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Small World 7

 エイラは日に日に焦りを深めていた。
 身体が縮んだまま、戻る気配がない。それだけなら良い。不便なだけで済む。しかし、身体が戻るまで戦闘を禁止されたとあっては、心穏やかではいられなかった。
 固有魔法こそ使えるものの、七、八歳児程度まで縮んだ体には、戦闘に耐えられるだけの体力がない。その上危険だからという理由で訓練に混ざることさえ禁止され、プライドはボロボロに傷ついていた。
 エイラは生まれてこの方、他人の重荷になるという経験がなかった。常に誰よりも上手に、どんなことだって器用にこなすことができた彼女は、常に誰かを守る存在であり、背負う存在だったのだ。それを当然のこととして生きてきただけに、今の無力感は堪え難い。
 良い機会だから休暇と思え、というミーナや坂本の慰めが。お前の分まで、と言って飛んで行く仲間達の背中が。そして、気遣って表には出さないまでも、エイラが戦わないことを喜んでいるサーニャの顔が。
 辛い。常に誰かの前を走っていた自分が、取り残されて行く。置いていかれる。経験したことのない恐怖。
 エイラは怯え、震え、泣いていた。身体が子どもになったせいで、涙腺が弱くなったのだ、と自分に言い訳しながら。
 泣くのは決まって倉庫の奥だった。情けなく涙と洟を流すところを、誰にも見られたくない。暗く湿ったカビ臭い地下室は、今、唯一気を抜ける場所となっていた。
 奥隅の棚の陰に身を隠し、ぶかぶかのシャツの袖を噛み締めながら、声を殺して泣く。そうして涙を枯らさないと、人前で笑顔を保てない所まで来ている。
 倉庫は不気味だが、良い場所だった。暗さと静けさが、外界から自分を切り離してくれる。存分に泣くことができた。誰にも見られず、精一杯の情けなさで、涙を流すことができる。
 今日も、エイラは倉庫に忍び込んでいた。いつもの場所に腰を下ろすと、堰を切って涙が溢れ出す。止まらない。シャツを食い縛り、嗚咽を殺す。抑え切れない声が、呻きとなって倉庫内を反響した。
「う、うう……っ。ひっく、う、ううー……」
 本当は大声で叫びたい。
 もう嫌だ。どうして私ばかり。役に立ちたい。置いて行かないで。口から発せられることのないそれらの言葉は、棘付きのボールになって空っぽの胸の中を跳ねまわり、弱った心をぐずぐずに傷つけていく。
 助けて。
 最後には決まって、縮こまった身体を抱きしめるようにしながら、そう呟く。それが誰に向かってであるのか、エイラ自身にもわからなかった。

 エイラの変化に、サーニャが気付かないはずはない。
 昼頃、決まった時間に姿を消し、帰ってくると目を真っ赤にしている。泣いていたのだと即座に察した。しかし、何も言えない。言葉が見つからなかった。
 一度、エイラの後をつけたことがあった。
 行き先は滅多に使われない地下の倉庫だった。そこで、やはりエイラは、泣いていた。必死に声を押し殺しながら、寒そうに体を震わせ、涙を流していた。すぐにも抱きしめてあげたい。そんな衝動に駆られながらも、脚は根を張ったかのように動かない。
 噛み締めた袖越しの嗚咽は、やがてか細い言葉になっていった。
 最初は聞き取れなかった。少しずつ、少しずつ、それは言葉の形になっていく。
 助けて。
 ようやく言葉を理解した時、サーニャの瞼から涙が溢れ出した。
 助けたい。私だって、エイラを助けたい。
 そうは思っても、どうすればいいのかがわからない。
 サーニャは悩んだ。悩みに悩み、どれだけ苦しんでも結論は出ない。そしてこの日も、部屋を出ていくエイラの小さな背中を、寝たふりをしながら泣きそうに見送るのが、精一杯だった。
「それでいいの?」
 エーリカに相談した時、問い返されてサーニャは沈黙した。
 良いわけ、ない。
「でも、どうすれば良いか……」
 わからないのだと、沈んだ顔で、首を振った。
「私、思うんだけどさ」
 遠くを見るような瞳で、エーリカは独り言のように呟いた。
「こういう時って、遠くから見守るか、一緒に泣いてあげるかしかできないんだよね……」
 サーニャは何も、言えなかった。
「許されるなら、私は一緒に泣いてあげたかった。……許してって言う、勇気もなかったんだけどね。サーニャはどう?」
「私……、私は……」

「ごめんね」
 目を赤くして部屋に戻ってきたエイラを、サーニャはおもむろに抱きしめた。そしてその翡翠のような瞳から、透明な水滴が零れ落ちた。
 エイラは声を詰まらせた。涙は流しきったと思ったのに、視界がみるみる滲んでいく。
 それ以上言葉は無かった。言葉に、ならなかった。
 二人は大きな声で泣いた。
 エイラはサーニャにしがみついた。サーニャはエイラをきつくきつく、抱きしめた。
 ひたすら泣いて、泣いて、泣いて。
 涙と一緒に抱えていた苦痛を吐き出した。
 意地も、迷いも、そんなものはどうでも良い。
 二人一緒に泣けること。
 それがどれだけ幸せか。
 エイラは疲れて眠るまで、ずっと泣き続けた。
 サーニャはずっと、エイラの小さな身体をはなさなかった。
 おやすみ。
 目を覚まして、照れたような笑顔を浮かべるまで。


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テーマ : 二次創作:小説
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