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乾いた音は


「ただいま、サー、ニャ……」
 扉を開けた途端、エイラは笑顔を凍りつかせ、声を詰まらせた。
 部屋に充満するアルコールの臭気。そして、床に転がる大量の空き瓶が、そうさせた。
 これは、不味い。
 予知も占いも、必要なかった。経験で、この状況がどれほど危険か、理解できてしまう。
 こちらに背を向け、ベッドに腰掛ける、サーニャの小さな背中。身じろぎひとつしないまま、ただぽつんと、そこにある。普段ならば抱きしめたくなるような儚い背中だが、今は言いようのない威圧感を纏っていた。
 待て、待て。眠っているかもしれないじゃないか。
 そう自分に言い聞かせ、竦む足を叱咤したエイラは、ゆっくりと歩み寄った。
「さ、サーニャ?」
 呼びかけた。しかし、反応はない。
 眠っていて欲しい。
 祈るような気持ちで、華奢な背中に近付き、そっと、細い肩に、手を置いた。
 結論から言う。
 サーニャは眠ってなど、いなかった。
 パァン、と乾いた音が、室内に響き渡る。
 音に気付くより早く、エイラは視界を揺らされ、頬に痛みを感じていた。
 顔を張られたのだ。
 そのことに気づいたのは、サーニャが半目の三白眼で、睨むように見上げてきてからだった。
「サ、サー……」
 言い切る前に、頬を張られる。視界が涙で滲んだ。さらにもう一発。今度は襟を掴まれての一撃だった。強烈だ。ひりつく以上に、脳が揺れる。視界が滲んだのは、涙のせいだけではないだろう。
 さらに二発。さらに三発。サーニャは繰り返し、繰り返し、平手でエイラの頬を張った。
 エイラの頭の中から、叩かれた回数のカウントが吹き飛んだ頃になって、ようやくその手は止まった。
 襟を掴まれたまま、ぐったりと床に膝をついたエイラを、サーニャは無感動な瞳で見下ろしている。
「…………」
 サーニャは何も言わない。
 酒を飲むと、サーニャはいつもそうだった。一言も発さずただエイラを殴り続け、あるところで、糸の切れた人形のように、唐突な眠りに落ちるのだ。目を覚ますと、何も覚えてはいなかった。
 拳で殴られるなど、まだマシな方である。今日のように平手ならば、きっとサーニャは機嫌がいいに違いない。空き瓶で殴られることもあり、流石にその時ばかりは芳佳の世話にならざるを得なかった。
 それでも。エイラは、逃げなかった。いつも暴力を甘受し、顔や身体に、傷を作った。傷の言い訳は、いつも子供じみた拙いものだったが、絶対に真相は話さなかった。自分の胸のうちに仕舞いこんで、絶対に、外には出さない。
 サーニャは何かを伝えたいのではないか。エイラには、そうとしか思えなかった。
 きっと、言葉にならないことを、酒の力を借りて、必死に伝えようとしている。暴力になるのは、サーニャの幼さか、不器用さ、または、その両方だ。それを読み取ってやれない自分が悪いのだと、エイラは本当に思っていた。
 なにせ、平手の時は掌が真っ赤に腫れ上がり、拳の時は皮膚が破けて血が出るまで、殴り続ける。瓶などの道具を使った時、サーニャは決まって、自分にもそれを振り下ろす。
 悲痛だった。切なかった。なぜ、エイラを傷つけながら、サーニャ自身も傷つかねばならないのだ。
「……やめて、サーニャ」
 殴るのをやめてくれ、とは思わない。せめて、サーニャ自身を傷つけることだけは、やめて欲しかった。
 答えは、平手だった。


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テーマ : 二次創作:小説
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