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持たざるもの


 器用に立ち回るのは、好きではなかった。
 自分を曲げ、人にへつらい、筋を曲げる。そんな生き方は、ビューリングのそれではない。
 媚びるのは、何よりも嫌いだ。
 娼婦のような笑顔で歓心を買うくらいなら、死んだ方がましとすら思う。
 そんな生き方をするビューリングを、人は奇人と嘲う。
 上等だ。
 ビューリングはその評価に満足していた。
 少なくとも、ビューリングに人並みの媚を求めたりはしない。
 人が避けてくれれば、それだけ人に関わる面倒事も避けられる。
 背負うものが無いのは、とても楽なことだ。
 そういった思いは、大切なものを失う度に、加速していった。
 持たざるものは、失わない。
 ビューリングの思想とは、そういうものだった。

「……」
 息も切れ切れに、ビューリングはスラッセンの街を歩いていた。
 周囲からは好奇の視線を向けられ、居心地悪いことこの上ない。
 もしもビューリングが身軽であったなら、汗を流しながら歩くことも、悪目立ちすることもなかったろう。
 だが、この日は一人ではなかった。
 背中に、酔いつぶれた智子を背負っている。
 ビューリングの顔の横で、すやすやと酒臭い寝息をたてる智子は、重荷以外の何物でもない。
 それを何故放り出さないのか、ビューリングが一番困惑していた。
 疲れた身体に染みるなどと言い出し、調子に乗って度数の高い酒をがぶ飲みして潰れた挙げ句、起きろと言っても起きないのであれば、あとは自分の責任ではないか。ビューリングの知ったことではないはずだ。
 それを放っておけなかったのは何故か。
 わからない。まったく理解できない。
 自分の中の理性が、愚か者と罵る。そして今からでも遅くない、どこか宿屋に預けて一人で帰れと勧めてくる。それを、感情が頑なに拒否していた。
 結局、悪態を吐きながら智子を背負い続ける。
 吐き気がするのは、酒のせいだけではないだろう。
 今、自分はらしくないことをしている。
 その意識が、ビューリングの中で強烈な不快感を発している。
 度し難いことに、智子を背負うことを、ビューリングの感情は喜んですらいる。
 何故、何故、何故。
 ビューリングの理性に、感情は言葉を与えてはくれなかった。
 歩いていると、ベンチが見えた。
 ビューリングは智子を下ろし、ベンチに座らせた。……といっても、泥酔して脱力した智子である。両腕をベンチの背もたれの後ろに回し、それが支えになっている。座らせたというよりは、引っかけたという方が正しいかもしれない。
 何でも良い。
 とにかく、煙草だ。
 火をつけたビューリングの肩に、智子が頭を乗せた。
 むせた。何度も咳をして、視界が涙に滲んだ。何度も何度も、煙草の火が消えるまで、ビューリングはむせた。目尻からは、涙が流れている。
 煙草のせいだ。
 そうに違いない。
 決して、絶対に、断じて、智子のせいではない。
 そう言い訳して、捨てられない自分から、ビューリングは目を背ける。
 捨てられないから、持ちたくない。
 ビューリングは、臆病な自分と、向き合うことができなかった。

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テーマ : 二次創作:小説
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