕まえられなかったでしょう」
「お前がすべてを見越して烈風丸を持ってきてくれたお陰だ。そうしなければ、私も今頃どうなっていたかわからんよ」
 土方は照れて頬をかいた。
「しかし、流石に疲れたな。現役だった頃は口が裂けても言わない言葉だったが」
「よろしいのではありませんか。中佐はもう十分に休む権利をお持ちです」
「うーむ……。そうかもしれんな。休暇をとって、温泉にでも入りに行くか」
「是非そうなさってください。今回は十分働かれたのですから」
「?何を言っている?お前も行くんだぞ」
「は?」
「私に付き合って、お前も十分すぎるほど働いたろうが。なら休むところまで付き合え」
「は、はぁ……」
「……気のない返事だな。弛んでいるぞ土方!」
「はッはいッ!お供させて頂きます!!」

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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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