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清々しき醜態


 ペリーヌがそのウィッチと出会ったのは、とあるパーティーでのことだった。
 そこでは、ペリーヌはアクセサリーに過ぎなかった。政府のお偉方による政治ショーに、ガリアの英雄として華を添える。たったそれだけのために、百言の社交辞令と、千回の笑顔を用意した。
 彼女をよく理解する人間ならば、勿体ないことだと溜め息を吐くだろう。
 その言葉は民を励ますためにあり、その笑顔は彼女を慕う者たちへの無上の報酬である。日々権力のため、額に脂を滲ませた政治屋たちに、それは過ぎたものだった。
 ペリーヌは、自分がいかに実のないことに付き合わされているか、当然承知している。それでもこうして愛想を振りまくのは、政治屋達が牙を剥き、領民を害する危険を避けようとすればこそだった。実入りはなくとも、意味はある。馬鹿馬鹿しいものではあるが。
 ペリーヌの行動は、すべて、ノーブレス・オブリージュ、突き詰めるところの、自己犠牲から発していた。
 偽善者の自己陶酔、と陰口を叩かれているのは知っていた。しかし、ペリーヌは頑として、行動原理を曲げようとはしなかった。
 頑なに自己犠牲を続けるペリーヌ。
 自問しない日はない。自己嫌悪しない日はない。日々、自分は正しいかと問い続け、そしてこうするべきではなかったかと、自分を責める。例え責めるべき点がなかった日でも、見つけられないのは不見識故だと、唇を噛み締めるのである。
 完璧な人間に、完璧な貴族に、彼女はなりたかった。
 しかし、そんなものになれるはずもないのが、現実である。
 ペリーヌは、疲れていた。
 誰もその姿を知らない。
 しかし、精神は磨耗し、身体も不調を訴えている。
 それでも働かねばならないと、自らを叱咤するペリーヌ。
 辛くないはずは、なかった。
 そういう時だったのだ、彼女と出会ったのは。
「クロステルマン中尉ですか」
 作り笑いとおべっかに疲れたペリーヌは、酔いを醒ますという口実で、テラスに出ていた。実際のところ、ワインは口を湿らす程度しか飲んでいない。酔っている筈もなかった。
 後ろからかけられた声に振り向くと、ひとりの女性が微笑んでいた。
 カールスラントの軍服を着たその女性は、中尉の階級章を付けている。歳はそれほど離れているとも思えない。年齢と階級だけでなく、独特の雰囲気があり、一目でウィッチだとわかる。癖のある、くすんだ金色の髪を自分の指先で弄びながら、ペリーヌに近付く女性。近付いてわかったが、驚くほどに背が高かった。
「はじめまして。カールスラント空軍中尉、ヴァルトルート・クルピンスキーと申します」
 クルピンスキーと名乗るカールスラント人は、人好きのする微笑みを浮かべながら、自然な足取りで、ゆっくりと距離を詰めてくる。
 ペリーヌは警戒した。
 当然の事だ。今、ペリーヌが不本意ながらも片足を突っ込んでいるのは、政治という名の泥沼なのだ。
「なんの御用かしら」
 しかし、ペリーヌは柔らかに微笑んだ。
 政治力を必要とする場面に慣れ、警戒するやり方も、効果的なものを身につけている。かつてのペリーヌは、鋭い視線を投げかけて威嚇したものだが、今は逆に、柔らかに笑顔を浮かべるのだ。味方ならばそのまま親愛の証と取るだろう。敵ならば、かみつく隙間を与えない。あわよくば、油断を誘うことも狙っていた、
「そんなに警戒しなくても結構ですよ」
 しかし、クルピンスキーはあっさりと、それを飛び越える。
「あなたの噂はフラウやトゥルーデ、じゃなくて、エーリカ・ハルトマンやゲルトルート・バルクホルンから聞いています。二人とは、原隊が一緒で」
「は、はぁ……」
 懐かしい名だ。
 一瞬記憶が過去に飛び、警戒に空白が生じた。
 意識を現在に戻したとき、いつのまにやら、クルピンスキーは隣に立っていた。
「私も今日は添え物でね。ほら、あそこにいるでしょう、ガランド少将。彼女のお供なんですよ」
 クルピンスキーの示した先には、黒髪の女性が談笑していた。
 アドルフィーネ・ガランド。現在の階級は少将。大戦初期の英雄で、主にヒスパニアで活躍したという。カールスラントのウィッチ隊総監である。とうの昔に上がりを迎えているはずだが、たまにこっそりと出撃しているという噂もあった。
 それほどの大物がくるあたり、カールスラントも意地を張っている。ガリア解放の英雄に対抗するために、それほどの大物を引っ張り出してきた。
 もっとも、ペリーヌとして張り合うつもりはまったくないし、蝶の標本を自慢しあう子どもの如き政治屋たちに、呆れるばかりだ。
「フラウとトゥルーデはそもそもこういう場に向かないし、隊長職の人たちは忙しさを理由に辞退。マルセイユはガリア系だから、ガリア人に張り合うのにはそぐわない。まあ、彼女は選ばれてもくるとは思えないけど。とにかく、そんな感じで、私にお鉢が回ってきたわけさ」
「そうご自分を卑下なさらなくても良いんじゃありませんこと」
「まあ、事実なんだけどね。私は問題児だから、本当はこういうとこ、一番来ちゃいけないんだよね」
「はあ……」
 クルピンスキーは、いつのまにか、砕けた口調になっている。
 そういえば、身体の距離も近い。香水の匂いだろうか。男物のコロンのような匂いが、微かに鼻をくすぐる。
「だからさ」
 言葉を切り、ペリーヌの耳元に、口を寄せるクルピンスキー。
「一緒にここ、抜け出さない?」
 この人は危険だ。
 甘い声の囁きに、今更ながらに警鐘をならした自分の警戒心に、ペリーヌは舌打ちしたい気分だった。
「……折角のお誘いですけれど、遠慮させて頂きますわ」
 答えに、僅かな間があった。
 少しとはいえ、離れがたく思ってしまっている自分に、ペリーヌは驚く。
「そう? 残念だな」
 そして、クルピンスキーは驚くほどあっさりと、引いてしまった。てっきり食い下がってくるとと思っていただけに、肩すかしを食らう。
「じゃあね、また縁があったら」
 片手を上げて、颯爽とその場を後にする、クルピンスキー。
 風に乗ったコロンの香りだけが、その場に残っていた。

 どうしてこんなことに、とペリーヌは思う。
 見慣れぬベッドに、見知らぬ女と同衾している。裸で、だ。
 クルピンスキーの寝顔は、子どものように、無邪気だった。
 それを眺めながら、ペリーヌは昨夜のことを思い出し、赤面する。
 はしたない。あんな声、あんな顔、あんな姿を、知り合って間もない人間に見られるなんて。昨夜のことを思い返す度に、消えてしまいたくもなる。
 しかし、どこか憑き物が落ちたような気分になっているのも事実である。
 腹立たしいことだが、ペリーヌのここまでの醜態を見た人間は、このウィッチが初めてだった。
 あれだけの痴態を見せたからには、ちょっとやそっとの弱みなど、どうということもないという気がする。
 英雄としてでもなく、領主としてでもなく、弱く情けないペリーヌをしっている人間がいる。本来は必死になって消さねばならない汚点が、今はペリーヌにとって救いであった。
 クルピンスキーは、ペリーヌの危ういところを見抜いて抱いたのか、それとも単純に抱きたかっただけなのか。どんな思惑であったかはわからない。
 どちらでもよかった。
 たまになら、この女と関係を持っても良いという気もする。
 あばずれのようだと自嘲するが、自分の醜態を知り尽くす人間に甘えられるというのは、弱い自分にとり、この上ない魅力である。
 だが、ペリーヌは思う。
 恋人にはなれないな、と。
 色事に疎いペリーヌですら、わかることだった。クルピンスキーは、深い仲になればなるほどに、相手を駄目にする女だ。
 懐が広すぎるのも、考え物だ、
 ペリーヌはもう一度、瞼を閉じた。
 たまになら、良い。
 たまになら、情けない自分も許そう。
 ゆっくりと、朝日の中の微睡みへ、ペリーヌは落ちていった。


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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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