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隣り合って交わらない二日間に思いを致した彼女たちの話


 鼻先を、白い煙は音もなく、線を引くように立ち上る。その向こう側を、ビューリングは眉を潜めて見つめていた。
 その視線の先には談話室の壁があり、残り一ページとなったカレンダーが、ちんまりとかけられている。升目に収まった三十一個の小さな数字のうち、「5」と「6」の上には、大きな赤丸がフリーハンドで描かれ、この月の四日と五日が、部隊にとって特別な日であることを示していた。
 「5」の日、つまりは十二月五日だが、この日は智子の誕生日である。そして翌六日は、ビューリングの誕生日。仲良く並んだ赤丸を見てわかるように、この二人の誕生日は一日違いだった。
 それを、縁があると見る人もいるだろう。しかしビューリングには、そうは思えない。
 何故、一日なのか。考える度に、ビューリングは舌打ちしたい衝動に駆られる。もしもその違いが、二日や三日であれば、誕生日が近いというだけで話は終わり、このようにやりきれない気持ちになることはなかっただろう。
 どんなに近くとも、一日は一日だ。五日と六日が一つになることはありえない。お前たちがすれ違い続けるのは生まれたときから決まっていたのだよと、意地の悪い運命が囁きかける。
 左手を口元の煙草にかけたまま、ビューリングは右手をカレンダーに伸ばした。そして人差し指を「5」の上、中指を「6」の上に、そっと置いてみる。何も起こらない。ぐぐ、と両の指の間隔を狭めてみたが、五日と六日が一緒の日になる奇跡は、起こってくれそうになかった。
 それなら、二つの日を隔てる境界線を消して、いや、あるいは間を線で繋げて……。そのようにして、ビューリングは指を動かしながら虚しい抵抗を試みていたが、
「なにをしているんだろうな、私は……」
 やがて自嘲を込めた呟きとともに、未練を残した鈍い動きで、右手をカレンダーから引き離した。
 ふう、と溜息をひとつ。
 部屋に戻るか。
 ビューリングは振り返り……。そして、くわえていた煙草を取り落とした。
「あ……」
 いつの間にやら、智子が背後に立っていた。
 見られた? ビューリングの脳内が混乱で満たされる。一方、智子はしまった、とでも言いたげな表情を浮かべ、
「ごめん。用事思い出したわ」
 長く艶やかな黒髪を、勢いよく翻した。
「……待て」
 回れ右して逃げ出しかけるその肩を、ビューリングはがっしと捕まえた。
「な、何かしら」
「……見ていたな」
 ビューリングは顔が赤くなるのを感じつつ、智子を睨みつける。
「い、いやあ、その」
「いつからだ」
「えー」
「いつからみていた……!」
「ええ、と。カレンダーを睨んでたところ、から?」
 最初からじゃないか。ビューリングは頭を抱えたくなった。
「あ、で、でも、大丈夫! なにやってたかは全然見えなかったから」
「……なら何故逃げる?」
「い、いやー……。なんか、見ちゃいけないもの見ちゃった気がして……」
 やはり全部見ていたのではないか。ビューリングは必死に言い訳を見つけようとして果たせず、がっくりと肩を落とした。
 しばしの沈黙。
 肩を掴まれた智子は、居心地が悪そうに、俯いたビューリングに視線を向けている。
「……悪いか」
 ビューリングは俯いたまま、絞り出すように呟いた。
「え、なに?」
「誕生日が一日違いなのを気に病んで、それでなにか不都合でもあるのか……!?」
「なんで逆ギレ!?」
「……第一、お前が悪いんだ。私より二年遅く生まれた癖に。どうしてもう一日くらい、母親の腹の中にいられなかったんだ」
「わ、私に言われても困るわよ!」
「お前さえいなければ、私がこんなに悩むこともなかったろうに……」
「今私、すごい滅茶苦茶を言われてるわ……」
 智子は呆れ顔を浮かべていた。怒る気にもならないらしい。
「誕生日が一緒だったら、希望を持てたかも、しれないのに……」
 相変わらず、ビューリングは俯いたままだ。その表情は智子からは見ることができない。しかし、髪から覗く両耳は、茹で蛸のように真っ赤になっている。
「まあ、でも」
 智子は小さく溜め息を吐くと、ビューリングの肩に手を置いた。
「私は誕生日別々で良かったと思ってるわよ?」
 ぴくり、とビューリングが反応を見せる。
「だって一緒だったら、祝ったり祝われたりで忙しいじゃない? 私は誰かをお祝いするときは、ちゃんと心を込めて祝いたいもの。祝われるときも、そうしてほしい。だからそんな慌ただしいことにならなくて助かったわ。もし一緒だったら、祝ったり祝われたり忙しくて、気持ちも中途半端になっちゃうもの」
 ぎゅ、と、智子の肩を握る手に、力が込められた。
「だからどうしてかは知らないけど、そんなことで悩むくらいなら、いっそ私に何をプレゼントしてくれるかで悩んでよ。その方が建設的じゃない?」
 ビューリングが顔を上げると、智子が悪戯っぽく微笑んでいた。
「あ、ちなみに、私はもうあなたのプレゼント買っといたから。何かは言わないけど、期待していいわよ?」
「……わかった、そうする」
「そうしなさい」
 それ以上、智子の笑顔を、ビューリングは直視していられなかった。火照った顔を隠すように、ぷいと身を翻すと、早歩きで談話室を出て行った。
 智子は追いかけなかった。
「仕方がないわね」
 苦笑しながら赤ペンを取り、カレンダーに相対する。そして、「5」と「6」を一緒に囲む大きな丸を描き加え、満足したように、談話室を後にした。


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