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から騒ぎ


 朝早く出勤していく両親の代わりに、妹のエイラを起こすのは、アウロラの役割だった。
 食事を用意して、牛乳を温めて、それから起こしに行く。
 軍に入った後、野戦食くらいは作れるようになるアウロラだが、この当時はまだ入隊しておらず、簡単なサンドイッチくらいしか作れなかった。それでも、コーヒー替わりのホットミルクと一緒に、エイラは美味しそうに平らげてくれたものだ。
 エイラの寝覚めは悪い。何度起こしてもなかなか起きない。抱き上げて朝食の前まで連れてきて、そのにおいで起こすことも珍しくなかった。週に三日、自分の足で部屋から出てくれれば良い方だ。
 しかし、これだけしておきながら、アウロラは面倒や飽きといった感情を抱いたことがない。こうして毎朝起こすのが楽しみですらある。
 例え過保護と言われようとも、妹の天使のような寝顔と、小動物のようにむにゃむにゃと寝ぼける顔を眺める度、この子の姉に生まれて良かったと、アウロラは両親に感謝するのだった。
「エイラ、入るよ」
 咳払いを二回。それからシャツの襟を整えて、アウロラは室内に入った。
 妹の前では、格好良い姉でありたい。声が上ずったり、シャツの襟が立っているなど言語道断。幼い頃のアウロラは、常々そう考えていた。
「エイラ、起きなさい。エイラ」
 アウロラは、ベッドにゆっくりと近づく。
 頭まですっぽりと毛布をかぶったベッドの上の膨らみは、ぴくりとも動かなかった。
(妙だな……?)
 アウロラは違和感を感じた。
 何度声をかけても、寝返りひとつ打たないのはいつも通りなのに、何故か違和感を拭えない。
「エイラ?」
 そっと、肩口の当たりに手をかけた。
 ぐにゃり。
 エイラの肩が、潰れた。まるで綿でも入っているかのような柔らかさだった。
「……!?」
 驚き、慌てたアウロラが、勢い良くシーツをめくり上げると、そこにはちょうどエイラと同じくらいの大きさの、トントゥのぬいぐるみが横たわっていた。
 柔らかいはずだ。アウロラが掴んだのは、そのぬいぐるみの肩だったのだ。
「!? ……!?」
 困惑で、声も出ないアウロラ。
 トントゥのぬいぐるみは、先日エイラにせがまれて、両親が買い与えたものだった。エイラは気に入っていたが、あまりにも大きすぎ、部屋から持ち出すことが出来ず、抱きまくら変わりに使っていたものである。
 しかし、エイラは何処に?
 慌てて周囲を見回しても、エイラが隠れている様子はない。
 ベッドの中、ベッドの下、クローゼット、机の下は言うに及ばず、天井板を外し、床板を剥ぎ、壁に穴を開けてみても、エイラは見つからなかった。
 それからしばらく、アウロラは懸命の、そして破壊的な捜索活動を続けたが、最終的にエイラは室内にいないと結論付けざるを得なかった。
 一体何処へ……。
 血の気の引ききった顔で、アウロラは居間に戻った。
 そこには、すっかり冷めたミルクと、パンが乾いてパサパサになり始めたサンドイッチが、そのままに残されている。
 もしかしたらすれ違って、先に朝食をとっているのではないか……。そんなアウロラの淡い希望は、あっさりと打ち砕かれたことになる。
「エイラ……」
 アウロラの口から、弱々しい声が漏れた。
 外か、外にいるのか。
 しかし、寝坊助のエイラが、自分から起きて勝手に外を出歩くものだろうか。
 となると、誰かが連れ出したことになる。
 誘拐。
 嫌な言葉が、アウロラの脳裏をよぎる。
 両親が連れて行った、ということはありえない。アウロラは出勤する二人を見送ったし、「エイラをお願いね」と母からしっかり言いつかっている。
 となると、連れ出したのは家族以外の誰かということになる。
 ……しかし、両親やアウロラにまったく気付かせず、エイラを連れ出すことなど、可能だろうか?
 家はそこまで広くはなく、古い床は歩くと音を立てる。熟睡するエイラを連れ出すのは簡単かもしれないが、誰にも気付かせないとなると相当難しい。扶桑という東方の国には、ニンジャという隠密行動を生業とする超人達がいると聞くが、それでもない限り、不可能ではないか。
「エイラ……っ」
 苛立ちが、募る。
 アウロラは立ち上がった。
 探しに行かなければ。
 あてはない。それでも行かねばならないと、アウロラは決めた。
 どの道、黙って家の中にいても、見つからないのは同じ事なのだ。
 アウロラは準備をするべく自室へ戻った。わずかに残っていた冷静さが、コートや、その他の防寒具を取りに戻らせた。エイラが見つかるまで、帰るつもりはない。いつまでかかろうとも見つけてみせる。そのためには、途中で倒れるようなことがあってはならないのだ。
 貯金箱を壊して小銭を取り出し、母親のお下がりの財布に詰めた。それからポケットナイフに、食料替わりのキャンディー数個。エイラの写真も持って行かなければ。
 それらをポケットに詰め込み、自室を見回した。
 しばしの別れとなる。
 寂寞とした思いに囚われた。
 これからしばらく、目にすることはない光景だ。本棚に収まった絵本や、ウィッチの伝記も。机の上に散らばる教科書たちも。窓際にある、不細工な犬の置物も。そして、何よりも大切な、最愛のエイラの寝姿とも。別れだ。次に会うのは、何時になろう……。
 アウロラはそれらを目に焼き付けた。
 特に、最愛の妹の、寝顔を。
「……って待て待て待て待て。おかしいだろ」
 アウロラは首を振った。
 視線の先には、今まさに探しに行こうとしていたエイラが、アウロラのベッドに収まって、すやすやと寝息を立てていた。
「お前なぁ……」
 がくり。
 全身から力が抜けた。
 何のことはない。アウロラが起きた後、エイラがこちらの布団に潜り込んでいただけだったのだ。
「お前、お前ぇ……」
 どれほど、起こして文句を言ってやろうかと思ったかしれない。
 しかし、無理だった。
 エイラの寝姿は、まさに、天使そのもの。
 それを見たアウロラの口からは、ため息以外、出てくる筈もなかった。


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