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鈍色の輪

「手、出して」
 唐突に現れたシャーリーは、これまた唐突に、にっこりと笑って手を差し出した。
 バルクホルンは怪訝な表情で、差し出された手と、ポケットに突っ込んだもう片方の手と、そしてシャーリーの笑顔とを見比べた。何かを企んでいる。それは一目瞭然だった。
「ほら、早く」
 急かすように揺れる手のひら。
 仕方が無いと、バルクホルンは、その上に右手を乗せた。
「こっちじゃなくて、左手。左手出してよ」
「何なんだ、一体……」
 悪戯だったら目一杯殴ってやろうと、固く握っていた左手を解く。そして、右手と交換するように、シャーリーの手の上に置いた。
 シャーリーは優しくバルクホルンの手を掴んだ。そして、ポケットから素早くもう片方の手を取り出し、するり、とバルクホルンの薬指へ、何かをはめ込む。
「……?」
 金属の感触。バルクホルンはぽかん、と自分の指を眺めている。
「誕生日、おめでと」
 その言葉に顔を上げると、悪戯っぽく笑う、シャーリーの顔があった。
「あ、ありがとう」
 呆気に取られ、憎まれ口も出てこない。
「今日一日、それつけて過ごせよ」
 シャーリーは満足したように、そう言い残して立ち去った。

「左手、薬指とは……」
 落ち着いて眺めてみると、とんでもないことのような気がする。
 薬指で鈍い光りを放つ指輪は、おそらく鉄だろう。機械の部品を削り、指輪の形に仕立てたようだ。模様もない無骨な造形だが、バルクホルンの指にぴたりと合うように作られていた。
「あいつ、自分で作ったのか……?」
 装飾品としての価値は、無いに等しい。こんなもの、売りに出した所で買い手がつくまい。やはり、シャーリーが作ったとしか思えない。そしてかすかに香る機械油のにおいが、それを決定づけている気がした。
「くそっ」
 何度も外そうと指輪に手をかけたが、その都度、バルクホルンは思い止まった。
 つけたまま人前に出れば、どういう反応をされるかわからない。だというに、どうしても指輪を外すことができなかった。
 たっぷり三十分、唸りながら考えた末、バルクホルンは薄い綿の手袋をはめることにした。これなら、指輪よりは言い訳が立つはずだ。怪我だとか、火傷だとか、そう言っておけば良い。
 そうして片手に手袋をはめたバルクホルンは、昼食を取るべく食堂に向かった。
 食堂ではシャーリーが既に食事を始めていて、バルクホルンの左手を見るや、不満気に顔をしかめた。
 ちゃんと指輪ははめている。非難される筋合いではない。バルクホルンはトレイを持ち、シャーリーの前に腰を下ろした。手袋をはめた左手を、見せつけるように。
「なんだよ、それ」
 シャーリーはむっとした顔のまま、呟いた。
「指輪はしている。この下にな」
「本当にしてるのかよ」
「なに?」
「外したのを隠すために手袋してるんじゃないのか?」
「馬鹿を言え。そんな卑怯なまねをするか」
「……どうだかな」
 コツ、コツ、コツ……、とシャーリーは人差し指でテーブルを叩いている。険しい目付きでバルクホルンを見据えたまま。
「……そんなに言うなら、確かめてみればいい。手袋の上からでもわかるだろう」
 ややあって、シャーリーの視線に圧されるように、バルクホルンは手を差し出した。
 その瞬間、シャーリーの瞳が光り、バルクホルンの手首を掴んだ。そして、素早く手袋を抜き取り、手首を掴んだまま、上に掲げる。薬指の指輪が、窓から差し込む陽光を、鈍く反射した。
「じゃーん!」
 先程までの険しい表情はどこへ行ったのか。シャーリーは満面の笑みで、バルクホルンの手首を掲げている。
「シャーリー! 貴様……!」
 苛立った顔は、演技。今更それを悟っても、遅きに過ぎた。
「お前が悪いんだよ。手袋なんてはめるから」
 にやにやと笑いながら、シャーリーは囁いた。
「どうしたんですか?」
 サラダボウルを抱えた芳佳を先頭に、人が集まり始める。
「見てくれよ、この指輪。私が作ったんだ」
 人だかりの中、シャーリーが得意げに、バルクホルンの薬指を見せる。
「へぇ、凄いじゃないか」
「シャーリー、私にも作って! ねー、シャーリー!」
 エイラとルッキーニが覗き込む。
 バルクホルンは毒気を抜かれ、座り込んだ。
「もうどうにでもなれ……」
 小さく呟いたその声に、反応する者はいなかった。

 その晩。
「……もう外していいか」
 シャーリーと並んで湯船に浸かりながら、バルクホルンは疲れたように呟いた。
「ダメ。明日の朝になったら、まぁ、仕方がないかな」
「はあ……」
 バルクホルンは指を月にかざした。鈍い鉄色の指輪が、月の光を受けて、まるで純銀のように白く輝いた。
 まぁ、きれいだと思う。嬉しいとも思う。だが、アクセサリーの類は、どうも性に合わない。まして、薬指に指輪などと。悪目立ちがしすぎようというものだ。
「これさ」
 ぼんやりと指輪を眺めていたバルクホルンの横から、シャーリーが片手を伸ばした。その手はバルクホルンの手を握るかのように伸び、薬指の根本で止まり、指輪に触れた。
「昔、私がレースで優勝した時に乗っていたバイク。そのパーツから削り出したんだ」
 バルクホルンは驚いて、顔を横に向けた。シャーリーが懐かしむように、目を細めて指輪を見ている。
「私はゴールまで走りきった」
「それは、そうでもなければ優勝はできんだろうが……」
「お前も」
 唐突に、シャーリーの意志の強い瞳が、バルクホルンを見据えた。
「お前も、あと一年だろ。ちゃんと、走りぬけろよ。絶対にリタイアなんかするな」
「……そうか。こいつは、お守りか」
 引退までの一年を、無事に過ごすための。
「ちょっと手、貸して」
 指輪に触れていたシャーリーの指が、位置を変え、バルクホルンの手を包んだ。バルクホルンは力を抜き、シャーリーの手に任せる。シャーリーは優しく両手を添え、自分の顔の前へと運んだ。
 そして、シャーリーの唇はバルクホルンの指に降り、指輪に口付けをした。
「……まじないか?」
 バルクホルンが、呆れたように視線を向けた。
「幸運のな」
「聞いたことないぞ」
「そりゃ……、思いつきだからな」
「適当なやつめ」
「もう一回してやろうか」
「遠慮する」
 そっけなく言いながら、バルクホルンは、小さな笑みを漏らした。

 翌朝。軍服姿で部屋を出たバルクホルンの指に、指輪はなかった。
 その代わり、彼女のシャツの下。誰からも見えないところで、銀の鎖で吊るされた、鈍い、鉄色の指輪は輝いている。


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