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異名

 訓練の後、夕食の準備にはまだ時間がある。
 その少しの時間を利用して、芳佳とリーネは滑走路の端に腰を下ろし、雑談に興じていた。
「ミーナ隊長の『スペードのエース』、シャーリーさんの『グラマラス・シャーリー』、エイラさんの『ダイヤのエース』……。こういうのかっこいいよね」
 憧れに瞳を輝かせながら、芳佳が言う。リーネの相槌にも、熱が宿っていた。二人とも、そういったものに憧れる年頃なのかもしれない。
 501はトップエースを集めた部隊であり、異名を奉られた者が多く在籍している。例えば、今芳佳が名を挙げた者達だ。彼女らの異名は尊敬と憧れをもって命名され、仲間内でつけるあだ名とは、まったく意味を異にする。
 皆、祖国では英雄であり、スターなのだ。本来であれば、新米の芳佳やリーネが気安く口を利けるような人間ではない。それを、共に起居する幸運に恵まれ、間近で見ることが出来る。二人にとって、彼女たちは憧れの対象ではなく、追いつくべき目標なのである。
「私もいつかもらえるかなぁ」
「芳佳ちゃんなら大丈夫だよ」
 しかし、今は他愛のない雑談。
 いつか叶うこともあるだろう。そして叶った時に思い出すのだ。こうして夢見ていた時もあったねと。
 二人は立ち上がった。
 雑談は終わり。
 ……そうなる、はずであった。
「なになに? 二人とも、異名が欲しいのかい?」
「ハルトマンさん!?」
「どこから!?」
 彼女さえ、現れなければ。

「というわけで、第一回異名コンテスト・イン・501を行おうと思います」
 夕食の席、やたらと真面目な顔を作ったエーリカが、そんなことを言い出した。手には米粒のついたしゃもじ。マイクの代わりらしい。
「……何を言っとるんだ、お前は」
 隣に座るバルクホルンが、冷えた視線を送る。エーリカはそれをスルーして、話を続けた。
「実は、みなさんの椅子の裏に、フリップとペンをご用意しております」
 胡散臭そうな顔のエイラが椅子の裏を覗くと、なるほど、確かにフリップとペンがテープで貼り付けられていた。
「うわ、ほんとだ。準備いいな……」
 エイラは呆れ顔を浮かべ、他の隊員もフリップを手にしながらそれに習う。
「……止めなくていいのか、ミーナ?」
 バルクホルンが厄介なことになるぞ、と視線を送るも、ミーナは諦めたように笑い、
「まあ、エーリカが張り切ってるみたいだし……。レクリエーションと思えば悪いことじゃないわ。……多分」
 そう言って、容認の姿勢を示した。
「はい、それでは準備ができたようですので、早速ルールの説明です。みなさんにはミヤフジとリーネの異名を考えて頂きます。それらはお手持ちのフリップに書いて頂きまして、後日基地全体で投票を行い、決定します。なお、賞品ですが、優勝した方には『自分へのご褒美という名目でお金を無駄遣いする権利』を差し上げます」
「いらねーよ!?」
 エイラが立ち上がり、ツッコミをいれる。エーリカはそれを一瞥すると、
「はい、エイラ君黙って。マイナス10ポイント」
「ルール変わってんじゃねえか!」
「ちなみに、ミヤフジとリーネ以外の異名を考えて頂いても結構です。その際はフリップに誰の異名であるかも明記してください。普通に異名を持ってる人のでも大丈夫です。まさか大切な仲間から新しいあだ名をもらったのに、過去に恋々として古いものを使い続けるような冷たい人はいないと思います」
「随分プレッシャーかけるな……」
「まずは例として、さっきからうるさいエイラ君の異名は『青菜に塩』となりました」
「やめろよ! せめて投票にかけろよ!」
「よろしくお願いしますね! 『青菜に塩』さん!」
 芳佳がにっこりと微笑んだ。
「ミヤフジテメェェェ!!!」
「はい、『青菜に塩』君は座って。これから始めますよー」
「なぁ、本当に私、このままなのか……?」

「出来たぞ! おい、ハルトマン! 出来たぞ!!」
「……はい、何だかよくわからないけど唐突にやる気だして気持ち悪いトゥルーデ」
「ああ、こいつは傑作だ。刮目しろ!」
 そう言って、バルクホルンはフリップを裏返した。

『宮藤→ヨシカ・バルクホルン』
『リーネ→リネット・バルクホルン』

 静寂に包まれる食堂。
「……あ、はい。そうですか。じゃあ次……」
 ぎこちなく視線を外すハルトマン。
「今はともかく、いずれ私はお前たちを守ってやることができなくなる。だが、そのとき、せめて名前だけでも一緒にいてやり、心の支えになってやりたいのだ。血こそ繋がっていないが二人は私の」
「やめてトゥルーデ。本気で気持ち悪い……」
 袖に隠れて見えないが、エーリカの腕は鳥肌でびっちり覆われていた。なおも口を開こうとするバルクホルンをなんとか静止していると、
「……あの。出来ました」
 サーニャがおずおずと手を上げた。
「は、はいっ! さーにゃん! ビシッとお願いします!」。

『青菜に塩→エイラ・リトヴャク』

「……おめでとう」
 ぱちぱちと拍手を始めたエーリカに、
「ちょっと待てよ!」
 顔を真っ赤にしたエイラ・リトヴャクが抗議の声を上げた。
「もう異名関係なくなってるじゃねーか!」
 ツッコミを入れるエイラ。
「ポイントはエイラが嫁というところです……」
 補足をするサーニャ。
「サーニャも目を覚まして!」
「エイラ、子どもは何人ほしい……?」
 エイラを見上げるサーニャの目はマジだった。エイラはそれに圧されるように、
「さ、さんにん……」
 小さく呟いたのだった。

 サーニャによって寝室に連れ去られるエイラを見送ったエーリカは、咳払いを一つ、仕切り直そうと顔を上げた。
 その視界に飛び込んできたのは、手をピンと伸ばして天井向かって突き上げる、バルクホルンの姿。
「…………」
「出来たぞ」
「…………」
「出来たといっているだろうが」
「どうしても当てなきゃダメカナ?」
「駄目だ。言わせろ」
「じ、じゃあ、トゥルーデ……」

『バルクホルン→ゲルトルート・ミヤフジ』

「やっぱり駄目だあああああああ!!」
 エーリカの叫びが木霊した。

「……なんか、私たちのあだ名とかどうでも良くなっちゃってるね、リーネちゃん」
「う、うん……。でも、それで良かったかも……」
「そうだね、ない方がいい気がしてきたよ……」
「私も……」



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