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スオムス文庫 定クル-1-1『貴族と兎』

 何気なく歓談室の前を通ると、こちらに背を向けたソファーから、黒いブーツがはみ出していた。
誰かしら?
 って、考えるまでもない。
 大きなソファーから足が出る位の身長がある人は、一人しかいない。
背もたれから覗き込むとやはりそこにいたのは、”伯爵”クルピンスキー中尉だった。
「……中尉?」
 返事はない。
軍服ではなく、シャツを一枚というラフな服装のの中尉は、眼を閉じ、静かな呼吸を繰り返していた。
どうやら眠っているらしい。
間近で中尉の顔を眺めるのは初めてだ。
少し癖のある金色の髪。
 日に焼けているのに、全く荒れていない艶やかな肌。
 そして、いつもは笑みを絶やさない、柔らかそうな唇。
いけない。
見ていて、少しばかりもやもやしてしまった。
 私の好みは、管野さんやサーシャ大尉のような可愛らしい人であって、
 中尉のような人にもやもやする事は滅多に無いのだが……。
いや、仕方が無いのかもしれない。
だって、今の中尉は日頃見せる余裕たっぷりの笑みなんて全く無くて、
 すやすやと眠る様子は子どものよう。
なんだかこのまま立ち去るのが、凄く勿体無いような気分になってしまった。
「どんな夢を見てるんですか?」
 ソファの背もたれに肘をつき、そっと話しかける。
「誰と一緒なんですか?お友達ですか?
 それとも、厳しい上官さん?嫌な人じゃないといいですね……」
 答えが帰ってこないのをいい事に、どんどん話しかけてみる。
少し、中尉が笑った気がした。
「楽しい、夢なんですか?」
 私は手を伸ばし、中尉の髪を撫でた。
癖があって、中々楽しい。
 指に絡めて遊んでみた。
 お風呂上りらしくて、シャンプーのいい匂いが鼻をくすぐった。
それでも中尉は一向に起きる様子がなくて、私のもやもやは深まるばかり。
しかし流石に、上官に手を出すわけには行かない。
 例えそれが女遊びの激しさで、”伯爵”とあだ名されるような人であってもだ。
私は中尉の頭を持ち上げ、自分の太ももに乗っけてみた。
こうしていると、なんだか恋人みたい。
髪を撫でていると、ちらっと中尉の胸元が眼に入った。
 結構大きいのよね……。
そういえば、中尉は今、凄くラフな服装なんだった。
もやっ。
いやいや。いけないいけない。
だが、一度気付いてしまうと、中々忘れることは出来ないもの。
ちょっとだけ、ちょっとだけ……。
顔は胸元に生じた隙間を覗き込もうと、高度を下げていく。
ちゅっ。
何かが頬に触れた。
慌てて身体を起こすと、中尉は目を開けていて、少年のように微笑んでいる。
顔を真赤にする私に、中尉は、
「意外と悪戯っ子なんだね」
 なんて楽しげに囁いてきた。
「い、いつから起きてらしたんですか……」
「君が部屋に入ってくる前から、かな?」
「最初から知ってたんじゃないですか……!」
「いやぁ。どんな目で見られてるか知りたくて。ついつい狸寝入りを、ね」
 膝枕のまま、愛惜しむような手つきで、私の頬を撫でてくる。
「でも、そんな目で見てくれてたんだね。嬉しいな」
 うっとりした目で見つめつつ、静かに、情熱的に言葉を紡ぐ”伯爵”。
 歯の浮くようなセリフでも、この人が言うと様になってしまう。
それがこの人の武器なんだ。
 私は逃げ出したくて仕方がなかった。
 でも、太ももを抑える中尉の頭が、それを許してくれない。
「もう少し、こうしていてくれるかな。
 気持ちがいいんだ。柔らかくて、あったかい」
 私は頷いた。いや、頷かされた。
この人にこう言われて拒否できる人は、相当な精神力の持ち主に違いない。
 例えば、昔の上官の坂本さんとか。……いや、あの人はそれ以前の問題か。
「ねぇ、今夜私の部屋に来てくれるかな?」
「えっ」
「オラーシャの冬は、寒いよ。扶桑よりもずっとね」
 拒否したい。
 したい、けど……なんか、勿体無いような……。
悩む私に、”伯爵”は追い打ちをかけようと口を開いた。
その時だ。
「あ、いた!おい!下原!」
 突然元気な声が、静かだった歓談室を震わせた。
ビクっと体を震わせ、慌てて後ろを振り返ると、小さな管野さんが仁王立ちしている。
 中尉は私だけに聞こえるように、
「ナオちゃんが今の私達を見たら、どう思うかな?」
 なんて、楽しげに言ってきた。
そんなぞっとしない状況に陥るなんて、絶対に嫌……!
「今日メシの当番だろ?早くしてくれよ!訓練ですっかり腹が減っちまった!」
「あ、い、いいい今すぐ行きます!」
「……?どうした?」
 不審げに眉を寄せる管野さん。
ああ、こんな表情も可愛いなんて。
「何でもありません!
 すぐに準備しますから、食堂で待っててくださいね!」
「おう!早くしてくれよな!」
 言うが早いか、菅野さんはたたっと歓談室から出て行った。
「ふぅ……」
「残念だったね」
「もう……いい加減にしてください」
 中尉はやっと身を起こし、私を開放してくれた。
「ナオちゃんは定ちゃんの扶桑料理を楽しみにしてるしね。奪っちゃ可哀想でしょ」
「ありがとうございます……」
 やっと開放された……。
危うくもう一押しで、撃墜されるところだった。
 これは管野さんに感謝しないと。
だが、そんなことを考えていた私の耳元で、
「今夜。待ってるからね」
 伯爵閣下は上機嫌に囁いたのだった。



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