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因果応報・弐

因果応報・弐

 部屋に踏み込むと、吐き気を催すような血生臭さが、坂本とミーナの鼻を突いた。嫌な臭いだ。二人は同時に眉をしかめ、部屋を見回した。
「……まるで殺人現場だな」
 担架で運び出される貧血状態のエイラとサーニャを横目に、坂本が呟く。部屋はそこらじゅう血まみれで、凄惨な事件現場のようだ。すべてエイラとサーニャの鼻血だと言う。これだけ出せば、それは倒れるだろう。下手したら致死量だ。
「エイラさんったら、あれだけ持ってきてはいけないと言ったのに……。隠れて持ち帰ってたのね……」
 二人分の鼻血が付着した瓶を拾い上げ、ミーナが呆れたように呟いた。坂本はそれに気づくことなく、
「ぶっ倒れるまで鼻血を流し続けるとはな……。何が原因だ?」
「さ、さあ……」
 歯切れの悪い答えを返しつつ、ミーナは瓶の血を、テーブルクロスで拭う。
「病気ではないだろうな。こんなのが流行ったら一大事だぞ」
「それは違うから大丈夫」
 ここだけやけにはっきりとした答えだったが、坂本は不審を抱かなかったようだ。ミーナはこっそり瓶をポケットにしまい込み、
「さ、美緒。戻ってお茶にしましょう」
「む。ありがたいな、喉が乾いてきたところだ」
 坂本を促して、この血みどろの部屋を出た。

 飲ませてしまった。
 倒れ伏した坂本を見下ろし、ミーナは塊のような唾を飲み下す。
 坂本はよく眠っていた。抱き上げてソファに寝かせても、身じろぎ一つせずに静かな寝息を立てている。茶に混ぜた薬のせいだ。エイラたちの部屋から持ってきたその薬は、飲ませるとすぐ眠りに落ち、目が覚めた時精神年齢が子どもに帰ってしまう。その前の記憶も失ってしまうので、効果が切れても他に目撃者がいなければバレることはない。
 割れた湯のみを片付けたミーナは、坂本の脇にしゃがみ込み、その顔に乗った眼帯を外した。続いて髪を解き、手櫛で整えてやる。こうすると坂本は驚くほどに女性的な顔になる。普段も男性的というほどではないが、口調や雰囲気から中性的に見えてしまう。
 せっかくの美人が勿体無い。ミーナは心底惜しいと思う。それに中性的な姿は、どこか無理をしているようにも見える。虚勢を張り通してきた結果、それが張り付いてしまったかのような。坂本から感じる危うさはそのせいかもしれない。
 まぁ、それはそれとして。
 薬を飲ませた以上、もう後戻りは出来ない。
 ミーナは坂本の寝顔に見入りながら、その目が開かれるのを今か今かと待っていた。
「う……、ん」
 やがて坂本がうめき声を漏らしたが、目は覚まさなかった。
 あまりにも良く寝入っていて、なんというかつい、悪戯心をくすぐられる。ミーナはそっと人差し指を伸ばし、坂本の頬を突いた。
「う……」
 不機嫌そうにひそめられる眉。それでも起きる兆しはない。
 段々楽しくなってきた。ぷにぷに、ぷにぷにと、意外に柔らかい頬に指先を埋める。
「やめ、て……」
 だるそうに払われ、ミーナは手を引っ込めた。
「ん……、ふあ」
 坂本はのそのそと身体を起こすと、大きなあくびをひとつ、あたりを見回した。
「おはよう、美緒」
「ん、おはよ……」
 ごしごしと目をこする坂本。身体や顔つきは大人びているのに、仕草が幼い。薬が本当に効いているのだ。
「ミーナ、のど、かわいたんだけど……」
「はいはい。今お茶淹れてあげるわね」
 そう言って、急須に手を伸ばし、ミーナは気がついた。坂本が普段愛用している湯のみは、さっき倒れたときに割れてしまった。一言言ってやるべきか迷ったが、それは薬の効き目がなくなってからでも良いだろう。ミーナは何も言わず、来客用の湯のみに注いで坂本に手渡した。
「……」
 しかし、坂本は受け取った湯のみを一瞥すると、口も付けないまま、そっと机の上においた。
「どうしたの、美緒?」
「あ、その……。これ、私の湯のみじゃ、ないから……」
 身体を縮ませ、おずおずとミーナを見上げてくる。
「う……っ」
 ミーナは急に頭にちが登ってくるのを感じ、慌てて鼻を抑えた。
「ご、ごめんなさい。美緒の湯のみ、どこかに行っちゃって……」
「そう、なの……」
 坂本はしょぼんと肩を落とした。今まで何でもないように振舞っていたが、相当気に入っていたものらしい。
「か、代わりの湯のみじゃ駄目かしら。好きなのを選んでいいわよ?」
「え……。じゃあ、えと……、それ。それがいい、かな」
 戸惑いがちに指さされた先にあったのは、ミーナの湯のみだった。
「こ、これ?」
「うん。……だめ?」
 くりっと顔を傾ける坂本。
 ミーナの鼻の下を、つっと鼻血が伝った。
「いいわよ」
 僅かに間を置いて答えたミーナの笑顔は、生涯で一番輝いていたという。鼻血さえなければ。
「えへへ……。ありがと」
 熱い茶が注ぎ直されたミーナの湯のみを受け取り、坂本はあどけない笑顔を浮かべた。
「あち、あち……」
 しかしふうふうと息を吹きかけながら、何度も湯のみに口をつけては口を離す。熱くて飲めないらしかった。ミーナは見かねて、
「冷ましてあげましょうか」
 そう聞いてしまった。軽い気持ちで、半ば冗談のつもりで言ったのだが、坂本は一瞬びっくりしたような顔を浮かべた後、嬉しそうに湯のみを差し出してきた。
 いいのかしら。これ、本当にいいのかしら。
 湯のみを受け取りながら、ミーナは葛藤した。葛藤したが、坂本はじっとこちらを見ている。その瞳は早く飲みたいと、ミーナを急かしていた。
 ごくりと唾を飲み込んだ。そしてゆっくりと唇を近づけ、ふう、と息を吹きかける。最初の一息さえやってしまえば、あとは迷うことなどなかった。手が震えて茶をこぼさないようにすること、そして鼻血が混入しないことにだけ、気をつければ良かった。
「おいしい……」
 幾分か飲みやすくなった茶に口をつけ、坂本は再び笑顔を浮かべた。
「そ、そう……」
 ミーナは先程から絶え間なく流れる鼻血のお陰で頭がふらつき始めている。
「ごちそうさま」
 飲み終えた坂本が、両手で湯のみを差し出してきた。ミーナが受け取ると、坂本は再び横になり、
「もうすこし、ねてもいい?」
 と上目遣いに聞いてくる。
 これは、破壊力が高かった。ミーナの鼻から逆流する血液が量を増し、大海の波濤もかくやという勢いになったとき、その意識は途切れた……。
 

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テーマ : 二次創作:小説
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