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悔い


 帰り道、武子と智子は、並んで自転車を押していた。
 智子はずっと不機嫌そうな表情である。時折、その顔を盗み見ては、武子は苦笑していた。
「智子。あなたまだ次のスタメン不満なの?」
「当たり前でしょ! 私たちが外されたのよ!?」
 智子が憤慨している理由は、次の大会のメンバーだった。
「全員三年生なんて、大会を舐めてるわ!」
 団体戦のメンバーが、全員三年生なのである。実力順で見れば、三年生でメンバーに入れるのは二人だけ。本当は、武子と智子も入るはずだったのだ。
「そうは言うけど、加東先輩とか、黒江先輩はちゃんとした人じゃない」
「だからよ! だからこそなんじゃない!」
 智子は辺りを気にする事無く、拳を握って言いたい放題喚きちらしていた。
 その一方で、武子に気にした様子はあまりない。完全に納得しているわけでないのは、智子を止めないところからもわかる。だが、ある点では納得している辺り、武子は智子よりも大人だった。
「三年生は、最後の大会だからね」
 目を細め、遠くを見るように、武子は呟いた。
 最後の大会、出られずに終わった人たちは、この後どれほどの悔いを残すだろう?
「ちゃんと練習してなかったのが悪いんじゃない! 黒江先輩と加東先輩が付き合わされることじゃないわ。あの二人はずっと真面目にやってきて、その集大成が地区止まりなんてことになったら、私絶対に許さない」
 智子の怒りは、単純に、レギュラーに選ばれなかったからではない。自分たち無しで、先輩たちは全国大会に行くことはできないと、そう考えているのだった。
 主将の加東圭子と、黒江綾香の二人は三年生。今年が最後である。この二人を尊敬する智子にとって、それは受け入れ難い。なんとしてでも全国に行って欲しかった。
「でも、メンバーは加東先輩たちが決めたらしいわ」
「えっ……」
 そのことを、智子は初耳だった。
「泣きつかれたのかもしれないわね。三年間一緒にやってきた仲間から、最後の大会、悔いを残したくないって」
「でも、それじゃあ……」
「多分、先輩たちは最後の大会、成績を残すことよりも、もっと別のものを取ったんじゃないかしら」
「そんな、甘いこと……」
「甘いと思う?」
 武子の視線が、射ぬくように智子に当てられた。
「友だちと、思い出を作りたいって気持ちが、本当に甘いと思う?」
「……気持ちは、わかるけど」
「智子は他の三年生がちゃんと練習してこなかったって言ったけど、あの人達だって決して手を抜いてたわけじゃないわ。ただ、どうしても、体力や技術の差って出ちゃうのよ。私たちと同じ事を、誰にでも求められるわけじゃない」
 どこか、自分に言い聞かせているようだと、智子は思った。
「他の三年生の人たちだって、頑張ってたわ。私たちがレギュラーを奪っても、一生懸命応援してくれた。覚えてるでしょ? 試合の直前、サブの道場で練習の相手をしてくれたこと。それを、忘れちゃ駄目なんだと思う」
 そんなこと、思い出すまでもなく、智子にはわかっている。
「だけど、だけど、武子……」
「言わないで。言いたいことは、私にだってわかってる。今の剣道部を作ったのは、加東先輩と黒江先輩なんだから」
 ほんの数年前まで、この剣道部は弱小だった。そこに加東、黒江といった二人が入部して地保を固め、さらに一つ下の武子と智子が加わって、一気に強豪に踊りでた。
 智子と武子には、四人で今の剣道部を創り上げたという気持ちがある。だからこそ、加東と黒江に抱く尊敬は大きく、今回のメンバーは悔しいものだった。
「じゃあ、加東先輩と黒江先輩は、県大会どまり……、ううん。もしかしたら、地区止まりになっちゃうかもしれない。それでもいいっていうの?」
 唇を噛み締めながら、智子は呟いた。
「よくはないでしょう。でも、納得はしていると思う」
「なんで……」
「私には、ちょっとわかる気がする。多分、後悔をみんなで共有することを選んだんじゃないかな」
「共、有……?」
「そう。大会に出られなかった悔いは、加東先輩たちにはわからないけど、大会で負けた悔いは、メンバー全員で共有できる。多分、そこじゃないかしら」
「優しすぎるよ……」
「かもね。でも、私はそっちの方が好きよ。成績ばかり求めるなんて、私は楽しくない。智子だってそうでしょ? 一人しかいない部活で、個人戦優勝したって面白くないんじゃない?」
 智子はうつむいた。武子の言わんとしていることが、よくわかった。
「確かに競争だけど、命をかけたものじゃない。成績を一番に考える人がいていいし、思い出を優先する人、自分たちの成長を優先する人がいてもいい」
「……でも」
「智子。私達にできるのは、先輩たちが悔いを残さずに戦えるように、後押しすることだと思う。練習や応援、頑張りましょう?」
「……わかった。私も頑張る」
 智子は決然と、前を向いた。
「じゃあ早速、明日から先輩たちの猛特訓をはじめなきゃね!」
「……そう、ね」
 そうきたか。武子は後悔し、目を輝かす智子から、視線を逸らした。
 加東と黒江以外の先輩たちに、明日以降の地獄をどう詫びたものか。今からそれを考えると頭が痛い。
 こうなった以上、智子が止まるはずはないのだから。
 後の世代で伝説となる、地獄の六月の幕開けである。


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