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虎を飼う気持ち(企画:百合でキス22箇所)


 昔から、虎を飼う大富豪の気持ちがわからなかった。
 だって、危ないじゃないか。
 なんかじゃれつかれただけでも殺されそうだし、そもそもほんとに懐いてるかどうかなんてわからない。気がついたら頭をがぶり、なんてことだって、ありえるわけだ。所詮は畜生、何を考えてるかなんてわかりはしない。
 まあ、大富豪の知り合いなんていないから、ほんとに虎を飼ってるかなんて、知りはしないのだけど。庶民的な親戚の中で一番景気のいいおじさんだって、精々が市議会の議員止まり。うちの父親に至っては公務員だ。……別に、公務員をバカにしてるわけじゃない。中流階級の象徴みたいなものだから、対比に出してみただけ。
 ともかく、私のようなド中流の感覚と、大富豪の感覚とでは全然世界が違って見えるわけだ。
 まったく理解が及ばない。
 しようという気になっても、どうにもならない。
 だから。
「福島さん、私と付き合ってください!」
 そう言われて、私は非常に困ってしまった。

 一八〇センチにも届こうかという巨体。
 金色に染めた固そうなベリショの髪。
 切れ長の目と、高い鼻、そして大きな声。
 部活中に抜け出してきたらしく、バスケ部のユニフォームを来たまま顔を赤らめたこの女から、同性の私が告白を受けたのは、夏休みを目の前にした、終業式の日の夕方だった。
「すみません、高城先輩。仰ってる意味がよく……」
 二五センチ近い身長差があるため、私は高城を見上げることになった。
 屈辱的だ……。
 高城は一個上のいわゆる先輩だが、心の中でまで先輩をつけて敬ってやる気にはならない。
 中学あたりから唐突に厳しくなる上下関係に、表向き適応してはいるけれども、内心ではスポーツバカというやつを、先輩後輩関係なく大いに馬鹿にしていた。
「いや、その、私の彼女になってくれないかって、そういうことなんだけど」
 もじもじと巨体を揺らす高城。
 まったく可愛げがない。
 格好良いとか、美人だとか、周囲では高城をそう評する声がある一方、私が持っている印象は、まったく別のものだった。
 猛獣。
 もしくは、虎女。
 威圧感のある外見といい、活発過ぎる性格といい、ぴったりだと私は思う。
 苦手だし、ちょっと怖い。
 友人としても出来れば遠慮したいタイプだ。
 それが、カノジョ?
 絶対にノーだ。
「すみません、私、女性と付き合うのはちょっと……」
「う……っ」
 拗ねたように私を見る高城。
「ですけど先輩なら考えなくもないというかなんというか……」
 その視線が怖くて、私はあっというまに前言を翻してしまった。
 馬鹿! 私の馬鹿!
「ほ、本当!?」
 高城は過剰に反応して、私の肩に掴みかかった。
 ぎゅっと握られたところが痛い。
 一体握力何キロあるんだ? 骨が折れるかと思った。
「え、ええ、まあ、考えるだけ……」
 必死に顔を背けながら、言葉を濁す。
 高城の目はぎらぎらと猛獣じみた光を放っていて、とてもじゃないが視線を合わせられない。
 怖すぎる。
「返事もらえるまで、待つから」
 そう言いつつ、高城は手を離さない。
 何が何でもこの場で返事を言わせるつもりなのだ。
 私の進退は極まった。
 さっき弱気になってあんなことを言った私を呪いたい。
「え、ええと……」
 なんと答えたものか。
 なんと断ったものか。
 高城の、顔が近い。
 虎の口に頭を突っ込んだような気分だ。
 そんな状況で妙案など浮かぶはずもなく、誰か来てくれないかなぁ、などと他人任せな考えばかりが去来する。
 ああ、もう、やだ!
 全部放り出して逃げたいが、高城の瞬足から逃れられるはずもなく、そもそも肩をつかむ手すらふりほどけないのだから、手詰まりだ。
 こんな状況でうまく断る方法があるなら、是非教えてほしい。十万までなら出すから。
 そんな私に、ついに痺れを切らせたのか、高城が口を開いた。
「ねえ、考えるってことは、私に脈があるってことだよね」
「え、ええ、まあ……」
「なら、ちょっと強引に、私のものにしていい?」
 と、とんでもないことを言い出した……。
「そ、そういうのは……」
 私は蚊の鳴くような声を出すのが精一杯だった。
 やばい。
 本気で怖い。
 膝が震えているのがわかる。
 今高城が手を離したら、私は地面にへたり込んでしまうだろう。
 高城の顔が近づいて来る。
 私はぎゅっと、目をつぶった。
 肩から手が離れ、変わりに私を抱きしめる。
 流行りの制汗スプレーの匂いがした。
 顔に、手がかかり、上を向かされた。
 何をされるかわからなくて、瞼にさらに力が入る。
 喉に、柔らかな感触。
 抱きしめていた腕が、解かれた。
「え……」
 ぺたり、と地面にへたり込む私。
「……ごめん」
 恐る恐る見上げた先で、高城は気まずそうに、視線をそらしていた。
「本当は、キスしようと思ったんだけど」
 背筋を冷たいものが伝った。
 あの状況でキスは強姦に等しくはないか……。
「でも、ごめん、その、なんかいきなりはだめかなって、その、喉の方に、ちょっと、しただけだから」
 え。
 え、ええ?
 されたの?
 喉とはいえ、キス?
「おでこは、なんか気恥ずかしかったし、喉ならいいかなって……」
 いや、まったく基準がわからない。
 それ以上にテンパった頭が状況を理解してくれない。
「返事、後でまた聞きにくるから」
「え、ちょっ、ちょっと……!?」
 そうしている間に、高城は身を翻して駆け去った。
 自分からやっておきながら、耳まで真っ赤になっていたのが、妙に印象的だった。

 後々、私はキスする部位に意味があることを知った。
 雑誌のコラムに載っていたのだが、喉にキスした場合は欲求を意味するらしい。
 高城は、それを知らずに喉にキスしてきたのだろうが、欲求というあたり、妙に野性味があるというか、獣じみているというか、高城らしいと言う気がした。
 次に答えを聞きに来たとき、教えてやろうか。
 答えすら決まっていないのに、なんとなく、それを楽しみにする私がいた。


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