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写真盾


 ビューリングは煙草を吸っていた。
 硬い木の椅子に、疲れた身体を任せながら。
 煙を吐き出した。
 口先の灰は、だいぶ長くなっている。
 そろそろ、灰を落とそう。
 ビューリングは視線をテーブルに落とした。
 目の前のテーブルには、冷めたコーヒーと、読みかけの本、それから何かの鍵や、数枚の硬化といった細々としたものが散らばっている。それに紛れて、伏せられた写真盾があった。
 だが、灰皿がない。
 どこにやったのだろう?
 本を持ち上げ、コーヒーカップをどかし、コインや鍵を一つにまとめ、テーブルの上を一通り整理したが、灰皿は見つからない。整理しながら写真盾を起こしてみたが、写真は入っていなかった。
 不味いな。
 ビューリングは、心の中で呟いた。
 灰を散らかすと、怒る奴がいる。灰皿を取ってくる手間よりも、彼女の機嫌を取る方が、余程面倒だと学んでいた。だから、灰皿は絶対に忘れないはずだった。
 辺りを見回すが、それらしいものはない。
 立ち上がって探そうとしたが、身体がやけに重く、だるかった。
 そうしている間にも、煙草の先は、どんどん灰色になっていく。
「あ……」
 ぽとり。
 折れて、灰が落下した。
 怒られるかな。
 言い訳を考えておいた方がいいかもしれない。
 弱気なことを思ったが、そんな必要はなかった。
 灰は、横から差し出された灰皿に、上手く落ちていた。
 視線を向けると、小さな女の子がいた。
 両手で灰皿を差し出して、見事に灰をキャッチしたのは、彼女だった。
 少女は繊細な黒髪を、眉の上で直線に切りそろえていた。その背には、全く癖のない髪が、腰まで伸びている。顔立ちは、どこかで見たことがある気がした。
「めっ!」
 柳の眉をしかめて、少女は怒った顔を作っていた。
 その様子が愛らしく、叱られたのだということに、ビューリングは中々気付けない。
 ようやく詫びの言葉を入れたのは、少女の切れ長の目に、涙が浮かんでからだった。
「悪かった」
 少女の頭に、手を乗せた。
 さらさらとしていて、撫でていて気持ちのいい頭だった。
 少女はくすぐったそうにはにかみ、あっという間に機嫌をなおしてしまった。
「ありがとうな」
 そう言って、ビューリングは少女の小さな手から、灰皿を受け取った。
 少女はまだ、灰皿を差し出した体勢のままだったのだ。
「たばこはよくないよ」
 灰皿を渡しながら、おずおずと、少女はビューリングを見上げた。
 彼女は、椅子に腰掛けたビューリングより、さらに小さかった。
 はっとするほどに小さく、儚げな少女。だが、守ってやらねばならないと思うのは、それだけではないという気がする。
 どうにも、頭が上手く回らない。
 身体の倦怠感もそのままだった。
「そうだな」
 ビューリングは、火をつけたままの煙草を、灰皿に押し付ける。
 体調がよくないのかもしれない。
 たまには、娘の忠告に従うのも良いだろう。
「……? 何?」
 ビューリングの口から、独り言が漏れた。
 娘。今自分は、この少女を娘と思ったのか。
 何かがおかしい。
 そもそも、この娘は、誰だ?
「どうかしたの? ママ」
 待て。
 待て。
 待て。
「お前、何しに、来た……?」
 ビューリングの口から出たのは、ほとんど呻き声だった。
 少女はきょとんとした顔を浮かべた後、思い出したと言うように手をたたき、笑顔を浮かべた。
「お母さんが、ママを呼んでこいって言ってたの!」
「お母、さん……?」
「そうだよ?」
「お父さん、じゃないのか……?」
「うちにお父さんはいないよ? 変なママ」
 そう言って、少女はくすくすと笑いを漏らした。
「ちょっとトモエー? いつまでかかってるの?」
 その時、部屋の外から声がした。聞き覚えのある声。
「あっ! お母さん!」
「ま、さか……」
 かたん。
 テーブルの上で、何かが倒れた。
 写真盾だ。
 恐る恐る、ビューリングは手をかけた。
 写真の入っていない、空っぽのはず。
 ゆっくりと起こす。
 一葉の写真。
 そこには、ビューリングと少女、そして、智子がいた。
 下方には青いインクの走り書き。
『トモコと、トモエと、ビューリング。親娘三人で。』

「……っ!!!」
 ベッドから飛び起きたビューリングの全身は、汗に濡れていた。
 周囲はまだ暗く、秒針が時を刻む音だけが、室内に響いていた。
「ゆ、め……」
 荒い息をなんとか落ち着けながら、確かめるようにつぶやく。
「……死にたい」
 いろんな意味で。
 ビューリングは頭を抱え、そのまま朝を迎えた。


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