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冬のある日、境内にて

 とある神社の境内、紅葉の敷き詰められた参道の石畳の上に、坂本と土方は、身を寄せ合うようにして立っていた。
「すまないな、こんなところに付きあわせて」
 傍らに立つ土方を見上げ、坂本は申し訳なさそうに眉をひそめる。
「いえ、ご一緒させていただきたいと無理を言ったのは私ですから」
 そう言いながら、土方は油断なく辺りを見回している。坂本はバレないよう、こっそりとため息を吐いた。土方が最初から護衛のつもりでついてきていることは、坂本にもわかっている。しかし、それでも、少しくらいは、自分と一緒の時間を楽しんでくれてもよいではないか……。
 甘いにおいを立てる落ち葉の道を荒っぽく踏みしめながら、坂本は境内を見てまわる。
 昔、まだ自分がまだ訓練を受ける身でしかなかった頃、よくこの神社に来たものだ。つらいことがあれば、この神社の裏で泣いたものだ。友人と歩いた小さな縁日は、いつか戦争行かなければならないのだということも忘れ、ただ楽しむことができた。正月には必ず初詣に来て、北郷先生たちと並んで手を合わせた。それだけではない。この場所には、大小様々な思い出が詰まっている。
 それが魔女を引退した今、無性に懐かしくなった。扶桑に帰国するとき、なんともなしに思い出したのだが、居ても立ってもいられなくなってしまったのだ。
 土方は、数歩後ろを着いてくる。こんな所で自分を襲う者など、いようはずもないのに……。
「土方」
「はっ」
「こっちにこい」
 坂本は無理やり腕を掴んで横に並ばせた。腕を組む姿勢になるが、仕方が無い。土方はすぐに離れていこうとするからだ。それに、このあたりに人影はない。それならなんとか羞恥にも耐えられよう。
 土方は困惑しているようだが、嫌がってはいないようだ。ただ、護衛の事を気にしているらしく、周囲を注意深く見回すのは続けている。余程無用と言おうかとも思ったが、そんなことでこの苦労性が警戒をやめるはずもないし、理由はどうあれ自分を守ろうとしてくれていると肯定的に考えて、無言でいることにした。ただし、腕はしっかり組んだまま。
 土方が時折困ったような視線を向けてくるのを、いい気味だと受け流す。それはなかなか悪くない。境内を一周する頃には、大分溜飲も下がっていた。
「この後はどうされますか?」
 鳥居の前に戻ってきた所で、土方がこれからの予定を聞いてきた。
「今は何時だ?」
「十四時を少し回ったところです」
「ふむ」
 十八時に会食の予定があるが、まだ時間に余裕があるらしい。どうしたものか。
 坂本が考え込んでいると、鳥居に臨む階段を登って来る者がある。坂本は慌てて腕を離すと、三歩後退り、土方から距離を取った。
 姿を表したのは、二人の老人だった。矍鑠とした老爺が、妻女と思しき老婆の手を引きながら、一段一段、ゆっくりと階段を登ってくる。
 階段を登り終え、拝殿に向かう二人に道を開けながら、坂本と土方は会釈をした。
 会釈を返した老人たちは、参道をゆっくりと歩いて行く。
 老爺は腰の曲がった老婆に手をかしながら、一歩一歩、老婆の足取りを確認するように歩を進めていった。老婆は全てを委ね、老爺の言うことにはい、はいと上品に頷いている。
「ご夫婦でしょうか」
 土方が呟いた。
「恐らくな。そうでなければ、ああまで献身的にならんだろう」
 頷きながら、坂本の胸には言いようのない感情がわだかまっていった。それが羨望や、憧憬と呼ばれるものだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
 老いてなお、あのように誰かを愛せるものだろうか。
 そもそも、これまで誰かを愛するという経験を、坂本はしたことがない。
 今は土方を好きだと思えるが、果たしてこれが、愛情と呼べるものなのだろうか。先日の、ガリアでの事件で土方に助けられ、その感謝の気持ちを勘違いしているだけなのではないか。
 その疑問は絶えずつきまとい、坂本は戸惑っていた。
 そこへ、この老人たちが現れた。二人の寄り添う姿は、坂本にとっては衝撃だ。二人はきっと死に別れるまで、身を寄せ合い続けることだろう。それこそ、本当の愛のあるべき姿ではないか。
 自分の土方への思いが、この上なく軽く、稚拙なものに思えてくる。
「あのお二人は、本当の夫婦なのでしょうね」
 土方のつぶやきに、坂本は顔を上げた。
「長い年月を共にし、お互いの存在が空気のようにあって当然のものになったからこそ、あのように自然に相手を気遣えるのでしょう」
「そう、思うか」
「無論、深く愛しているからだとは思います。ですが、愛というのは自覚出来るものが全てではないでしょうし、意識してどうする、というものでもないのでしょう」
 なんにせよ、自分が結婚することがあれば、あのような関係にまでなりたいものです。土方はそう付け加えて、言葉を締めた。
 参拝を終え、去っていく老人たちの背を見送りながら、坂本は土方の言葉を思い出していた。
「自覚できるものが全てではない、か」
「は……?」
 離れた位置にいる土方には、聞こえなかったらしい。
「いや、なんでもないさ。今日は来て良かった」
「何よりです。またお出かけの際は声をおかけください」
 ありがとう。
 坂本は最後にそう言って、帰路についた。
 何についての礼だったのかは、坂本にもわからない。ただ、今日一日だけのありがとうでないことは、確実だった。

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