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スオムス文庫 芳イラ-3-1『マグカップ』

 朝食の後は皆、思い思いに動き始める。
ある者は仕事へ、ある者は鍛錬に。
 またある者は金魚の糞よろしく付いて行き、さらにある者はまだ起きていない相方を叩き起しに行く。
私は今日は基地待機であって、細々とした仕事を片付けるだけの、割と退屈な一日だ。
「ミヤフジー。コーヒー」
「はーい!」
 仕事と仕事の間の、微妙な空き時間をどう埋めるか、予定を決めるべく思案していると、
ガチャン、と何かが割れる音がした。
その方向を見ると、青い顔をしたミヤフジが立ち尽くしている。
「どうしたんだ?」
「あ、エ、エ、エイラさん……。そ、その……ごめんなさい!」
 肩を震わせ、立ち尽くすミヤフジ。
その足元には、私のお気に入りのマグカップが、無残な姿で褐色の液体に浸っていた。
 このサウナ妖精のイラストが描かれたマグカップには、思い入れがある。
 子どもの頃から使っていたし、原隊にいた頃はもちろん、今の今までずっと一緒に過ごしてきた、
家族のようなものだった。
とはいえ、壊れてしまったものは仕方がない。
 かなり年季が入っていたし、そのうち黙っていても壊れただろう。
 急な別れではあったが、割とあっさり受け入れることが出来た。
「怪我無いか?ミヤフジ」
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
 うわ言のように謝りながら、ミヤフジが素手で破片を集めようとしたので、私は思わず、
「よせ!」
 と叫び、ミヤフジの腕を強く握ってしまった。
私としては、ミヤフジに怪我をして欲しくない一心だったのだが、
急だったせいで、少々言い方が乱暴になってしまった。
ミヤフジは萎縮したように私を見つめ、やがてぽろぽろと、涙を零した。
「あ……ご、ごめんな。痛かったか?」
「い、いえ……」
「破片は私が拾うから。まぁ、その、気にすんな」
 力なく頷き、立ち去るミヤフジ。
 極力やさしく言ったつもりだったが、落ち込ませてしまったらしい。
まずったなぁ……。
何となくバツが悪いまま、私は事故現場を片付けた。
 食堂を見回すと、誰もいない。
 リーネあたりがミヤフジを連れ出してくれたのだろう。
 それから空き時間になる度、私はミヤフジを探した。
 本当に気にしていないのだと、伝えてやりたかった。
 頑固なミヤフジの事だから、結構時間を取られるだろう。
 それも見つけてからの話だが。
 そうしてミヤフジ知らないか、と訪ね歩いては仕事の時間になりを繰り返し、
 結局見つけられないまま夕方を迎えた。
私は夜間哨戒に出るサーニャを見送り、この日最後の雑務を片付け、部屋へ戻った。
夕食までは時間がある。
このままベッドに横になって時間潰すってのもな……。
 そうだ。
 試しに、ミヤフジの居所でも占ってみようか。
カードを取り出すと、タイミング悪く、扉がノックされた。
「どーぞ」
 今朝の教訓があるので、気をつけて、静かに言う。
「失礼します……」
 所在なさ気に入ってきたのは、ミヤフジだった。
まだ少し、目の周りが赤い。
 一日泣いてたのかな。
 そう思うと、なんだか申し訳ない気分になる。
「あ、あのっ!その、エイラさん……。カップ、ごめんなさい……」
「いーって。気にすんなって言ったろ?私こそ怒鳴っちゃってごめんな」
 立ち上がり、ミヤフジの側へ行く。
私は不器用だから、言葉を並べ立てて気持ちを分からせるのは苦手だ。
 だから、黙って頭に手を置き、撫でてやる。
 目を合わせ、にひっと笑ってやる。
 ミヤフジはようやく、はにかむような笑みを浮かべてくれた。
「まったく……。朝も私は気にすんなって言ったろ?
 それでこんなに落ち込んでさ。馬鹿だなーおまえ」
「だ、だって!」
「ふふーん。
 どーせお前、一日中どうしよーって泣いてたんだろ」
「ち、違います!私泣いてなんかいません!」
「ドーダカナー」
 良かった。いつも通りだ。
私はわしわしとミヤフジの頭をこね回しながら、安堵した。
ミヤフジが笑顔じゃないと、張り合いがないしな。
そのまましばらく私がからかって、ミヤフジが元気に否定する、ということを繰り返していたが、
 突然ミヤフジが黙ってしまった。
「どうした?」
 また、私が何か言ってしまっただろうか。
「その、エイラさん」
 戸惑いつつも、ミヤフジは手に持った箱を差し出してきた。
 私は首をかしげながら受け取る。
 ずっとミヤフジの表情ばかり気にしていたから、
 手にこんなものを持っているなんて全く気がつかなかった。
「これ……」
 箱を開けると、中には黒猫のプリントされたマグカップが入っていた。
「エイラさんのカップ、私が割っちゃったから……」
 ミヤフジは言葉を切り、不安気に見上げてきた。
そっか。
 これ買うために、今日は基地にいなかったのか。
 大事な休暇を、こんなことのために使うだなんて。
 私はため息を吐き、
「馬鹿だなぁ」
 ミヤフジの頭をくしゃくしゃにしてやった。
「わっ!ち、ちょっとエイラさん!!」
 抱きしめてやりたい気分だったが、流石にそれはサービスしすぎだろう。
「ありがとな。嬉しいよ」
手を止めて、ミヤフジの大きな瞳を覗き込み、
 今度はちゃんと伝わるよう精一杯の気持ちを込めて、言ってやる。
 恥ずかしそうに俯いたミヤフジは、なにやらもごもご呟くと、素早く回れ右して駆け出ていった。
ちゃんと、伝わってたらいいんだけど。



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