スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女以外には荷が勝ちすぎるその不運


 その夜、サーシャは星を見上げていた。
 時計の針は十一時を指している。
 あと一時間。あと一時間で、ニパの誕生日が来る。
 サーシャの気持ちは晴れなかった。
 一年に一度の大切な日。その日ですら、あの少女は不運であるに違いない。
 出来ることなら、変わってやりたかった。一日くらい、誕生日の日くらい……、曇りがちなあの顔を、晴れやかな笑顔にしてやりたい。
 神様。
 思いつくだけの神様の名を並べ立て、サーシャは手を組んだ。
 何でも良い。一日だけ、彼女に祝福を。
 俯いて瞼を閉じたサーシャの頭上で、流れ星が一筋、山の向こうへ流れていった。

 目を覚まして、まず感じたのは違和感だった。
 サーシャは身を起こし、身体を改めたが、原因はわからず首をひねるばかり。
 体調が悪いわけではない。どこかに傷が出来ているわけでもない。
 ただただ、身体が重かった。疲労や体調不良からくる倦怠感ともまた違い、なにか、分厚い膜のようなものが、身じっとりと体にまとわりついているような、とにかく不快な重さだった。
 出来ることならば、このまま横になって一日を過ごしたい。真面目なサーシャには、珍しくも怠惰な欲求が首をもたげていた。
 しかし、普段謹直だからといって、許されることでもない。ニパにプレゼントも渡したい。
 サーシャは自分の身体を引きずるようにして、無理やりベッドから立ち上がった。
 その時だ。
 サーシャの足が、床に吸い込まれた。
「いったぁ……!」
 日頃から、弱くなっていた床板を、踏み抜いてしまったものらしい。
 サーシャは痛みに眉を寄せながら、ゆっくりと足を引き抜いた。
 傷を改める。骨に異常はないようだが、踏み抜いた際、割れた床板が引っかいたような傷をつけていた。それに加え、小さな木片がいくつか、ふくらはぎに刺さっているようでもある。
 痛みでくらくらとする頭を押さえつつ、サーシャは応急処置のため、棚にある救急箱の取っ手に手をかけた。
 だが、その救急箱には鍵がかかっていない。
 その状態に気づかぬまま、蓋についた取っ手を持ち上げたものだから、当然のように中身が床に散らばった。鋏は床に突き刺さり、瓶は割れ、包帯は床に白い線を引いた。
 その光景があまりに派手だったため、サーシャは救急箱の隣に置かれていた、紙袋が一緒に落下したことに、まったく気づかなかった。そのまま、紙袋には、薬品が染み込んでいく。
 片付けをしている時間はない上、救急箱がこの有り様では手当てもできない。手早く着替えを済ませたサーシャは、医務室で手当てしようと、部屋を出ようとした。
 が、今度は扉が開かない。
 建て付けが悪く、開け閉めがし辛いと常々思っていたが、開かなくなるというのは予想外だった。
 押しても引いても、動く気配はない。
 破壊するわけにもいかず、仕方がなく蝶番を外して出ようとしたところで、サーシャは手を止めた。
「そういえば、昨日はハンガーに工具一式を置いて……」
 作業を途中できりあげたため、再開しやすいよう部品と一緒にしていたのを、思い出したのだ。手元には、ドライバーの一本すらないということになる。
 まったく、頭を抱えたくなるような事態だった。実際、サーシャは頭を抱えてうずくまった。
 ため息が出る。
 何か変わりに使える道具はないか、と当たりを見回したところで、あるものを見て、サーシャの血の気が引いた。
 先ほど床にぶちまけた、救急箱の中身。その当たりは今、薬品で水たまりになっているのだが、そこにあるものを見た。
 あるものとは、下側をたっぷりと薬品に浸からせた、紙の袋だった。
 棚の上に置いていたはず。なぜ、こんなところに。
 水色の袋を、サーシャは震える手で拾い上げる。
 恐る恐る中をのぞくと、中には毛糸のマフラーが入っている。
 サーシャが手ずから編んだ、ニパへの誕生日プレゼントだった。
 運のないニパが、せめて風邪をひかないようにと、寝る間も惜しんで編んだものである。
 しかし今は、薬品に濡れ、顔を背けたくなるようなにおいをさせていた。これでは、贈るわけにはいかないではないか。
「そんな……」
 サーシャは目に涙を溜めながら、呆然と紙袋に視線を向けていた。

 ベッドの中で、サーシャは勢いよく身を起こした。
 当たりはまだ暗い。時計の針は、三時を指している。
 早鐘を打つ心臓。サーシャは目尻の涙を拭った。
 枕元のスタンドに、灯りを灯す。
 恐る恐る床を見ると、穴はどこにも空いていないし、ぶちまけられた救急箱の中身もどこにもなかった。棚には水色の紙袋と救急箱が仲良く並んでいるし、工具箱も机の上にある。
 ようやく、サーシャは夢を見ていたことを知った。
 夢とはいえ、あんなに運がないとは、まるで誰かのようだ。
 そこまで考えて、サーシャははっとした。
 運のないところを変わってやりたいと、寝る前に願ったのは自分だったではないか。
 手当たり次第にお願いした神様のうちの誰かが、夢の中だけ叶えてくれたのか。
「…………」
 サーシャは黙然と、夢を思い出した。
「変わるのは、なしにしましょう」
 正直、あれが続いては、生きていける気がしない。
 もっと身の丈に合った、助け方があるはずである。
「もう少し、優しくしてあげた方がいいかしら……」
 夢の中とはいえ、苦労の一端を味わったのである。今までより甘くなるのは仕方がないと、いいわけめいたことを考えた。
 とりあえず、もう少しだけストライカー壊しは大目に見てあげよう。
 再び布団に潜り込みながら、サーシャは決めていた。


スポンサーサイト

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

萩原間九郎

Author:萩原間九郎
スオムス文庫やってます。

ご意見感想その他何かありましたら、以下のアドレスか、メールフォームをご利用ください。

hanzou.oohara鼎gmail.com
(鼎を@に変えてください)

管理画面

来客数
Twitter
スオムス文庫目次

クリックするとSSのリストが開きます。

※印のついているものはR-18です。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

リンクに間違っている箇所がありましたら、お手数ですがお知らせお願いします。

【スオムス文庫@501】

【スオムス文庫@502】

【スオムス文庫@504】

【スオムス文庫@いらんこ中隊】

【スオムス文庫@スオムス】

【スオムス文庫@その他】

【スオムスいらん子中隊涙する】

【Strike Witches 1947 - Cold Winter -】

【学パロ】

【各種サンプル(ストライクウィッチーズ)】

【死にたがりの赤ずきんと気の長い狼の迂遠な関係】

【オリジナル】

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。
カテゴリ
最新記事
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
月別アーカイブ
最新コメント
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。