スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

11月22日


 空が茜色に染まって、彼女は帰ってくる。
 長身に、色素の薄い金髪を揺らして、きっと頬は、寒さで赤くなってる。吐く息はまるで氷の粒でできた霧のようで、指先まで冷え切った彼女は、暖かな部屋に足を踏み入れたとたん、ファンや友人たちが見たこともないような、気の抜けきった表情を浮かべるんだ。
 彼女が近付いてきている。魔法を使うまでもなく、それがわかる。
 まだかな。あとどのくらいかな。
 暖かな待ちぼうけ。
 待つというのは、こんなにも楽しい。

「おかえり」
 スオムスのとある街。街路に面した小さな家で、サーニャは手渡すように、ありふれた一言を発した。
「……ただいま」
「冷たい……」
 照れたように横を向くエイラの手を、サーニャの手が包む。まるで、氷が溶かされていくように、手が熱を取り戻していった。
「ごはん、できてるよ」
「うん」
 エイラのコートを脱がせてやりながら、サーニャはくすりと笑みを漏らした。
「どうしたんだ、サーニャ?」
 振り返ったエイラの顔は、本当に不思議そう。
「ううん。ちょっと、思い出したの」
 昔、両親と暮らしていた頃。母が父のコートを受け取りながら、頬にキスしていた光景を思い出した。キスをしていないだけで、やっていることはまるで同じ。どうしよう。してみようかな。
「ほえ」
 冷たい頬に、唇を押しつけてみる。音すら立てない、稚拙なキス。ちょっとした悪戯なのに、もう少し上手くやればよかったな、なんて。
 がたぁん。大きな音を立てて、エイラが転んだ。
「な、なななななな」
「エイラ、大丈夫?ごめんね、ちょっと悪戯……。昔お父様に、お母様がしていたの」
「え、あ、え、う」
 エイラの顔は真っ赤だった。キスなんて初めてじゃないのに。あ、でも、初めてだったかもしれない。キスはいつだって、エイラからだった。サーニャがねだることもある。それでも、サーニャからしたのは、これが初めて。
 それと気付いて、サーニャの顔も真っ赤に染まった。
「ご、ごめんね。ごはん、準備するから」
 恥ずかしさが急にこみ上げてきて、サーニャはキッチンに駆け込んだ。エイラは追いかけてこない。
 鍋を火にかけ、作ったボルシチを暖め直す。
 初めてだと、気付けばよかった。もっと相応しい時があっただろうに。
 かき混ぜながら、サーニャは後悔していた。
「サーニャ」
 悶々と自分の世界に籠もって自己嫌悪していたサーニャの肩を、エイラが突然抱きしめた。キッチンに入ってきたことにも気づかなくて、サーニャは危うく鍋をひっくり返してしまうところだった。
「え、エイラ」
 声が少し、うわずってしまう。これでは、恥のみ上塗りだ。
 エイラは抱きしめる手に力を入れて、サーニャの頭に自分の頬を押し付けた。
「サーニャ」
「う、うん」
「びっくりした?」
「え?し、した……」
「そっか」
 エイラは笑ったらしかった。
「私もさっきびっくりしたから。仕返し」
 耳の横で悪戯っぽく囁かれて、サーニャの頭が熱くなった。ただの子どもっぽい仕返しなのに、どきどきが止まらない。
 それに、密着したエイラから、エイラのにおいとしか形容できないような、甘くて暖かなにおいが漂ってくる。
 二人で暮らし初めて、結構な時間が経っている。その間、何度もキスしたし、抱きしめられたことだって一度じゃない。しかし、不意打ちはだめだ。さっきのエイラだってそう。不意打ちでこういうことをされてしまうと、すごく照れる。
 悔しい。なんか負けたよう。エイラといると、サーニャは負けず嫌いになる。
「いいにおい。今夜はボルシチ?」
 サーニャを腕の中に収めたまま、エイラが口を開いた。
「う、うん。味見、してみる?」
「する!」
 どうにか落ち着きを取り戻そうとしながら、サーニャは小皿を取り、ほんの少し、ボルシチをのせま。しかし、エイラは腕を抱きしめたまま、動かそうとしない。食べさせろ、ということらしい。
 仕方がない。サーニャは小皿に息を吹きかけ、冷ましたボルシチを背後のエイラに差し出した。
 顔を皿に近づけて、音を立てながら、エイラがボルシチを啜る。
「うん、美味しい!」
「エイラ、お行儀悪いわ」
「ゴメンゴメン」
 こんな姿勢で、今更か。そう思うと、笑みがこみ上げてくる。笑うと余裕も少し、出てくるものだ。
「エイラ、食器運んで? ごはんにしましょう」
 しぶしぶ、エイラが腕をほどく。
「はあ、もう少しこうしてたかったな……」
 ぼやきを残して離れたエイラ。サーニャは素早く振り返り、エイラの顔を捕まえ唇を塞いだ。
「仕返しの、仕返し」
 サーニャはにっこりと笑いながら、真っ赤な顔のエイラに向かって、そう言い放った。

スポンサーサイト

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

萩原間九郎

Author:萩原間九郎
スオムス文庫やってます。

ご意見感想その他何かありましたら、以下のアドレスか、メールフォームをご利用ください。

hanzou.oohara鼎gmail.com
(鼎を@に変えてください)

管理画面

来客数
Twitter
スオムス文庫目次

クリックするとSSのリストが開きます。

※印のついているものはR-18です。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

リンクに間違っている箇所がありましたら、お手数ですがお知らせお願いします。

【スオムス文庫@501】

【スオムス文庫@502】

【スオムス文庫@504】

【スオムス文庫@いらんこ中隊】

【スオムス文庫@スオムス】

【スオムス文庫@その他】

【スオムスいらん子中隊涙する】

【Strike Witches 1947 - Cold Winter -】

【学パロ】

【各種サンプル(ストライクウィッチーズ)】

【死にたがりの赤ずきんと気の長い狼の迂遠な関係】

【オリジナル】

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。
カテゴリ
最新記事
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
月別アーカイブ
最新コメント
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。