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仕方がない

 まったく、仕方がないな。
 呆れたような顔を浮かべながら、アウロラは満更でもない気分に浸っていた。
 視線の先では、エイラとニパが並んで眠り、安らかな寝息をたてている。二人に毛布をかけなおしてやりながら、アウロラは微笑みを浮かべた。
 寝顔を眺めながら、まるで昼間の癇癪が嘘のようだ、とアウロラは思う。エイラの寝顔は、そんなものとはまったく無縁に見える。安らかで、優しげで、どこか儚げで。天使のようだと思うのは、流石に贔屓が過ぎるだろうか。
 アウロラは再び苦笑を浮かべた。昼間にエイラが起こした癇癪を思い出し、そのときの表情との差に、笑いをこらえられなかった。
 発端は、二ヶ月前に遡る。定期的にやりとりしている手紙の中で、アウロラはエイラと休暇が被ることを知った。ならば久し振りに実家で会わないかと持ちかけたわけだが、それに飛びついたエイラの喜色といったら、内容どころか返信の文字にまで表れるほどだった。一体どれほど慌てて書いたものやら、字は汚いし、紙には皺が寄っているし、手紙の最後に嘘だったら嫌いになる、とまで付け加えられていて、ついつい失笑してしまった。
 ただ、会おうと言っただけでこれほどまでに喜んでくれるのは、まったく悪い気がしない。
 アウロラは当然それに向けて準備をしたし、エイラもしていただろう。二ヶ月はあっという間に過ぎ去って、今日に至る。
「ただいま」
 むずむずと何かをこらえたような声で玄関をくぐったエイラは、呆気に取られた表情を浮かべた。裏切られたと思ったのかもしれない。なぜなら、エイラを待っていたのはアウロラだけではなかった。
「……なんでお前が家にいるんだよ」
 ややあって、我に返ったエイラは、敵愾心を剥き出しにして、目を細めた。睨みつけるその視線の先には、ニパがいた。エイラの表情は縄張りを荒らされた狼のようで、今にもニパに飛びついて、その細首に牙をずぶりと突き立てかねない。
 突然怒りを向けられたニパはなにがなんだかわからず、可哀相に、目に涙を浮かべて困惑していた。
「私が連れてきたんだ」
 苦笑しつつ助け船を出してやるも、それを聞いたエイラのニパへの視線は、一層険しさを増した。
「休暇なのに実家に帰る列車の席を取り損ねた運の悪い奴がいたんでな。つい、見ていられなくて」
 エイラはアウロラに視線を向けないまま、ほっとけばいいとか、優しすぎるとか、そんなことをもごもごと呟いた。
 アウロラは再び苦笑する。エイラが自分に視線を向けてこない理由がわかるからだ。エイラはアウロラを悪者にしたくない。険のある視線を向ければその時点でアウロラを批判したことになり、それはアウロラを悪者扱いしたことになる。気持ちは嬉しいが、八つ当たりで割り増しにされた怒りを向けられるニパが、あまりにも哀れである。
「ニパの……ッ! 馬鹿!」
 エイラは叫んだ。出ていけ、と言わなかっただけ、まだ理性は残っていたんだろう。
 ただ、ニパにはかなりショックだったらしい。それはそうだろう。友達だと思っていたのに、突然敵のように扱われたのだから。目に涙を溜めて、うつむき加減に小さな声でごめん、ごめんと繰り返していた。
 アウロラは立ち上がり、エイラの頭に手をおいた。拳骨をくれてやろうかとも思ったが、子どものような嫉妬心に端を発しているわけだし、子どもをあやすようになだめるのが一番だと思った。
「仲良くしなさい」
 頭をなでながら、ゆっくりと、言い聞かせるように声をかける。昔エイラが近所の子と喧嘩したときも、こうやってたしなめたものだ。それを思い出してか、エイラはぐっと言葉を飲み込んで、アウロラに恨みがましい視線を向けてきた。
「ずるい」
「え?」
「ねーちゃんは、ずるい」
 アウロラは肩をすくめた。
「大人だからな」
「うー……」
「ほら、ニパに言うことがあるだろう?」
「でも」
「ちゃんと理由を説明して、謝りなさい」
「だって!」
「エイラ」
 肩をつかみ、目を見つめながら、アウロラは名を呼んだ。
 ニパはもう、ぽろぽろと涙をこぼしている。歯を食いしばって、嗚咽を堪えてはいるけれど、その瞳から零れた雫は、床にいくつものシミを作っていた。
 エイラは困惑したような視線をアウロラに向けていたが、ニパのそんな様子を見て我に返ったようだった。気まずさで少しばかり逡巡しま後、おずおずとニパに近づいて、口を開いた。
「ニパ、その、ごめん」
「う、うー……」
「ねーちゃんと二人だと思ってたから、びっくりしちゃったんだよ」
「じっ邪魔っなんでしょ……っ」
「それは……」
「……でてく」
「ま、待て待て待て待て! 邪魔じゃない! 邪魔じゃないから!」
 泣きながら玄関に歩いていこうとするニパを慌てて押さえつけながら、エイラは何度も邪魔じゃない、と繰り返した。
「でも、イッル、わたし、いないほうが、いいんでしょ……」
「だからびっくりしただけだって。ごめんってば。なあ、ニパ。ごめん」
 そこからふたりがかりでニパをなだめているうちに夕食の時間になり、もう外は暗いからという口実を与えていじけるニパに泊まる口実を与えて、それでも無理に出て行こうとするニパをなんとか抑えつけてと、本当に大変だった。泣き疲れて眠ってくれなければ、いつまでそのやりとりが続いたか、わかったものではない。ニパをエイラのベッドに寝かせてやりながら、アウロラは疲れたように溜め息を吐いた。
「……ねーちゃんのばか」
 そして、大変なのはまだまだ終わらない。いじけているのはもう一人。
「悪かった。でも、仕方がないだろう?」
「ばか」
「なあ、エイラ……」
「しらない」
 背を向けてそんな言葉を繰り返すエイラに、アウロラはこの日何度目かわからない苦笑を漏らした。いくらか大人になったかと思いきや、全然そんなことはないらしい。
「どうしたら許してくれる?」
 細い肩を抱きしめながら、アウロラは聞いた。
「……次は、ねーちゃんと二人がいい」
「約束する」
「ほんと?」
「勿論。約束を破ったら、嫌いになってもいい」
 多分、できはしないだろうとわかりつつ、アウロラは抱きしめる腕に力を込める。
「それと」
「うん」
「寝るまでこうしてて」
 アウロラに頭を寄せながら、エイラはそっと、自分を抱きしめる腕に手をおいた。アウロラの口元から、微笑みが零れた。
「このままで、話も聞いてあげる」
「じゃあ、許す」
 つられたように、エイラははにかんだように笑った。
 こうしていたかったのだろう、この甘えん坊は。ニパがいるとできないから、だからあんな顔をしたのだ。
 まったく、仕方がない。
 その一言の半分以上は、甘えられて喜んでいる、自分に向けられたものだった。

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