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つかみそこねて

 夕食後の一時を、中隊のメンバーは思い思いに過ごしていた。
 食堂にいるのは三人。暖炉の前で本を読むウルスラと、それに付き合うキャサリン。そして、どこか上の空で、コーヒーを飲むビューリングだ。
 いや、飲むという表現は正しくなかった。なにせ、かれこれ三十分、ビューリングの手元のカップからは中身が減っていない。キャサリンが淹れなおしてやっても、ビューリングはなんの反応も示さなかった。
「……ビューリングも大概ちょろいね」
 ウルスラの横に座り直し、ぼそり、とキャサリンが呟く。
 その一言を受けて、まるで鞭に打ち据えられたかのように、ビューリングは体を硬直させた。
「そんなに明日が楽しみかねー?」
 意地悪な笑みを浮かべたキャサリンの問い。
「違……熱っ!」
 ビューリングは振り向こうとして、肘でカップをひっくり返した。
「くそっ」
 悪態をつきながら、ビューリングは近くにあった布きれを慌てて手に取り、ぎこちなくテーブルを拭きはじめる。キャサリンは「あ」という声を出し、その手元を指差した。
「……手に持ってるそれ、ビューリングのマフラーに見えるね」
「……あ」
 キャサリンの指摘通りだった。ビューリングのマフラーは、茶色と白のマーブル模様に染色されていた。
「最初とはびっくりするくらいの変わりようね……」
「……」
 キャサリンの呆れたような呟きに、ビューリングは言葉を返せない。
「……どこで聞いたんだ」
 マフラーを丸めてゴミ箱に放り込みながら、ビューリングは恨めしげにキャサリンを睨んだ。
「明日のことね?」
「そうだ」
「明日ビューリングがトモコの荷物持ちで街に行くことね?」
「……そうだ」
「明日ビューリングがトモコの荷物持ちとは言え、二人っきりで街に行くのが楽しみでワクワクしすぎてここ数日まともに眠れていないことね?」
「……なあ、キャサリン。私なにかしたか? 謝ればいいのか? すみませんでしたと、頭を下げればいいのか?」
「冗談ねー。そんなに睨んだら怖いね。しつこく明日の予定聞くハルカにそう言ってたね」
「……そうか」
 もしかしたら智子も楽しみにしていて……、なんて、考えていない。がっかりなんてしていない。ビューリングは自分にそう言い聞かせた。
「まるで乙女ね」
「やかましい」
 ビューリングは、苛々とテーブルの上から煙草のケースを拾い上げた。しかし、コーヒーを滴らせたそれは、どう見ても火がつきそうにない。舌打ちをひとつ、ビューリングは包みを握りつぶすと、それもゴミ箱へ放り投げてしまった。
「ハルカとジュゼッピーナはこっちで見ておいてあげるね。二人で楽しんでくるがいいねー」
「……ふん」
 ビューリングは踵を返し、扉に向かう。キャサリンは笑いながらその背中を見送った。
「不器用なことねー」
 そのまま食堂を出て行くのかと思われたが、ビューリングは扉の前で足を止めた。
「どうしたね?」
「あ……」
「あ?」
「……ありがとう」
 言うが早いか、ビューリングは食堂を出た。キャサリンは呆気に取られて言葉が出ない。
「……重症」
 代わりに、本に視線をはしらせたまま、ウルスラがそう呟いた。

「寒っ! スオムスってなんでこんなに寒いのかしら……」
 コートに身を包み、マフラーに顔を埋めた智子がぶつくさと悪態をつく。日頃シャープな印象のある智子だけに、丸く着膨れした姿はどこか新鮮ですらある。
「ああ……」
 にもかかわらず、隣を歩くビューリングは、どこか気のない風である。というのも。
「さっさと用事済ませて帰りましょ。ほんと寒い……」
「あ、ああ……」
 浮かれているのは自分一人。智子は寒さで早く帰りたがっている。そんな状況でテンションを上げろというのが無理な話だ。そして何より、そんな状況でも喜んでしまっている自分に、一番気が重くなる。
「あんたもさっきから元気ないし……。具合でも悪いの?」
「……いや」
 こちらの気も知らないで、とは、言わないでおく。
「風邪ひき始めなんじゃない? 勘弁してよ、代わりはいないんだから」
「……」
 ああ、くそ。
 ビューリングは胸の奥で悪態をついた。
 代わりはいない。
 その一言が、どうしてこんなにも嬉しいのか。
 顔が赤い。マフラーがあれば、顔を隠せたのに。
「まったく、こんなに寒いところでマフラーもしないなんて。どうしたのよ」
「……失くした」
 格好悪くて、本当のことなど言えるはずもなかった。
「もう……。仕方が無いわね」
 智子は自分の首からマフラーをほどき、ビューリングの首にかけた。
 智子のにおいが鼻孔をくすぐり、目眩に似た感覚が、ビューリングを襲う。一瞬、頭の中が真っ白になり、反応がワンテンポ、遅くなった。
「お、おい、智子」
「貸すわけじゃないわよ。私だって寒いんだから、一緒に使うの。ほら、もっとこっち寄ってよ。ちゃんと巻けないじゃない」
 余計悪い。余計緊張する。だが、振りほどくような真似はできなかった。
 肩と肩が触れ合いそうな距離。
 時折触れる手の甲を、結局最後まで、ビューリングは握ることができなかった。


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