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ねぼすけ


 微かに、目覚まし時計の音が聞こえる。
 まるで、布に包まれているかのようにくぐもった、小さなベルの音。
 こんなに音が小さいなら、まだ良いよね。
 静夏は眼を開けなかった。
 それが、間違いだった。
「ちょっとおおおおおおおおお!! 宮藤さん何やってるんですかあああああああああああああああああああ!!!!!」
 半分夢心地で、「こんなに長く目覚ましがなるのは変だな?」とか、「そもそもなんでこんなくぐもった音なんだろう?」とか、そういうことをぼんやりと考えていた静夏だが、徐々に頭がはっきりしていくにつれ、理解が及ばぬまま、状況のおかしさに嫌な予感を覚え、冷や汗が滲んでいった。
 ようやく意識がはっきりした途端、それが予感でも何でもなく、本当にヤバい状況だったことを察した。
 隣のベッドでは、芳佳がのんきに寝息を立てている。
 何故か、けたたましい音を鳴らす、目覚まし時計を抱きしめて。
「ちょっ!? お、起きてください宮藤さん! 完全に遅刻ですよこれ!!」
 芳佳からもぎ取った目覚まし時計は、九時を指していた。
 今日は二人とも、シャーリー、ルッキーニと共に、買い出しに行く予定である。集合時間は十分後だった。
「しずかちゃん、うるさい……」
「目覚まし時計抱えて爆睡してた人がなんてこと言うんですか!?」
「もうすこしねかせて……」
「あと十分で集合時間なんですよ!?」
「じゃああとじゅっぷんでいいから……。それからじゅんびしてもまにあうでしょ……」
「どういう計算ですか!?」
 芳佳は毛布をかぶると、ダンゴムシのように丸くなってしまった。
 二つも年上の人の行動なのに、やたらと愛嬌を感じる。
「って、そんな感想抱いてる場合じゃないから……!」
 寝顔に見入るのは、今夜だって出来るのである。
「やりません! そんなふしだらなこと、やりませんからね!!」
 とにかく、顔を赤くしながら、静夏は芳佳の毛布に手をかけた。
「宮藤さん、起きてください! 起きてくださらないと、強硬手段に出ますからね!」
「だからなんなの……」
 ビキッ。静夏のこめかみに、一筋の血管が浮かび上がった。
「もう、知りませんからね……!」
 魔法力を発現させる静夏。
 そのままの勢いで、ダンゴムシの表皮、もとい、芳佳の被る毛布を剥ぎとった。
「さあ宮藤さん、起きてくださ……、いない!?」
 ベッドは空っぽ。
 僅かな時間に、いったいどこへ消え失せたというのか。
 驚愕に見開いた目を、ふと横に向けた。
 すると。
「ぐー」
 寝息を立てる芳佳が、器用にも両手両足の指で毛布を掴み、虫のようにへばりついていた。
「なんでこの人こんな所で器用なの!?」
 と、驚いてもいられない。
「ええい、ほら、起きてください! 起きてくださいったら!!」
 魔法力を発現させた勢いで、ばっさばっさと毛布を振る。
 なのに、芳佳はまったく、離れる様子がなかった。
「どこにこんな力が……」
 この程度でバテる静夏ではないが、段々自分が滑稽に思えてきて、力が抜けてしまう。
 どうしたら良いのだろう。
 顎に手を当てた静夏の脳裏をよぎる、ひとつの笑顔があった。
「リネット、ビショップ曹長……」
 それは、リーネの笑顔であった。そして、胸であった。
 芳佳は、あの豊かなバストにご執心の様子である。
 あれがあれば、あるいは……。
「……駄目。駄目よ、静夏。そんな弱腰じゃ」
 そうだ。上官一人起こせずして、立派な兵士になれるものか。
 それに、プライドの問題もある。確かに、リーネのバストには敵いようもないが、自分だって、歳の割に発育は良いと言われているのだ。今は駄目でも、二年後、三年後にはと、常々思い続けていた。
 ここで、負けてたまるか。
 静夏はじっと、自分の胸を見つめた。
「よ、よし。やるんだ……。やるんだ静夏……」
 芳佳のしがみ付く毛布を、ベッドに戻す。ただし、芳佳を上にして、毛布をその下に敷くような形でだ。
「み、宮藤さーん……」
 名前を呼びながら、恐る恐る、胸を近づけていく。
 芳佳は微動だにしない。
 静夏の胸がその後頭部に触れても、それは変わらなかった。
 ……駄目か。
 敗北感が、静夏の胸に渦巻いた。
 諦めて、他のやり方を探そう。
 そう考え、ベッドに視線を戻すと、芳佳の姿は再び消えていた。
「……えっ!?」
 どこへ? どこへ行ったのだ?
 あたりを見回しても、まったく見つからない。
 まさか、部屋の外だろうか?
 ドアが開閉された様子はまったくなかったが……。
 毛布を持ち上げてみても、裏返してみても、まったくいる気配がない。
 まさか、ベッドの下に?
 そう考え、視線を落とした瞬間だった。
「……何してんですかー!?」
 まるでセミのように、静夏の胴体にしがみつく芳佳が、そこにはいた。
 胸に顔を埋められながらまったく気づかない静夏も静夏だが、一瞬の早業で体制を移動させる芳佳も凄い。と、思う。
「ちょっ! 起きて、起きてくださいったら! 宮藤さんー!?」

 五分後。
「おう、来た、な……!?」
 トラックの前で待ちくたびれていたシャーリーが、ぎょっと目を見開いた。
「おまたせ、しました……」
 息を切らしつつ、芳佳の着替えを握りしめた静夏が、当の芳佳を胴体にひっつけつつ、立っていたからだ。
「……なにそれ?」
「すみません、お答えしかねます……。私もよくわからないので」
「え、あ、そう……」
「着替えは宮藤さんが起きられてから、荷台でやっていただきますので、とりあえずはこのままで……」
「あ、ああ……」
 なんとなく、釈然としない顔のまま、シャーリーは運転席に乗り込んだ。
 その背を見送りつつ、静夏はゆっくりとため息をつく。
「到着する前には、起きてくださいね」
 この状況が満更でもない。そんな心境が、微かににじみ出ていた。
 ……もっとも。数分の後には、シャーリーの運転で、何もかもが滅茶苦茶になるのだが。


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