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 立ち眩みを感じて顔を上げた。手元には組みかけのエンジン。早く組み立ててくれ。シャーリーを無言で急かしていた。
 体調が悪いわけではない。よくあることだった。ブッ倒れるギリギリまで作業に集中。そして限界が来たところで、泥のように眠る。
 壁に背をつけたまま腰を降ろした。濡れた布地のような眠気が、全身をしっとりと包むようにのしかかってくる。床の固さなどお構いなしに、眠りに落ちた。

 ......夢なのか。それとも起きているのか。シャーリーはうっすらと瞼を開けた。
 視界はぼやけていた。頭が重くて鈍い。まったく働いてくれない。中身を鉛に詰め替えられたかのようだ。試しに二、三度頭を振ってみる。無駄だった。その感覚は、全く取れてくれない。
「こんなところで寝ていたのか、リベリアン」

 あれ、堅物?

 バルクホルンの声。頭の中を響くように聞こえてくる。顔を見ようと頭を動かした。駄目だ。重い。どうやっても持ち上がってくれない。これは、駄目だ。頭はともかく、身体が完全に眠ったままらしい。
「まったく情けない……。それでも士官か」

 そうなんだなぁ、これが。

 口も動いてはくれないから、心の中で応じておく。
 見なくてもわかった。バルクホルンが面白くない顔をしているのは。ふんと、鼻を鳴らす音が聞こえて、
「起きんか、おい」
 肩をつかんで揺らされる。

 無駄だって。もう起きてるんだから。起きてるけど、起きられない。身体が言うことを聞いてくれないんだから、仕方がないだろ?
 どっか行ってくれ。眠いんだ、私は。すごく。

 起きんか、起きんかと繰り返し揺らされた気がする。そうして揺り籠に揺られる気分を味わっているうちに、意識は落ちていた。頭がくらくらする。相変わらず靄のかかった視界と、のろりとした頭の中。バルクホルンはいなくなっていた。

 寂しい?いやいや。何を考えているんだ、私は。うるさいやつがいなくなって、よく眠れるじゃないか。

 何時の間にか横になっていた。身体が感じてるのは床の固さではない。包み込むようなソファの柔らかさだった。これは夢だろう。なんとなく、床に座って寝ていた気がする。
 背後から、声がかけられた。誰の声だかわからない。聞き覚えはある。でも、わからなかった。鈍い頭が聞き分けてくれない。

 ルッキーニ?珍しいな、あいつがこの時間に談話室にくるのは。あ、でも、もしかしたらバルクホルンかもしれないな……。なんて、思ってみたり。どっちだろう。どっちでもいいか。

 背後の誰かは何かを言ったようだ。シャーリーも、無意識で何かを返した気がする。言葉になっていなかっただろう。単語の羅列になっていたかすら、怪しい。
 背後で上がる、大きな声。笑ったのか、怒ったのか。ルッキーニだったら笑ったのだろう。バルクホルンなら怒声に違いない。
 横向きに寝ているシャーリーの懐へ、誰かが潜り込んできた。その誰かは、だらりとしたシャーリーの腕を、自分の首へと巻きつける。まるでマフラーだ。甘い匂いがシャーリーの鼻をくすぐった。無意識で鼻を頭にくっつける。誰かはくすぐったそうに笑った。
 腕の中に感じる重みと体温。心地よかった。腕の中の誰かは、甘えるように頭を押し付けてくる。
 シャーリーは抱きしめてやりたかった。思いっきり抱きしめて、ほほを摺り寄せて、じゃれあって……。そのまま疲れて二人で眠ろう。残念だ。腕に力が入れば、やれただろうに。
 胸の中の誰かさんは、照れながら笑っていた。
 
 可愛いやつ。

 その言葉はちゃんと口から出てくれた気がする。ただ、確証はなかった。シャーリーの意識はまた途切れていて、ぼんやり目を開けると、腕のなかには誰もいない。残香も、体温もなくて、どうやら夢を見ていたらしかった。
「オマエハワタシノモノダカラ」
 唐突に、背後から声がかかった。

 誰だ?

 振り返ろうとした。身体に力が入らない。ソファに腕をついて、力を入れる。少しだけ、身体が持ち上がった。
 肩に手がのせられる。
「ソノママ」
 あまり強く押されたとも思えない。しかし、シャーリーはソファに押し付けられたまま身動きが出来なくなった。
 背後の人間は、満足そうな笑みを浮かべた。そして愛おしげにシャーリーの頭を撫でる。怖くはない。不快でもない。だけど、ちょっとだけ癪に障る。

 ざっけんな。

 シャーリーはてのひらを払いのけた。そしてソファから転がり落ちる。ふらつき、何度も倒れながら、その場から逃げだした。背後の奴は追ってこない。

 なんで逃げた?どうして。あいつになら、良いとか思ってただろ。

 混乱する頭。重い身体を引きずって、シャーリーは当てもなく、追う者もない廊下を逃げつづける。まるで迷路だった。見覚えのある廊下のはずなのに、どこに向かっているのかまったくわからない。右に曲がった。次も、右。階段を上がる。左に曲がって、まっすぐ。それで自分の部屋に着くはずだ。でも、今日は違う。どこまでいっても廊下だ。廊下を歩き続け、誰のものでも、何に使うのでもない部屋の前を通り過ぎる。

 私の部屋はどこだ?

 頭は最初からふらふら。身体も疲れてる。もう歩きたくない。シャーリーは座り込んだ。
 もう一度寝てしまおう。起きたら、また歩くんだ。だから、もう少し、寝て……。

「シャーリー!!!」
「うぉあ!?」
「やっと起きたか」
 怒声に跳ね起きてみると、目の前ではバルクホルンが憤怒の形相で立っていた。
「あー……。夢、か」
 それはそうだ。あんなこと、現実にあってたまるか。
「寝ぼけているのか?」
「んん、そうかも……。って、あれ?お前、髪留めはどうした?」
 珍しいことに、バルクホルンは髪を下ろしている。
「……っ!お、落としただけだ。見つけたら教えろ」
 一瞬言葉を詰まらせたバルクホルンは逃げるように部屋を後にした。
「変なやつ」
 シャーリーは立ち上がり、ぐーっと背筋を伸ばした。ぽきぽきと身体が鳴り、これがなんとも言えずに気持ち良い。
 ……と、胸元から何かが落下した。
「なんだコレ」
 黒いゴム紐。なにやら見覚えが、ある、ような。
「……ま、いっか」
 シャーリーはぽいとゴム紐を投げ捨て、部屋を後にした。ソファのある、談話室を。


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