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スオムス文庫 エイゲル-1-1『トレジャー』

「起きろエイラ!エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉!」
 まだ日も昇らないうちに、私は凛とした声で叩き起された。
「誰だよもー……」
「私だ」
 顔を上げると、バルクホルン大尉が腰に手を当て、私を見下ろしていた。
「大尉か……」
「頼みがある」
「あと3時間したら聞く……」
「頼む、今聞いてくれ。
 お前しか頼れんのだ……!」
 大尉は眉間に皺を寄せ、その表情は真剣そのものだ。
 ……いや、しかめっ面はいつものことか。
 だが、どうにも帰ってくれそうにない。
 仕方がなく、身を起こした。
「おお、聞いてくれるか」
「聞くだけだかんな……」
「実は、な……その、なんだ。無いんだ、あれが」
「無い?」
 大尉は顔を赤らめ、もじもじしている。
あれって……ははん。なるほど、そういうことか。
「ズボンなくしたのか」
「な、何故それを!?」
 図星だったらしい。
 あたふたと慌てた大尉は、側にあった椅子に引っかかってすっ転んだ。
手を貸して助け起こす。
「さ、流石だな」
「褒めても何も出ない……って、あれ?大尉、ちゃんとズボン履いてるじゃないか」
「何を言っている?当たり前だろう」
「ズボンなくしたんじゃないのか?」
「そうだが?」
 ……んん?
「なくしたのは、クリスのズボンだ」
「ぶっ」
 危うく、私は叫ぶところだった。(なんて叫びそうになったかは、想像にお任せする)
しかしこの人が病的なまでに妹を溺愛していることは知っていたが……これほどまでとは。
 明らかに重篤患者じゃないか!
「ま、待て!誤解するな!私
 は決してやましい気持ちでクリスのズボンを所持していたのではない!!」
「どうだかな……」
「ええい、話は最後まで聞け!」
「ふーん……」
 大尉曰く。
 いいか、エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉。
 私を妹に対して異常な感情を抱く異常者と思ってもらっては困る。
 私は姉として、妹を愛しているだけだ。いついかなる状況でも妹に不自由をさせない。
 それも姉として当然の勤めであり、愛だ。
 クリスのズボンを所持していたのもそのためでしかない。
 いつクリスが退院し、ここロマーニャに来てもいいように準備だけは怠るまいと、
 常日頃からクリスの衣類は買い足しているのだ。
 今回のズボンもその一つで、当然未使用(ここをやたらに強調)だ。
 だが、衣類が大分溜まってきたので、クリスが着られるうちに送ってやろうと思い立ってな。
 クリスは成長期だから、すぐに着られなくなってしまう。
 それではクリスも悲しむだろう。
 私としても、クリスが大きくなってくれるのは嬉しいが、
 その成長をこの目で見届けられないのはいささか心残りでもあるな……。
 せめて、着るものくらいは用意してやりたいものだ……。
 そういえば、先日宮藤に頼んだクリスの服は実に良かった。
 宮藤はセンスが良い。
 今度一緒にローマに行って、アドバイスを貰いたいな。
 とにかくだ。
 そういう理由で夜通し荷造りをしていたのだが……どういうわけか、ズボンだけ見当たらない。
 お前の占いで見つけることは出来ないか。
 私の予想だとハルトマンの方にあると思うが、何分あのゴミ山ではな……。
以上、原文ママでお送りしました、と。
「大尉……いつも報告は明瞭かつ簡潔にって言ってるのはだれだっけ」
「うぐ……っ。
 と、とにかく、どうなんだ!
 やるのか!やらないのか!!」
「そんなに怖い顔すんなって……やってやるからさー……」
 本当か!と顔を綻ばせる大尉。
 この人がこんなに面白い人だったなんて、501に入隊した当時は想像もつかなかったな。
早速ダウジングロッドを取り出した私は、大尉の部屋へ向かった。
大丈夫か?大丈夫なんだろうな!?と声をあげながら後ろを着いてくる大尉。
 この人、いつだったか宿舎で騒ぐのは軍規違反だーって言ってなかったっけ?
扉をあけて部屋に入ると、早速ロッドが反応した。
「む。部屋の中にあるみたいだぞ」
「やはりハルトマン側か……!」
「いや、これは大尉の方だな」
「何?」
 ロッドは部屋を二分する線(ジークフリート線と言うらしい)の、右側を示していた。
 私はロッドに引っ張られるように、部屋の奥へと進む。
「ここだ」
 ゴールは大尉のクローゼットだった。
「ち、ちょっと待て!そこは!!」
 大尉の慌てたような声が聞こえたが、私は勢い良く扉を開けた。
「……なんだこれ」
 扉の中にあったのは服ではなく、大量のアルバム。
 背表紙には501のみんなの顔写真が張り付けられていた。
見たいような、見たくないような……。
 嫌な汗が頬を伝う。
好奇心に負けた私は、宮藤の顔写真が貼られたアルバムを手にとった。
「そこまでだ、中尉」
 開こうとした瞬間、後ろから強烈な気配を感じてアルバムを取り落とす。
 これは、殺気……!?
「お前のお陰で、クリスのズボンは見つかった。
 私としたことが、ここにしまったのを忘れていたようだ」
 威圧感を含んだ、脅すような声。
「そ、それはよかったんだな……」
「どうやら、このクローゼットに物をしまうと、不思議と忘れてしまうらしい」
「そうらしいな……」
 私の予知は、頭を殴打されて物理的に記憶を消されるとか、
 窓から放り投げられるとか、このクローゼットにしまわれるとか、絶望的な未来しか告げてくれない。
「なぁ、エイラ。
 お前も私の可愛い妹たちの一人だ。
 手荒な真似はしたくない。
 だが、時には姉妹喧嘩だってするだろう。
 私は望まないが、お前にその気があるのなら、付き合ってやるのも姉の勤めだ。
 さて、お前はどうしたい?
 お姉ちゃんに言ってみなさい……」
 いかに未来が見えていても、圧倒的な力には抗い得ない。
 私は恐怖に震えながら、その真理を受け入れた。
「いい子だ。
 それではエイラ中尉。
 退出してよろしい」
 私は生きているという実感を噛みしめつつ。駆け足で部屋を後にした。
アルバムを取り落としたとき、ちらっと見えた宮藤の写真に肌色が多かったのは、忘れることにした。



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