スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

似た二人


 誰にだってあるだろう。
 わけもなく、落ち込む日というのは。
 まったく関係のないこと、とるに足らない些細なこと。そう言った小さな切欠があるときもあれば、ないときもある。
 どの場合にしても、「コレを解決すれば気分が晴れる」という正解がない。
 もどかしいことだ。苛立たしいことだ。
 誰が悪いのではない。
 無論、シャーリー自身も。
 誰も自分を非難できない。逆もまた然り。
 それは余計に頭にくる。
 どこに鉾先を向ければ良い? 自分か? 他人か?
 行き場のない感情は、戸惑いの色から怒りの攻撃色に色を変え、捌け口を求めて暴れまわる。
 ああ、くそ。
 シャーリーは頭を抱えた。
 どうして、あんなことを、言ってしまったんだ。
 やってはいけないことだった。八つ当たりだけは、絶対に。
 一瞬だけ垣間見えた、エーリカの傷ついたような微笑みが、頭から離れなかった。

「お前は狡い」
 その言葉が自分の口から出たのだと気づくのに、数秒の時間が必要だった。
 それは、意識すらしていないシャーリーの不満が、初めて形になり、噴出したときだった。
 廊下で顔を合わせた途端にそんなことを言われ、エーリカが、ぽかんとした表情で立っている。シャーリーの口は、止まらなかった。
「いつも、あいつはお前ばっかりだ」
 あいつ。お前。
 固有名詞を欠いた、抽象的な批判。
 だが、例えなんの脈絡もなかったもしても、シャーリーとエーリカの間では、それで十分すぎるほどに、意味が通る。
「そんなこと、ないよ」
 返ってきたのも、不満だった。
 シャーリーにはシャーリーの不満が。
 エーリカにはエーリカの不満が。
 それぞれに、思うところがあって良いはずだ。
 そのくらいのことを、理解できないシャーリーではない。
 だが、この日、この時に限っては、駄目だった。
 不満を塞き止める理性。それを、この日は鬱々とした行き場のない感情が、すっかり外してしまっていた。
「あるさ。あるよ。……あるんだよ」
 酒を飲んだわけでもないのに、意志に反して、シャーリーの口は滑らかに動いた。
「お前が言う、あいつへの不満。私には全部、ノロケにしか聞こえない。毎朝起こすのが乱暴だ? 部屋を掃除しろとうるさい? 全部、お前を気にかけているからじゃないか。お前がそこを直しても、あいつは何かを見つけて、絶対小言を言い続ける。お前のこと、ちゃんと見てるから、あいつにはできちまう」
「……トゥルーデが、やりたいかどうかは」
「やりたくなければ、とっくの昔にやめてるだろ。何年の付き合いだよ、お前ら。ああ、くそ。その付き合いの長さも、羨ましい」
 共有した時間も、感情も、距離感も。
 何一つ、自分はエーリカに勝つことができない。
「ずりい。ずりいよ」
「私だって、シャーリーが羨ましい」
 エーリカの顔から、表情が消えた。
「トゥルーデが弱味を見せるのは、シャーリーだけだから」
「お前にだって、見せてるだろ。中佐にも」
 エーリカは力無く、首を横に振った。
「トゥルーデは、私やミーナには、見せてくれないよ。私たちを、守りたいんだと思う。背中を預けてはくれるけど、ただそれだけ。シャーリーには違うよね。トゥルーデは、シャーリーと張り合おうって、同じ目線だもん」
「同じ、目線……」
「階級も、歳も、関係なくて。戦友っていう意識もない。トゥルーデにとって、シャーリーはシャーリーなんだよ。私には、羨ましい。トゥルーデは、私やミーナを、そんな風には見てくれないから」
 悔しいのか、それとも悲しいのか。エーリカは、下唇を噛み締めた。
「シャーリーだって、恵まれてるよ。もしかしたら、私よりトゥルーデに近いところにいるのかもしれない」
 そう続け、微笑みながら顔を上げた、エーリカの唇には、わずかに歯の後が残っている。
 そのせいだろうか。
 エーリカの微笑みが、一瞬、傷だらけに見えてしまったのは……。

「ごめん」
「ううん。私も、ごめん」
 夕食の前、シャーリーとエーリカは、食堂の前で顔を合わせていた。
 少しどころではなく、気まずい。
 それでも、二人は素直に謝りあうことができた。
「今朝から、わけもなく悶々としちゃってさ。その、八つ当たり、だったんだよ。ほんと、ごめん」
「シャーリーも、そうだったんだ」
「私、も? てことは、お前もそうだったのか」
「うん。わけもなく、ね。だから、売り言葉に買い言葉って感じだった」
「ぷっ。はは、あはははははは」
「ふふ、あははは」
 二人は一瞬、視線を交わらせると、示し合わせたかのように、笑い始めた。
「あー、おかし。似てんのかな」
「かもね。好きな人が同じだったりするし」
 疾風と、加速。考えてみると、固有魔法すら、どことなく似ている気がした。
 それから、エーリカと別れた後で。
「喧嘩、だったのかな」
 どちらも、激したりはしなかった。怒りもない。ただ、お互いの悲しいところをぶつけ合っただけ、という気がする。
「……やめだ、やめ」
 バルクホルンに対しての感情も、エーリカに対しての感情も、これ以上考えるだけ無駄だ。
 気晴らしに、ハンガーに行って、エンジンでもいじくろう。
 シャーリーは、逃げるように、その場を後にした。


スポンサーサイト

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

No title

素晴らしい小説!

丁寧な表現で、とても面白かったです!!
プロフィール

萩原間九郎

Author:萩原間九郎
スオムス文庫やってます。

ご意見感想その他何かありましたら、以下のアドレスか、メールフォームをご利用ください。

hanzou.oohara鼎gmail.com
(鼎を@に変えてください)

管理画面

来客数
Twitter
スオムス文庫目次

クリックするとSSのリストが開きます。

※印のついているものはR-18です。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

リンクに間違っている箇所がありましたら、お手数ですがお知らせお願いします。

【スオムス文庫@501】

【スオムス文庫@502】

【スオムス文庫@504】

【スオムス文庫@いらんこ中隊】

【スオムス文庫@スオムス】

【スオムス文庫@その他】

【スオムスいらん子中隊涙する】

【Strike Witches 1947 - Cold Winter -】

【学パロ】

【各種サンプル(ストライクウィッチーズ)】

【死にたがりの赤ずきんと気の長い狼の迂遠な関係】

【オリジナル】

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。
カテゴリ
最新記事
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
月別アーカイブ
最新コメント
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。