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実は嫌です


 エーリカが珍しく真剣な表情をしているかと思えば。
「トゥルーデ、別れよう」
 付き合ってもないのに、別れ話を切り出された。
「もうトゥルーデには付き合ってられないの!」
 それはこちらのセリフだと、バルクホルンは思う。
 朝は起きないし、部屋は滅茶苦茶だし、ミーティングには遅刻するし、菓子がきれると駄々をこねる。それに一々付き合ってやっているのはこちらの方である。
「朝は起こしにくるし、部屋が汚いってうるさいし、ミーティングに遅れると怒るし、お菓子買ってくれないし! 付き合わされる身にもなってよ!」
「言い分がおかしいとは思わんのか!?」
 なんの遊びだ。
 露骨に苛々とした顔を、バルクホルンは浮かべた。
 仮に付き合っていたとして、エーリカの自堕落さはこれまで通りに違いなく、そうなれば別れて困るのはエーリカの方だ。
 別れ話を切り出す権利があると思っているのか?
 ……そもそも、付き合っているわけではないのだが。
 ともかく、こんな話題で愉快になれようはずはない。
 バルクホルンが睨みつけると、エーリカは姿勢を正し、ひた、とこちらに視線を合わせてきた。
「私の要求はひとつです」
「……ほう。言ってみろ」
 我慢だ。
 我慢しろ。
 こちらは年長者だ。
 ここで大声を上げるのは大人気ないではないか。
 バルクホルンは自分に言い聞かせた。
 だから、我慢。我慢するのだ……。
 エーリカが、口を開く。
「しんどいので、もっと甘やかしてください……」
「こっの馬鹿者がァ!!!」
 無理だった。

「あっトゥルーデ」
 廊下で会っても無視。
「トゥルーデトゥルーデ、ご飯の時間だよー」
 部屋で話しかけられても無視。
 一々注意されるのをうるさいと感じるなら、これで満足だろう。
 バルクホルンはエーリカに視線を向けることすらしなかった。
 だからエーリカがどのような表情を浮かべているのかわからない。
 傷ついた顔を浮かべているのかもしれないし、まったく普段通りなのかもしれない。
 どちらが良いというものでもないが、傷ついた顔をしてくれた方が、自分にとっては救いがある。
 そう考えて、バルクホルンは首を振った。
 別に傷付けたいわけではないのだ。
 ただ、自分が少し本気で怒っていることを、態度で示そうとしているだけ。
 ……子どもじみているだろうか。
「あ、あのさ……」
「…………」
 無言。そして足早に、何かを話しかけようとするエーリカの前を通り過ぎる。
 若干の、自己嫌悪。
 何に怒っているのか、自分ですらよくわからない。
 ただ、考えれば考えるほど許し難いことを言われた気がして、エーリカと話すきっかけを見失った。
 エーリカがちゃんとしていればいいのかというと、そんなことはないらしい。
 無視し始めてからのエーリカの生活には改善が見られるが、逆に、それを見るほどバルクホルンの苛立ちは募った。
 自分は何が言いたいのだと、まったくやりきれなかった。

「トゥルーデ」
 夜。
 ベッドに入ったバルクホルンは、震えた声を聞いた。
「怒ってる?」
 怒っているとも。
 寝たふりをしながら、バルクホルンは眉根を寄せた。
「何に怒ってるの」
 わからないと、謝れないよ。
 エーリカのか細い声に、バルクホルンの心が揺らぐ。
「教えて。教えてよ」
 無理だ。
 わかっているなら、バルクホルンも悩んだりはしない。
「私がちゃんとしなかったから?」
 そうかもしれないが、そうじゃない気もする。
「私がわがまま言ったから?」
 それもある、のかもしれない。
「別れようっていうのが、嫌だった?」
 ……そんなことは、ない。
「トゥルーデ、許してよ……」
 別れようと言われたから怒っているとか、まるで自分がエーリカに執着しているかのようではないか。
 依存しているのはエーリカの方であって、自分ではない。付き合ってもないのに別れようと言われたところで、痛くも痒くもない。
「そっちいってもいい?」
 バルクホルンは無言を通した。
 だが、拒否されなかったのをいいことに、エーリカの気配が近付いてくる。それはベッドの脇で止まり、ぺたりと床に座り込んだようだった。
「トゥルーデ、私、お別れしたくない」
「…………」
「トゥルーデは私と別れたい……?」
 無視、できなかった。
 かといって、どう答えればいいかもわからない。
 出てきたのは、中身のない、この場にそぐわない一言だった。
「そもそも、付き合った覚えはない」
「関係ないよ、そんなの」
 それを一蹴して、エーリカは続けた。
「トゥルーデは別れたい?」
「……さあ、な」
「別れたい?」
「わからん」
「別れたくない?」
「それも、わからん」
「じゃあ、私、いなくなってもいい?」
「それは……」
 嫌だ。
 癪だが、嫌だ。
「いなくって欲しいんだ」
 そんな、そんなわけ。
「……わかったよ」
「……っ」
 まったくの、無意識。
 気がついた時には、立ち上がりかけたエーリカの腕を掴んでいた。
「そういうことを、言うんじゃない……」
 バルクホルンはやっと、それだけを言った。
「私にいなくなってほしくないの」
「そんなわけ、ないだろう」
「じゃあ、別れたくないんだ」
「いや、それは……」
「別れたくないんだ?」
「……そうだ。そうだよ。別れたくない」
「そっかぁ……!」
 暗闇の向こうで、エーリカが笑ったのがわかる。
「んもう。トゥルーデは素直じゃないなぁ……!」
「……知らん」
「私もね、別れたくなかったよ」
 もう二度とあんなこと言わない。
 付け加えられたエーリカの一言で、バルクホルンの胸のつかえは、なくなった。


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