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ダブルマインド


 その日、私と芳佳ちゃん、静夏ちゃんは並んで料理をしていました。
 静夏ちゃんはアシスタントで、芳佳ちゃんや私の手捌きを見て勉強するつもりだと言っていました。頑張りやさんの静夏ちゃんは、見るのも一生懸命で、その真剣な表情は健気で可愛くて、ついつい眺めていたくなってしまいます。
 ただ、芳佳ちゃんがやらなければ覚えない、と言って野菜の皮むきなどの簡単な役割を任せたので、今はもっぱら、ジャガイモの皮むきをやっていました。
「ね、ねえ、リーネちゃん……。静夏ちゃん大丈夫かな……」
 芳佳ちゃんが不安げに、私に視線を向けます。
 私もまったく同じことを考えていて、静夏ちゃんの危なっかしい手元から、なかなか視線を逸らすことができませんでした。
 そうしているうちに、お昼の時間は迫ってきます。遅れたら大変。私たちは急がないといけなくなってしまって、自分の手元に集中しはじめました。そのとき。
「痛っ!」
 静夏ちゃんが、声を上げました。
 見ると、人差し指の先から、血が零れています。
「あっ! だ、大丈夫!?」
 初めての後輩であり、どこにでもついてくる妹のような静夏ちゃん。可愛くて可愛くて仕方がない様子の芳佳ちゃんは、慌てて駆け寄りました。
「見せて!」
 そして、静夏ちゃんの手を取るや、傷を改めた芳佳は、そのまま口に含んでしまいました。
 慌てたのは、静夏ちゃんです。
「み、宮藤さん! き、汚いです!」
 わたわたと指を引き抜こうとする静夏ちゃん。芳佳ちゃんはなかなか手を離そうとはしなくて、ようやく離れたとき、指先の血はにじむ程度になっていました。
「あ、そっか。最初から治癒魔法かけてあげればよかったんだ」
「そ、そうですよ! もう魔法力はあるんですから!」
「えへへ、ごめんね。つい、魔法力がなかった時の癖で」
 はにかみながら、芳佳ちゃんは、静夏ちゃんの指先へ青い光を浴びせます。
 ……いいなぁ。
 私の中で、そんな声がしました。

 いいなぁ。
 いいなぁ。
 芳佳ちゃんにあんなに心配されて、静夏ちゃんはいいなぁ。
 私も怪我をして、慌てて手を取って欲しい。
 そのまま口に含んで、はにかんだ顔を向けてほしい。
 いいなぁ。羨ましいなぁ。
 私も、怪我をしたらいいのかな。
 そう考えた時、既に包丁は、私の手のひらに突き刺さっていた。

「り、リーネさん!?」
 ちょっとぼーっとしてたみたい。
 静夏ちゃんの慌てた声で、私ははっと意識を取り戻した。
「あ、ごめんね。ぼーっとしてて……。どうしたの、静夏ちゃん」
「そんなこと、いってる場合じゃないです! 宮藤さん! は、早く!」
「う、うわあ! リーネちゃん、大丈夫!?」
 二人は大慌てで、私の腕を握っています。
 どうしたんだろう?
 ゆっくりと視線を下ろすと、手のひらから血が滝のように流れ落ちているところでした。
「…………」
 声が、出ません。
 私はそのショッキングな光景に、情けないことに、貧血を起こしそうになりました。
 慌てて、静夏ちゃんが背中を支えてくれて、転ばずにはすんだけど。少し跳ねた血液が私の顔に跳ね、生暖かい温度を伝えてきます。
「す、すぐに治してあげるから!」
 蒼白な顔で、芳佳ちゃんが叫びます。
 すぐに、治癒魔法で手のひらの傷はなくなりました。
「もう! 気をつけなきゃだめだよ!」
「うん、ごめんね、芳佳ちゃん……」
 謝りながら、私の頭の中では、傷をなめてもらえなかったことを、少しだけ、残念に思う気持ちが渦巻いていました。

 それから数日。
 私の頭の中では、その時のことが頭から離れなかった。
 静夏ちゃんの傷は舐めたのに、私の傷は舐めてくれなかった。
 静夏ちゃんの方が心配だったの?
 私より、静夏ちゃんなの?
 私を心配してよ。
 もっと、もっと、私を心配して?
 そして、私だけを心配してくれたら良い。
 今日は、私と芳佳ちゃんだけが買い物当番。
 私が運転手で、芳佳ちゃんはナビゲーター。
 車を離れるとき、私はこっそり、運転席のドアに剃刀の波を貼り付けた。

「ちょっと買いすぎちゃったかな」
 私と芳佳ちゃんは、食べ物のぎっしりと詰まった紙袋を抱えて、車に帰ってきました。
 予算ぎりぎりまで使ってしまったことを、芳佳ちゃんは気にしているようです。
「大丈夫だよ、みんなたくさん食べるもん」
 私はフォローを入れてあげました。
 実際その通りで、皆さんたくさん食べますから、食料はいくらあっても多すぎるなんてことはないんです。
「ふぅ。これで全部?」
 車のトランクになんとか押し込み、芳佳ちゃんが汗を拭います。
「そうみたい。お疲れ様、芳佳ちゃん」
「お疲れ様は帰ってからだよ!」
「あ、そうだね」
 私たちは顔を合わせて笑い合いました。
「じやあ、帰ろっか」
 そう言って、私が運転席のドアに手をかけたとき、唐突に、指に鋭い痛みが走りました。
「痛……っ!?」
 慌てて手を離すと、親指を除く四本の指が一直線に切り裂かれ、血をあふれさせています。
「どうしたの!?」
 芳佳ちゃんがすぐに駆けつけてくれ、手当てをしてくれました。
 どうして、こんな傷が……。
 得体のしれない怖さに背筋を寒くしていると、芳佳ちゃんがその原因を見つけてくれました。
「……なに、これ」
 テープで固定された、剃刀の刃。
 悪戯にしては、悪質です。
 どうして、私たちの車に……。
 辺りを見回しても、おかしな様子はありません。
「どうしよう、芳佳ちゃん……」
 怖い。
 心細い。
 一体誰が、何のためにこんなことをしたんでしょう。
 震える私の手が、温かい体温に包まれました。
「芳佳、ちゃん……」
「こんな酷いこと、絶対に許さない」
 真剣な目が、私に向けられています。
「帰ろ、リーネちゃん。私が二度とこんなこと、させないから」
 何よりも頼もしい言葉です。
 私は、とても温かい気持ちになりました。
 帰りの車の中では、私のためだけに怒ってくれた芳佳ちゃんを横目で見ながら、とてもとても、幸せな気分でいられたのです。


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まとめ【ダブルマインド】

 その日、私と芳佳ちゃん、静夏ちゃんは並んで料理をしていました。 静夏ちゃんはアシスタントで、芳佳

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