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スオムス文庫 ジョゼニパ1-1 『指輪の写真』

「はあ……」
普段は微笑みを絶やさないジョゼなのだが、何故か今日に限っては、空っぽのロケットを開いたり閉じたりしつつ、しきりに溜息を付いていた。
同僚のクルピンスキーに言わせれば、可憐な少女に溜息を吐かせるのは、いつだって恋の悩みである、とのことらしい。
信憑性はともかく、この日のジョゼに対しては、実に的を射た意見であった。残念なことに、本人も恋だとは、自覚出来ていないのだが。
ふとした瞬間に何をしているのかな、なんて思ったり、ついつい目で追ってしまったり、怪我をして帰ってくると、頭の中が真っ白になる。
 不思議だなぁ。その程度の認識である。
「ニパさん……」
 名前を呼ぶと、渇きとも、空腹とも似た切ない痛みが、胸の奥で疼く。
切ないなぁ、なんて独り言を零しても、痛みは増すばかりだった。
しかし、ここまで来て気づかないジョゼも大概だが、思われ人のニパとて、その鈍さたるや相当なものだ。
ニパに思いを寄せているのはジョゼだけではないのだが、当人は全く気付く素振りも見せず、日々怪我しては一部の人間を泣かせている。
その上、自分に心配される価値なんてないと、諦めてすらいるのだ。
危なっかしくて、なんだか守ってあげたくなる。
とっかかりはそこなのだが、何度考えても恋の一字に辿りつくことはなく、これが母性なのかな、なんて的はずれな事ばかり考えているのだった。
それはさておき、今日はジョゼの誕生日である。
夕食はロスマン曹長と、下原少尉が腕によりをかけて作ってくれ、味といい量といい、実に素晴らしかった。
その上ラル隊長とクルピンスキー中尉は上等な酒を、サーシャ大尉、管野少尉、ニパ曹長は大きなケーキを作ってくれた。
普段は前線だからと、食べ足りない思いを我慢していたジョゼも、今日は心ゆくまで食べることができ、幸せをご馳走と一緒に噛み締めたのだ。
しかし、腹がいっぱいになっても満たされないのはどういうわけだろう?
一人部屋に帰り、何となくもやもやしたままに、ニパの事を考えていた。
そして思い出したのが、件のロケットである。
休暇の日、街をぶらついていたジョゼが一目惚れして買ったものだ。
決して安くはなかったが、
「恋人との写真を入れるなら、安いものは使えないよ。これくらいじゃないとね!」
 なんて、店のおじさんに勧められ、ついついその気になってしまったのだ。
最初の頃は、ニパとのツーショットを入れたら、と考えるだけで幸せだった。
いつかニパに声をかけて、一緒に写真を取らせてもらおう。
いつか。いつか。いつか、いつか、いつか……。
そうこうしているうちに、なんだか最近サーシャ大尉との関係は妖しいし、管野少尉とは仲が良さげだし、
 クルピンスキー中尉の過剰なスキンシップの的にされるしで、もう自分を見てくれる可能性なんて、1%もないんじゃないだろうか……。
結局、未練がましくロケットの蓋を開閉するのが精一杯で、折角の誕生日もまた、悲しい気分で終えることになりそうだ。
もそもそと、涙をこらえつつ、ベッドに潜り込む。
慣れたものだ。毎晩の事なのだから……。
おやすみなさい、届くはずのない人へ、小さく呟いた。

うとうとしつつ、今日のニパの行動を思い出していると、扉がノックされ、
「ジョゼ?起きてる?」
 続けてニパの声で、幻聴が聞こえた。
寝ぼけてるのかな。いや、もう寝ちゃってて、夢を見てるのかも。
「ジョゼー?」
 ジョゼはがばっと飛び起きた。
違う!夢じゃない!
大慌てて明かりをつけ、鏡で寝ぐせが付いていないかをチェックする。
寝ぐせなし、隈なし、ニキビなし。よし!
「寝ちゃったのかな」
「い、いえ!起きてます!」
 ジョゼは息を切らし、慌てて扉を開けた。
ニパは一人、驚いたように目をぱちくりさせている。
「あ……」
「ご、ごめんね、こんな夜におしかけちゃって……」
 心から申し訳ない、というように呟いた。
ああ、可愛い。抱きしめてしまいたい。
治癒魔法を使ってもないのに、身体が熱くなった。
「そ、その、中、入りませんか」
「あ、うん。お邪魔します……」
 部屋の中は少し寒い。ストーブを消していたからだ。
ストーブをつけるついでに、お茶も入れよう。何がいいかな。寝る前だからカモミール?
自分がはしゃいでいることにも気づかず、ジョゼは活き活きとお茶の準備を始めた。
ニパはといえば、少し所在なさ気に、初めて入るジョゼの部屋を見回している。
それがまた、不安がっている小動物のようで、なんとも言えない愛嬌があった。
「あ、お構いなく……」
「良いですから良いですから」
 お茶を出せば、少なくとも飲み終わるまでは部屋にいてくれるだろう。おかわりを飲んでくれれば、もう少し一緒にいられる。
なんとも都合の良い目論見ではあるが、ジョゼは真剣そのものだった。
「あ、ありがとう……」
 ニパはおずおずと口をつけ、美味しい、と顔を綻ばせる。
よく考えればジョゼより1つ、いや、2つ歳下なのだ。普段の諦念の滲みでた表情より、少女のような笑顔が似合うのは当たり前の事だった。
「それにしても、急に来てくれるなんて。一体どうしたんですか?」
「……あ、そうだった」
 ニパは目的を忘れていたらしい。ゴソゴソとポーチを漁ると、中から木製の、小さな輪っかを取り出した。
「それは……?」
「いや、その、ジョゼって今日誕生日だっただろ?みんな食べ物がプレゼントだったけどさ……。
 でも、ジョゼも女の子なんだし、流石に食べ物だけのプレゼントってのもどうかなって……」
 ジョゼは今更ながらに衝撃を受けた。
普通の女の子は、満腹になるだけの食事をプレゼントされても、それだけでは満足しないものなのだ。
戦地暮らしが長いせいで、満腹への憧ればかりが募り、普通の少女というものを忘れてしまっていた。
ニパはジョゼが冷や汗をかき、
「こんなことではいけない……。こんなことでは……」
 なんて、ぶつぶつ呟いていることに気付きもせず、
「だからさ、その、汚くて申し訳ないんだけど、指輪、作ってみたんだ」
「へっ?」
 ニパは手のひらに乗った木製の輪を差し出した。
そっとつまみあげてみると、それは正しく指輪で、内側には小さく「ジョゼ、誕生日おめでとう」と書かれていた。
「うわっ。うわっ。うわああああああっ」
 ジョゼは感激のあまり、身悶えした。
普段の彼女にはありえない挙動だが、ニパはジョゼの顔が笑顔なのを見、安心しきっていた。
泣きそうなくらい嬉しい。
そんな事を考えているジョゼに、
「あ、じゃあ着けてあげるね」
 なんて、容赦のない追い打ちをニパは仕掛けてくる。
ニパはそっとジョゼの手に、自分の手を載せ、ゆっくりと指輪を……。
 すかっ。
「あ、あれっ……!?」
 指輪を何度も指の根本までおろすが、きっちりはまらず、スカスカと上下を繰り返すばかり。
まぁ、それもそうだろう。ちゃんと測ったわけでもなければ、ジョゼの指をしっかり観察する機会があったわけでもないのだから。
ニパはもう涙目で、どうしようどうしようと繰り返しながら、無駄な抵抗を繰り返している。
ジョゼは立ち上がり、ニパの手から指輪を取り上げた。そして、なにやらごそごそと引き出しを漁ると、
「どうですか?似合います?」
 腕を広げてみせた。
ニパはわけが分からず、ポカンとしている。
「ほらっ」
 ジョゼは、自分の胸元を指さした。
「……あっ!?」
 銀色の鎖がニパの指輪に通され、ジョゼの胸元に収まっている。
「すごく嬉しいです。その、大事にしますね……」
 指輪を愛しそうに撫でるジョゼに、ニパは顔を赤くし、ただただ頷くばかりであった。

その翌日から、その指輪はジョゼのお守りになった。
元の鎖の主であるロケットは捨ててしまったけれど、胸元の指輪を見れば、あの晩のニパのいろんな表情を、写真よりも遥かに鮮明に思い出すことが出来る。
今までで、一番の誕生日だった。



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テーマ : 二次創作:小説
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